モト・グッツィV7スポルト(6MT)
より楽しく 味わい深く 2026.03.18 試乗記 イタリアの名門、モト・グッツィのマシンのなかでも、特に歴史を感じさせるのがロードスポーツの「V7」だ。ファンに支持される味わい深さはそのままに、よりスポーティーにも楽しめるようになった最新型の実力を、上級グレード「V7スポルト」に試乗して確かめた。愛がなきゃできない
実はライターのゴトー、モト・グッツィ(以下グッツィ)の縦置きVツインが大好物である。
欧米のバイクメーカーは、自分たちのアイデンティティーとして、歴史あるエンジンのレイアウトを大事にしている。モト・グッツィの場合は、縦置きのVツインがそれだ。しかも多くが空冷のOHVである。このエンジン、形だけでなくフィーリングが実にいい。性能や効率を追求していくと、ときとしてエンジンの味わいが失われてしまう場合もあるが、グッツィのVツインは、昔ながらのツインの鼓動感や排気音、力強さが残っている。いや、昔よりも強くなってきているくらいだ。
「基本設計が古い」なんて言う人もいるのだけれど、とんでもない。環境規制への対応が求められる現代において、こういうエンジンのフィーリングは、つくり手に大事に育てていこうという強い意志がないと、消えてしまうものである。このエンジンを厳しい規制に対応させながら、性能や楽しさも進化させるのがどれほど大変なことか。「もうムリ!」ってラインナップから消されてしまった、歴史あるバイクの数々を見ればわかるではないか。技術だけではない。愛がなければできないことである。
そんなグッツィのラインナップのなかで、V7はスタンダードなカテゴリーに属するバイクだ。クラシカルなネイキッドスタイルで、パワーは控えめ。Vツインの排気音と鼓動感はあるが、ほかのモデルが可変バルブ機構などを搭載してビッグツインの力強い走りを楽しめるようになっているのとは対象的に、マッタリとしたエンジン特性だった。
もちろん、十分といえば十分なパワーを持っているし、急(せ)かされない感じがいいというライダーも少なくない。実際、ゴトーの周囲にも「V7が好き」といって購入している友人がいる。ただ、個人的にはもう少しパンチのあるエンジンだったら、もっと楽しくなるんじゃないかと常々思っていた。
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スペックには表れないエンジンの進化
たとえば、ほかのモト・グッツィのバイクを見ると、「V85」の可変バルブエンジンなんかは低回転の鼓動感も失われていないし、それでいてかなりパワフルだ。「V7も同じエンジンにしちゃえばいいのに」と考えていたのである。だから、V7が新しくなったと聞いたときは「やった。ついに可変バルブ搭載か!」と早とちりして喜んだ。
ところが、詳しく話を聞いてみると、可変バルブエンジンの採用はなし。スロットルをバイ・ワイヤにして、パワーをちょっと上げただけらしい。フレームの剛性強化などもあったようだが、基本的には大きく変わってはなさそうだな……と、若干がっかりした。しかし、これがとんでもなかった。スペックからは想像もつかないほどに進化していたのである。
試乗車は新規グレードのV7スポルト。倒立フォークや専用の電子制御を備えた上級モデルである。既存のラインナップとは最も異なる仕様のはずだったが、最初はやはり、またがってもエンジンを始動しても、従来モデルからほとんど変わっていないような気がした。しかしクラッチをつないで走りだした瞬間、「アレ? なんか力強くなってないか?」と思った。あきらかにトルクが増していて、気持ちよく加速してくれる。爆発力が強くなった感覚で、Vツインの鼓動感と排気音がさらに楽しめるのだ。思わず「おお、楽しいじゃねえか」とヘルメットのなかで叫んでしまった。
しかし、まだ先があった。開(ひら)けた場所で大きくスロットルを開けた瞬間、素晴らしい加速を披露してくれたのである。従来モデルは高回転まで回しても特に盛り上がりを感じることなく、ダラッと回転が上がっていく感覚だった(これがいいという人もいる)。ところが最新型は、中速から元気で実にシャープに回る。たった数馬力の出力向上で、ここまで変わるものか? いや、たぶん特性を徹底的に見直すことに重点を置いて、改良したのだ。結果として数値も少しだけ上がった、ということなのだろう。
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パワーでバイクをコントロールする
このエンジンのおかげで、ハンドリングにもスポーティーさが出てきた。バイクの姿勢をパワーでコントロールできるようになったからだ。もちろん、倒立フォークの採用による影響もあるのだろうが、エンジンの恩恵は大きい。
従来のモデルは、そこそこのペースでワインディングロードを走るぶんにはとても気持ちよかったのだが、そこからさらにペースを上げようとすると、なかなか手ごわいところがあった。細いバイアスタイヤや柔らかいサスペンションもあり、少しムリをすると挙動が不安定になることがあったのだ。
それが新型では消えた。性格が変わったのではなく、スポーティーな走りに対応できる深みが出てきたような感じである。そりゃあ、17インチラジアルみたいなグリップ感とか安定感はない。でも、ストリートではどうせそんな高性能を使い切るなんて不可能。だったら、細いバイアスの軽快なハンドリングと、中速から力がモリモリなエンジンを使ってコントロールするほうが楽しい……とゴトーは思う。以前からそう思っていたけれど、今回、V7スポルトに乗ってみて、さらにその思いを強くした。
いやあ、新しいV7、実に楽しいバイクになっている。しかしたぶん、多くの人は「パワーがちょっと上がっただけか」と思っていることだろう。ゴトー自身がそうだったのだから間違いない。なんかキチンと告知されていないことがもったいないと思う反面、モト・グッツィというブランドを思えば、「実際に乗れば素晴らしさがわかる」というだけで十分なのかもしれない。本当に好きな人にだけ熱烈に支持されてきたことで、現在まできているからだ。そういう意味でいえば、V7はグッツィのファンを裏切らないかたちで進化を遂げた。「最近のバイクはどうも面白くなくて……」なんて言う人がいたら、一度乗ってみることをおススメする。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=ピアッジオグループジャパン)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2165×--×1100mm
ホイールベース:1450mm
シート高:780mm
重量:220kg(燃料90%搭載時)
エンジン:853cc 空冷4ストロークV型2気筒OHV 2バルブ(1気筒あたり)
最高出力:67.3HP(49.5kW)/6900rpm
最大トルク:79N・m(8.1kgf・m)/4400rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.9リッター/100km(約20.4km/リッター、レギュレーションVO<EU> 168/2013)
価格:168万3000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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