トヨタとスバルの「水平対向エンジン×FR」は今後も残る?

2026.09.29 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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水平対向エンジンをフロントに搭載し後輪を駆動するという「トヨタ86」「スバルBRZ」のパワートレインは、世界的に見てもレアだと思います。今後も、この方式は残っていくでしょうか? 多田さんの見解をお聞かせください。 

過去に別の質問でも触れましたが(関連記事:ポルシェはなぜ「水平対向エンジンのFR車」をつくらないのか?)、フロントに水平対向エンジンを搭載するクルマは、平べったい形状のエンジンが、ラック&ピニオンのステアリングシステムと干渉するため、構造上、エンジンの位置を車体中心寄り(後ろ寄り)にすることが非常に難しいのです。

86の初代や2代目(GR86)は、最高出力が200PS程度だからこそ、前後重量配分が50:50でなくてもFRとして成立していました。しかし、これ以上パワーやトルクを上げようとすると、リアに十分な荷重がかからずクルマとしてのバランスが破綻してしまいます。86の開発当時、世界中から「よりハイパワーなターボエンジンバージョンをなぜ出さないのか」と聞かれましたが、ターボでパワーを上げるとバランスが著しく悪くなるため、メーカーとしては出せなかったというのが真相です。

2代目では排気量を2.4リッターに拡大して最大トルクを250N・mにまで強化しましたが、それが物理的な限界ギリギリです。3代目をゼロからつくるとなった時に、これ以上のパワーを求められると従来のやり方では行き場がなくなってしまいます。

ただし、ここ最近、技術的な状況は大きく変わりました。それは「ハイブリッド化(電動化)」です。

前述のとおり懸念されているエンジン本体の位置はそのままにしておいて、重量のかさむバッテリーやモーターをリアに配置すれば、弱点であった前後重量配分(出力に対してリアへの荷重が足りないこと)を劇的に改善できる。不足するパワーをモーターで補いつつ、リア荷重も稼げるわけです。

さらにもう一つのアプローチとして「バイ・ワイヤ技術の進化」も挙げられます。

ブレーキやアクセルに続き、最終関門と思われたステアリングが「ステア・バイ・ワイヤ(機械的結合のない電子制御ステアリング)」へと移行し始めています。すでに「レクサスRZ」などで採用されていますが、その出来は非常に洗練されていて、実用上申し分ありません。

このステア・バイ・ワイヤを組み込めれば、これまでエンジンルーム内のレイアウトを強く制約していたステアリングシャフトが無用となるため、フロントまわりのレイアウトを根本から再設計できるようになります。

水平対向エンジンであっても搭載位置を従来よりも後方(あるいは下方)に動かせる可能性が出てきて、これまで「百害あって一利なし」と諦めていた“構造的な限界”を打ち破るパッケージが実現できるかもしれない。そんな希望が見えてきています。

86やBRZの3代目、そしてさらに次の世代のモデルを企画するのであれば、こうした技術をうまく組み合わせることで、水平対向×FRという希少なパッケージをさらに進化させ継続していく道は十分に残されている。私は、そう考えています。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。