シトロエンC5 エクスクルーシブ(FF/6AT)【試乗記】
巧みなバランス 2010.08.20 試乗記 シトロエンC5エクスクルーシブ(FF/6AT)……459.0万円
1.6ターボと6ATを積んだ、「C5」の新グレードに試乗。シトロエンのミドルセダンはどんな走りをみせるのか。
2リッターから1.6リッターターボへ
1948年に発表された「シトロエン2CV」は、「フォルクスワーゲン・ビートル」に近いサイズのボディをわずか375ccで走らせた。70年に1リッターエンジンを積んでデビューした「シトロエンGS」の外寸は、2年後に登場した「アウディ80」と同等だった。
エンジンのダウンサイジングをドイツ車の専売特許のように思っている人がいるかもしれないが、シトロエンをはじめとするフランス車ははるか昔から「大きなボディに小さなエンジン」を実践してきた。
その伝統が、最新テクノロジーを得て復活した。2年前にデビューした「C5」の2リッター直列4気筒が1.6リッター直噴ツインスクロールターボにスイッチし、コンビを組むATも4段から6段にバージョンアップしたのだ。
ちなみにこの1.6リッターターボエンジンは、同じシトロエンでは「DS3」、プジョーでは「308」「3008」に積まれているユーロ5対応の最新型で、最高出力156ps、最大トルク24.5kgm。「C4」に搭載されている従来型に比べ16psのパワーアップとなる。
ちまたにはすでに1.2リッターの「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や1.8リッターの「メルセデス・ベンツEクラス」があるから、1.6リッターのC5と聞いても驚くに値しないかもしれない。とはいえC5は今回乗ったセダンモデルでも、4795mm×1860mm×1470mmのボディサイズを持ち、車重は1620kgに達する。このボディをたった1.6リッターで思い通りに動かせるのかと、不安を抱く人もいるだろうが、結果的にはあらゆる面で最良のC5だった。
3リッターV6並みの走り
1.6リッターターボのC5は、セダン/ツアラーともに、ベーシックな「セダクション」と上級の「エクスクルーシブ」がある。試乗車はホイール/タイヤが18インチ、シートがフルレザーになるエクスクルーシブだった。
内外装はV6エンジンを積む「3.0エクスクルーシブ」と同じだ。ロングホイールベースのおかげで前後方向に余裕のあるキャビンと、やさしい着座感を持つシートが、このクラスで最上の快適空間を作り出している。逆反りしたリアウィンドウのおかげで、セダンとしては荷室の開口部が広く、使いやすい。
そのボディを、新しいパワートレインは苦もなく加速させていく。1500rpmあたりから過給を立ち上げ、自然吸気2.5リッター級のトルクを出すエンジンと、ギアを2段も増やしたATのおかげで、体感的には3リッターV6にせまる勢いだ。
回転のスムーズさも6気筒に匹敵する。ただし音は、絶対的にはかなり静かだが、加速時には重低音が耳に届く。同じパワートレインを持つ「プジョー3008」や「308」とは違う。そういえばこの響き、昔の「DS」や「CX」が積んでいたOHV4気筒に似ていなくもない。あるいは狙って出した音(?)かもしれない。
ATの性格もプジョーとは少し違う。可能な限り早めのシフトアップを行って高いギアを保つという燃費重視の設定だ。変速ショックは皆無だけれど、タコメーターの針は1500〜2500rpmあたりをウロウロしていて、小刻みにギアを変えていることがわかる。100km/h巡航も2200rpmと、低く抑えられている。
従来の4段ATのように、各ギアで引っ張り気味に走るのが好みなら、シフトレバー脇のボタンでスポーツモードを選べばいい。ただし柔軟性に富んだターボエンジンのおかげで、ノーマルモードでも不満なく加速していける。それにこちらを選んでおけば、かなりの好燃費を叩き出すことができる。
|
いいとこ取り
今回の試乗での燃費は、約10km/リッターを記録し、別の取材で磐梯山を往復したときは12km/リッターをマークしたのだ。しかもこの日は、2リッター直噴4気筒を積んだコンパクトクーペと3リッターV6ディーゼルターボのSUVという、エコ自慢のドイツ車2台と併走したのに、3台中ベストの燃費を叩き出した。
でも新型C5は、エコだけがとりえのクルマじゃない。なにしろこのクルマには、ハイドラクティブIIIプラスサスペンションの快感がある。デビューから2年が経過して熟成が進んだのか、地上スレスレをふんわり滑空するような乗り心地は、旧型にあたる2リッター自然吸気より心地よく、かといって3リッターほど過剰に揺れず、絶妙なあんばいだった。
|
ハンドリングも旧2リッターと3リッターのいいとこ取りだ。コーナーへの進入はノーズの軽さを生かして自然で、その後は硬すぎない足がねっとり動いて粘り腰を生み出す。そして立ち上がりではトルクに満ちたエンジンと6段ATが望みどおりの脱出加速を味わわせてくれる。
とはいえ山道での走りはこのクルマにとって余技みたいなもの。C5は、ゆったり流すときに最良の面を見せる。
エコとファンの両立をうたうクルマは多いけれど、多くはファン=スピードという旧来の公式から抜け出せていないので、楽しさを極めるほど燃料を食う。しかし1.6リッターターボのC5は、いちばん気持ちいい走りをしたときに、いちばん燃費がいい。これこそ真の意味でのエコとファンの両立ではないだろうか。
(文=森口将之/写真=荒川正幸)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
NEW
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】
2025.12.2試乗記「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。 -
NEW
4WDという駆動方式は、雪道以外でも意味がある?
2025.12.2あの多田哲哉のクルマQ&A新車では、高性能車を中心に4WDの比率が高まっているようだが、実際のところ、雪道をはじめとする低μ路以外での4WDのメリットとは何か? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
BYDシーライオン6
2025.12.1画像・写真BYDオートジャパンが、「ジャパンモビリティショー2025」で初披露したプラグインハイブリッド車「BYDシーライオン6」の正式導入を発表した。400万円を切る価格が注目される新型SUVの内装・外装と、発表イベントの様子を写真で詳しく紹介する。 -
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】
2025.12.1試乗記ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。 -
あんなこともありました! 2025年の自動車業界で覚えておくべき3つのこと
2025.12.1デイリーコラム2025年を振り返ってみると、自動車業界にはどんなトピックがあったのか? 過去、そして未来を見据えた際に、クルマ好きならずとも記憶にとどめておきたい3つのことがらについて、世良耕太が解説する。 -
第324回:カーマニアの愛されキャラ
2025.12.1カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。


















