スズキGSX-8T(6MT)
カッコイイだけじゃない 2026.03.25 試乗記 昨今のネオクラシックブームに乗り、いよいよスズキからも新型車「GSX-8T」が登場。しかし実車に触れてみると、既存のライバルとはちょっと趣の異なるマシンとなっていた。スタイリッシュないでたちとスズキらしい実直さが融合した、独創の一台を報告する。ネオクラシックというよりも……
ヨーロッパで長年親しまれてきた「SV650」系とは異なるアプローチで、スズキが新たに送り出したのがGSX-8Tだ。欧州・北米を中心に展開するミドルクラスのネオレトロとして登場したモデルであり、このカテゴリーに対するスズキの本気度が伝わってくる。
メーカーは「懐かしさをまといながら、次世代のパフォーマンスを融合したモデル」と位置づけているが、実車の印象は、過度にクラシックへ振ったものではない。丸型ヘッドランプやバーエンドミラーなどのレトロアイテムを取り入れつつも、全体としては非常に現代的で、端正なスタンダードネイキッドにまとまっている。
旧車好きなゴトーとしては、「『T500』をモチーフにして……」と聞いても「どこが?」と思ってしまうのだけれど、隠し味的なところがこのバイクのポイントなのだろう。レトロ味は薄めだが、イタリアのスタジオが手がけたというデザインもあって、たたずまいにはどこか上品さがある。
搭載されるのは、775ccの排気量を持つ270°クランクの並列2気筒エンジン。低中回転域の扱いやすさとトルク感を重視した特性が与えられており、日本仕様の最高出力は80PS/8500rpm、最大トルクは76N・m/6800rpmだ。数値が示すとおり、ピークパワー一辺倒ではなく日常域での力強さを重視した味つけ。実際に走らせると、ストリートでは非常に乗りやすく、それでいて十分以上にパワフルだ。とくに中速域のトルクの厚みが印象的で、ミドルクラスとは思えないほど余裕のある加速を見せる。最初に大きくスロットルを開けたときは「おお、はえー」と思ったほどだ。
スロットルを開けていくと6000~7000rpmあたりから回転上昇が鋭くなるが、そこで急に性格が変わるわけではない。全域でフラットにトルクを発生し、どこからでも自然に前へ出ていくし、その気になればシフトダウンなどしなくても、スロットルを大きくひねるだけで爽快な加速を味わえる。ストリートを楽しく走るのであれば、理想的な特性かもしれない。7000rpmあたりからはタンクやステップにごくわずかな振動が伝わるものの、気になるほどではなく、ツインとしてはかなりよく抑え込まれている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
トルクフルなバイクのだいご味
混雑した都心部を走っていて感じたのは、スロットルレスポンスの鋭さだ。ライディングモードで「A」を選ぶと反応がかなり機敏になるため、本領を発揮するのはワインディングロードなど、ある程度テンポよく走らせられる場面だろう。通常なら「B」モードを選ぶ機会が多くなりそうだが、それでも反応は十分にシャープな部類に入る。ドンツキ(スロットルを開け始めた瞬間に、ドンと反応すること)が出るわけではないが、スロットル操作に対する反応がリニアなうえに低中速トルクも豊かなので、ラフな操作をすると、それが車体の動きに出てしまうこともある。
クイックシフターはアップ/ダウンの双方に対応しているが、ある程度スピードが乗った状態での使用に適した設定だ。街なかをゆっくり流している場面でも機能してくれるが、ややショックを大きめに感じることもある。いっぽうで、発進時の「ローRPMアシスト」は非常に便利だ。意識していなければアシストされていることに気づかないほど控えめだが、スロットルに触れずクラッチレバーを離していくと、半クラッチ付近で回転がわずかに持ち上がるのがわかる。もともと低中速トルクが豊かなエンジンだけに、クラッチミートはとてもイージーだが、ゴー&ストップの多い市街地ではありがたさを実感する。回転を上げなくても、余裕ある発進ができるところも気に入った。トルクのあるバイクらしく、低回転でドカンと飛び出すのが楽しい。
リアのプリロードを除くとサスペンションに調整機構は備わらないものの、足まわりのセッティングはかなりスポーティーだ。フロントフォークは減衰がしっかり利いていて、ブレーキング時やコーナー進入時にも、姿勢変化は穏やかで安心感がある。ストロークして戻ってくる際の動きもしっとりしている。対してリアサスペンションは、スプリング設定が比較的ソフトで、よく動く印象。いっぽうダンパーの減衰はきちんと利かせてあり、ただ柔らかいだけではない。
高密度フォームのシートスポンジは硬めだが、都内の舗装路を走っている限りでは乗り心地が悪いとは感じなかった。むしろ余計に沈み込まないぶん、長時間でも疲れにくい印象だ。ただ、速度を上げて荒れた舗装や段差の大きい路面を通過したりすると、ややショックを感じる場面があるかもしれない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
実直でまじめなつくり込みが光る
ハンドリングは軽快で、なおかつスポーティー。今回は本格的なワインディングロードまでは走れていないが、車体の反応を見る限り、コーナーの続く道でも十分に楽しめそうな雰囲気だ。ABSの制御も好印象で、とくにフロントは介入が緻密で安心感が高い。リアはややパルス感が長めで、場面によってはキックバックを感じることもあるが、全体としては安定しており、繰り返しテストしても不安を覚えることは一度もなかった。
総じていえば、GSX-8Tは非常に完成度が高く、乗っていて楽しいバイクだった。ミドルクラスのネイキッドは、競合が多く、いまやどのモデルも高い完成度を誇る激戦区だが、そこにあってGSX-8Tの武器になるのは、扱いやすく力強い並列2気筒エンジンと、ライディングモードセレクター、トラクションコントロール、双方向クイックシフターなどに代表される充実した電子制御だろう。
見た目はネオレトロの趣をまといながら、中身はきわめて現代的。雰囲気だけで終わらず、実際の走りでもしっかり満足させてくれる一台になっている。 取り立てて目立つところはないけれど、なんか、スズキらしくて実直なバイクだなあと思った。鈴菌ライダーが乗ったら「やっぱりスズキ、いいバイクつくるじゃん」とニヤリとするはずである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=スズキ)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2115×775×1105mm
ホイールベース:1465mm
シート高:815mm
重量:201kg
エンジン:775cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:80PS(59kW)/8500rpm
最大トルク:76N・m(7.7kgf・m)/6800rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:23.4km/リッター(WMTCモード)
価格:129万8000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
BYD ATTO 3 EX AWD(4WD)【試乗記】 2026.11.3 BYDの「ATTO 3」がビッグマイナーチェンジで「ATTO 3 EX」に進化。EXは「EXTEND」「EXPLORE」「EXPERIENCE」を示すとのことだが、それはともかく、前輪駆動から後輪駆動に変わり、パワーも大幅にアップするなど、電気自動車(BEV)としての基本構造がまるで別物になっている。新たに追加された4WDモデルを試す。
-
トヨタ・アクアGRスポーツ(FF/CVT)【試乗記】 2026.11.2 「アクア」のビッグマイナーチェンジに遅れること10カ月。“最新のトヨタ顔”に変身したスポーツコンバージョンモデル「アクアGRスポーツ」が登場した。専用チューニングが施されたボディーや足まわりの仕上がりを、ワインディングロードに連れ出して確かめた。
-
ベントレー・コンチネンタルGT S(4WD/8AT)【試乗記】 2026.10.31 ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」にハイパフォーマンスバージョンの「S」が登場。すでにトップパフォーマンスモデルの「スピード」が存在するなかで、果たしてSはどんなポジションを担うのだろうか。試乗を通じて検証した。
-
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】 2026.10.28 「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。
-
ダイハツ・ミラ イースtuned by D-SPORT Racing(FF/5MT)【試乗記】 2026.10.27 ダイハツのベーシックな軽乗用車をもとに、ラリーやレース向けの競技車両に仕立てた「ミラ イースtuned by D-SPORT Racing」。軽量ボディーをロールバーで固め、力強いターボエンジンを搭載した一台は、クルマの楽しさを学べる教科書のような一台となっていた。
-
NEW
ポルシェの「ミッションS」にはどんなエンジンが積まれるのか
2026.11.4デイリーコラム「ポルシェ・ミッションS」はリアミドシップレイアウトの次世代スポーツカーだ。興味深いのは“「911」より上”とされる商品のポジションで、911といえば水平対向6気筒、ミッションSにはどんなパワートレインが積まれるのか。状況証拠をもとに検証した。 -
NEW
第135回:アウディデザイン水掛け論(後編) ―モアイ像か、怪物か アウディの未来を決める極限の選択―
2026.11.4カーデザイン曼荼羅「Q9」に「A2 e-tron」に「ヌヴォラーリ」と、方向性の異なるデザインを同時多発的に提案してきたアウディ。かつて先駆的な造形美で世界を瞠目させた彼らは今、どこへ向かおうとしているのか? カーデザインの識者と、フォーシルバーリングスの未来を考えた。 -
第348回:これでスーパーカーは完全に終わった!
2026.11.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。イーロン・マスクが宇宙ロケット技術をクルマに応用し空飛ぶクルマ「テスラ・ロードスター」を発表した。スラスターで姿勢を制御しつつ“飛行”する様子には度肝を抜かれ、「これでスーパーカーは完全に終わった」と思った。 -
多田さんが「わかってるね!」と感じるクルマの特徴は?
2026.11.3あの多田哲哉のクルマQ&Aトヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが、新型車に試乗して「このクルマの開発者はよくわかっているなぁ」と感じるのはどんな時か? “出来の違い”が出るポイントについて聞いてみた。 -
BYD ATTO 3 EX AWD(4WD)【試乗記】
2026.11.3試乗記BYDの「ATTO 3」がビッグマイナーチェンジで「ATTO 3 EX」に進化。EXは「EXTEND」「EXPLORE」「EXPERIENCE」を示すとのことだが、それはともかく、前輪駆動から後輪駆動に変わり、パワーも大幅にアップするなど、電気自動車(BEV)としての基本構造がまるで別物になっている。新たに追加された4WDモデルを試す。 -
いま軽自動車を選ぶなら、エンジン車とEVのどちらが得か? リアルな数値でコスパを比較・検証する
2026.11.2デイリーコラム海外ブランドまで参入するなど、近年活況をみせる軽EV。従来型の軽自動車と比べた場合の、コスト面の良しあしは? ホンダの2車種を例にとり、そのコストパフォーマンスを考えよう。
























































