ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)
元祖のプライド 2026.04.18 試乗記 2016年に上陸した2代目となるボルボのフラッグシップSUV「XC90」の最新アップデートモデルに試乗。パワフルなプラグインハイブリッドシステムを採用する3列シートSUVの走りを、先にステアリングを握った「V60」や「XC60」との比較を交えながら報告する。未来を先取りしていた
ボルボSUVの元祖が2002年に発表されたXC90である。それまでも「XC」を名乗るモデルはあったが、ステーションワゴンをベースにしてクロスカントリータイプに仕立てた派生車種だった。当時はまだSUVがニッチな存在で、XC90は未来のSUV像を先取りしていたともいえる。「トヨタ・ハリアー」や「ホンダCR-V」といった乗用車ライクなクロスオーバーSUVが出現していたものの、まだラダーフレームを持ったオフローダーが主流だった。ラージサイズのプレミアムSUVというのはとても新鮮に感じられたのだ。
同じ年に「ポルシェ・カイエン」がデビューしている。スポーツカーメーカーのポルシェがつくったSUVは驚きをもって迎えられ、その後に多くのフォロワーが生まれた。XC90はカイエンほどのインパクトはなかったものの、やはり新時代を切り開くモデルだった。カイエンが“背の高いスポーツカー”ととらえられたのに対し、XC90はボルボが確立していた安全で実用性の高い、洗練されたクルマのアップデート版として受け入れられたのだ。
今回試乗したのは2014年にフルモデルチェンジされ、2016年に日本でも発売された第2世代モデルの最新版で、プラグインハイブリッドシステムを搭載する。ボルボの電動化戦略のなかで現在の中核に位置するパワーユニットだ。エンジンはV60やXC60のプラグインハイブリッド車(PHEV)と同じ2リッター直4ターボだが、この2車が253PSの最高出力なのに対しXC90は317PSとハイチューンになっている。モーターの最高出力はフロントが71PS、リアが145PSと前述の2車と変わらないが、フラッグシップモデルにふさわしい強力な動力性能を持つといえる。
これまでに最新のV60(参照)とXC60(参照)のリポートをお届けしてきたが、実は今回のXC90も含めて同じ日に同じコースで試乗している。間を置かず比較することができたので、それぞれの共通点と違いについて触れながら報告しようと思う。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
古株でも変わらない使い勝手
ミッドサイズのステーションワゴンであるV60とミッドサイズSUVのXC60の後に連れ出したので、まずはその堂々たる巨大な姿に圧倒された。全長はあと5mmで5mに達する。全高も全幅も立派でXC60よりひと回り以上大きい感じだ。運転席にはよっこいしょと上るように乗り込むことになる。
座ってしまえば目の前に広がる空間は他モデルと大きくは変わらない。センターには大型化された11.2インチのディスプレイがあり、多くの操作をタッチで行うことができる。
XC90は「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)」と呼ばれるプラットフォームを初採用したモデルで、初登場から10年余を経ている。結構な古株なのだが、2017年のフルモデルチェンジでSPAを導入したXC60との差はあまり感じない。見た目も使い勝手も多くの部分が共通だ。
先代のXC90が10年目になった時に、新世代の「S60」や「XC70」と乗り比べたことがある。その時はXC90が明らかにほかの2台に比べて古臭いと感じた。
当時のボルボは質実剛健から北欧プレミアムへとイメージチェンジを図っている時期で、デザインの方向性が変化していた。売り出し中だったフリーフローティングセンタースタックがないことで、世代の違いがわかりやすく視覚化されてしまったのだ。現行のXC90はリデザインが巧みになったことに加え、ソフトウエアの更新で使い勝手に統一性をもたせることに成功している。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
見栄え優先の22インチホイール
湘南の平塚を基地として西湘バイパスから箱根のターンパイクに抜けるコース設定だ。同じ道を走るので、それぞれのモデルの特徴がよくわかる。V60は重心の低さを生かしてワインディングロードでのスポーツ走行を楽しめた。Bレンジでワンペダルドライブモードを選び、アクセル操作でリズムよく走る気持ちよさも格別だった。
XC60は目地段差が連続する西湘バイパスで衝撃を巧みにいなして快適なドライブを実現しながら、ターンパイクでも思いがけずスポーティーな走りができることに驚かされた。エアサスペンションを採用しており、乗り心地のよさとスポーツ性を両立させている。ボルボで最も販売台数が多いことも納得の万能タイプなのだ。ならばXC90はより大きなボディーを持つのだから、さらにゆったりした乗り心地で長距離移動に適しているはずだ。
西湘バイパスに入り、悠然と巡航を開始する。ほかの2台も静かだったが、静粛性は一段上のレベルだと感じる。もちろん乗り心地も柔らかく、挙動は落ち着いている。目地段差の突き上げも余裕で吸収して……と思ったら、XC60よりダイレクトな衝撃が伝わってくるではないか。
もちろんXC90もエアサス仕様だ。なぜ乗り心地がよくないのか。降りてからタイヤを確認すると、275/35R22の「ピレリPゼロ」だった。XC60も同じPゼロだが、サイズは255/40R21である。35偏平の22インチホイールというのは、乗り心地より見栄えを優先しているとしか思えない。XC90は3列シートの7人乗りで、ファミリーカー用途で使うのも可能だ。ならば快適性を重視しそうなものだが、実際のオーナー像は違うのかもしれない。
3列目に乗り込むのは苦労するし、座り心地が悪くて閉塞(へいそく)感も高いから長時間の移動はキツそうだ。いつも7人乗車で長距離移動することは想定されていないと思われる。ラージサイズの高級SUVは迫力と威勢のよさが重要であり、大径ホイールの存在感が好まれるのは理解しやすい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
北欧プレミアムの香り
ラージサイズSUVのジャンルには「メルセデス・ベンツGLE」や「アウディQ7」、「BMW X5」などのゴージャス&デラックスなモデルが存在する。すごみと威圧感があるといってもいいが、派手好きのイケイケ系と見られてしまうことを覚悟する必要があるだろう。車格としてはXC90もそのならびに位置してもおかしくない。でも、醸し出される空気は別物のような気がする。22インチホイールでキメてみせていても、洗練された北欧プレミアムの香りのおかげで下品になる手前で持ちこたえているのだ。
初代XC90が提示した安全で快適な新世代SUVという考え方は、今もボルボのラインナップ全体に受け継がれているのだと思う。XC60も含めてより小さなサイズでも同じ性格づけがなされていて、信頼性のある統一感を生んでいる。正直なところ、日本ではXC90が使用環境を選ぶクルマだと言わざるを得ない。都市部の狭い道ではストレスがたまるだろうし、駐車場にも苦労する。一方で、郊外にみられる一般的な道路事情ならばボディーの大きさとパワーの余裕が大きなメリットとなる。フラッグシップモデルとしてボルボのブランドイメージを高める役割を担っているといってもいい。
3台の最新PHEVに乗って、あらためてボルボの伝統が持つ強みを感じた。安全性と快適性を優先し、使い勝手のいい実用的なクルマをつくってきたのがボルボだ。それは、ステーションワゴンメーカーと目されていたころから変わっていない。その精神を受け継ぐ直系の子孫がV60で、ステーションワゴンという車型が持つポテンシャルの高さを存分に表現している。XC60はボルボのベストセラーカーであることが納得できるオールラウンダーで、SUV時代の優等生的な仕上がりだ。
XC90は大柄なボディーゆえに日常の使いやすさではこの2台にその座を譲るが、いかついマッチョ系が多いプレミアムSUVのなかで貫禄をみせながらも控えめな上品さを保つのがボルボらしい。22インチホイールで少しばかり意気がるのも愛嬌(あいきょう)だ。なにしろボルボSUVの元祖である。このクルマを手に入れることのできた幸運なオーナーは、ブランドの伝統を担うプライドを持って乗ってほしい。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4955×1960×1775mm
ホイールベース:2985mm
車重:2300kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:317PS(233kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3000-5400rpm
フロントモーター最高出力: 71PS(52kW)/3000-4500rpm
フロントモーター最大トルク:165N・m(16.8kgf・m)/0-3000rpm
リアモーター最高出力:145PS(107kW)/3280-1万5900rpm
リアモーター最大トルク:309N・m(31.5kgf・m)/0-3280rpm
タイヤ:(前)275/35R22 104W XL/(後)275/35R22 104W XL(ピレリPゼロ)
ハイブリッド燃料消費率:13.3km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:73km(WLTCモード)
交流電力量消費率:257Wh/km(WLTCモード)
価格:1294万円/テスト車:1361万0880円
オプション装備:Bowers & Wilkinsハイフィデリティオーディオシステム<1410W、19スピーカー、サブウーハー付き>(45万円) ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダーアドバンス<ブラケット付き/工賃含む>(19万6350円)/キーフォブシェル(2万7280円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1万0863km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
NEW
トヨタRAV4アドベンチャー(後編)
2026.8.30思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」をドライブ。前編ではそのパワートレインの中間加速のよさを語った山野。後編ではそこをもう少し掘り下げて聞くとともに、止まる、曲がるも含めたシャシー全体の印象を聞いてみた。 -
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】
2026.8.29試乗記「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――ポルシェ・タイカンGTS編
2026.8.28webCG Moviesレーシングドライバー山野哲也が「ポルシェ・タイカン」に試乗。最高出力700PSの「GTS」グレードに、ワインディングロードでむちを当てた印象は? -
酷評もされたBEVのフェラーリが4000万ドル!? 「ルーチェ」の初物に誰が、なぜ大金を出したのか?
2026.8.28デイリーコラムフェラーリ初の電気自動車として話題になった「ルーチェ」。その特別仕様の生産0号車が、米国内のカーオークションにおいて4000万ドル(約64億円)という衝撃価格で落札された。その背景について、事情に詳しい西川 淳がリポートする。 -
第60回:BYDオートジャパンの社長を直撃! いま日本で「ラッコ」を買う正義とは?
2026.8.27小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ中国BYDの軽スーパーハイトワゴン「ラッコ」がついに日本上陸を果たした。やっぱりというか期待どおりというか、その低価格と装備の充実ぶりに不躾・小沢コージも大変驚いた。BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長を直撃し、いろいろ聞いてきた。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(前編)
2026.8.27あの多田哲哉の自動車放談BMWの期待がかかる電気自動車(EV)「iX3」の新型に、元トヨタの多田哲哉さんが試乗。その仕上がりを、BMWとの協業経験もあるエンジニアはどう評価するのだろうか?






















































