今こそブランドの伝統と強みを前面に マツダと三菱のPHEVを乗り比べる
2026.04.01 デイリーコラムエンジン音を聞かせるマツダ
「バッテリーの充電はあえて45%にとどめてあります。満充電だとエンジンがかからないので」
日産のグランドライブで開催されたメーカー合同のEV取材会(前回の記事)で、マツダの広報担当者が「MX-30ロータリーEV」について説明した。奇妙である。日産が各メーカーに呼びかけ、スズキ、ホンダ、マツダ、三菱自動車、レクサスが電動車の自信作を持ち込んだ試乗会なのだ。静かで乗り心地がいいというモーター駆動のアドバンテージを競う機会なのに、エンジンに注目してほしいという。
MX-30には電気自動車(BEV)モデルもあったが、2025年3月に生産終了している。精妙な操縦性に感心したが、一充電走行距離が256km(WLTCモード)では販売を伸ばすことは難しかった。2023年に発売されたプラグインハイブリッド車(PHEV)のロータリーEVこそが、マツダらしさが詰まったモデルだと感じられる。日産の「e-POWER」と同じシリーズハイブリッドシステムだが、発電にロータリーエンジンを使うところに大きな意義があった。マツダの象徴ともいえるロータリーエンジンを11年ぶりに復活させたのだ。
満充電状態ならBEVと同様の静粛性が保たれることになるが、ロータリーエンジンの響きを味わってほしいというのがマツダの望みだった。試乗前のプレゼンテーションで各社が電動化技術の優位性をアピールするなか、マツダは「走る歓(よろこ)びで移動体験の感動を量産するクルマ好きの会社になる」という理念を提示した。MX-30ロータリーEVについては「100%モーター駆動による心地よい走りを、ロータリーエンジン発電でどこまでも」と表現する。
限られた時間なのでコースを1周しか試乗できなかったが、シリーズハイブリッドの強みを生かしたスムーズな走りを確認できた。同様のパワーユニットを搭載する「日産ノート」と似ているものの、明確な違いがある。ノートが遮音を徹底していたのに対し、MX-30ロータリーEVはエンジンを隠そうとはしない。アクセルを踏み込んでいくとロータリーエンジンの響きが伝わってきた。
マツダが持ち込んだもう1台のPHEVが「CX-60 PHEV」だ。こちらはパラレル式のハイブリッドシステムを採用しており、「環境に配慮できるEV走行から、モーターとエンジンによる力強い走りも提供」と紹介されていた。環境性能より走りのよさを強調しているように感じる。乗ってみると、印象としてはほぼガソリン車である。EV走行も可能だが、エンジンの存在感は絶大だ。制限速度100km/hの直線でフル加速すると、華やかなエキゾーストノートが響き渡った。
BEVらしさを追求する三菱
三菱自動車が選んだのもPHEVだった。「eKクロスEV」と「ミニキャブEV」という2種のBEVをラインナップしているのに、アウトランダーPHEVを持ってきたのだ。現在の三菱自動車では「エクリプス クロスPHEV」とともに主力モデルとなっていて、PHEV推しなのは理解できる。
興味深いのは、マツダのPHEVとは対照的な仕立てになっていたことだ。アウトランダーPHEVはコースを1周する間にエンジンが始動することはなかった。いや、静かだから気づかなかっただけという可能性もある。BEVと同じ運転感覚だったことは確かだ。同じPHEVでもマツダとは設計思想がまったく違うらしい。プレゼンでは「EVらしい走り」という表現を何度も使い、走行中のエンジン始動頻度を低減したことを強みとしてアピールしていた。
ハイブリッド車は内燃機関とモーター、バッテリーを組み合わせていて、さまざまなバリエーションがある。大きくシリーズとパラレルに分けられるが、トヨタの「THS」は両方を組み合わせたものだ。ホンダの「e:HEV」やルノーの「E-TECHハイブリッド」などの独創的なシステムが登場しており、効率や走行性能を競っている。PHEVは外部からの充電という要素が加わり、さらに複雑な構成だ。より自由度が高いといえるだろう。
マツダと三菱の考え方の違い
PHEVを名乗っていても、マツダと三菱自動車のクルマはまるで別物だ。根本的に発想が違うように見える。マツダ広報の辻本宏治氏は、クルマづくりのベースに「感動を量産する」という目標があると語る。
「プラグインハイブリッドが必要だとなったときに、CX-60という商品の特性から考えて走りのよさは不可欠です。燃費からいったら一部のお客さまからは物足りないかもしれないんですが、心躍る体験を大切にしたい。それがマツダらしさだと考えています」
マツダはカーボンニュートラルに向けて、「マルチソリューション戦略」を提唱している。トヨタの「マルチパスウェイ」と言葉は似ているが、内容はかなり違うようだ。
「一本足打法では難しいでしょう。ただ、トヨタのように世界を相手にするのではなく、一人ひとりのお客さまに向けて最適解を提供していきます。マツダの工場は多品種混流生産ができるのが強みですね。PHEVは『SKYACTIV-G』のエンジンがあったところにプラグインの技術を投入したわけです。先輩たちがつくり上げてきたものを継承していくことが大切ですから」
三菱自動車の電動パワートレインシステム開発に携わった石井大六氏は、PHEVに「i-MiEV」の経験が生かされていると説明してくれた。
「BEVが基礎になっていることは確かです。2013年に初代のアウトランダーPHEVを発売しました。4WDとEV技術を組み合わせた集大成で、世界初のPHEV技術を搭載したSUVです。それから改良を重ねてPHEVが三菱自動車のコア技術になりました。それによってエンジン車にもBEVにも技術を展開できるんですね。単純なBEVだけをつくっている新興メーカーより一日の長があると思っています」
電動化時代に生きるブランドの伝統と強み
マツダと三菱自動車は、それぞれが得意としてきた技術を核にして電動化戦略を練り上げてきたのだ。対照的なアプローチになったわけだが、共通しているのは風呂敷を広げるのは得策ではないという認識だ。どちらも会社の規模が大きくはないことを自覚していて、自分たちの強みを生かしたクルマづくりを選択しなければならないと考えている。
技術も市場環境も激変するなかで、スモールプレーヤーが生き残っていくには未来を見通す分析力と独自性を生かす明確な方針が必要だ。これからどうなっていくのかと問うと、石井氏は苦笑しながら答えた。
「5年後のことはまだ分かりませんね……。だって、5年前にSDVなんて誰も言っていなかったんですから」
正直な言葉だと思う。数年前に全面的なBEV化を宣言した欧州メーカーは、あっさりと方針を撤回した。先が見えなくても、手探りで現時点での最適解を求めていくしかない。電動化が進んでも、各自動車メーカーの伝統を生かしたオリジナル性の高いモデルをつくることはできる。マツダと三菱自動車のPHEVが鮮やかな対比を見せていたことで、そう確信した。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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