第11回:ガンバレ、アメ車たち!(後編)〜ビッグ3にエールを
2007.03.01 アメ車に明日はあるのか?第11回:ガンバレ、アメ車たち!(後編)〜ビッグ3にエールを
「アメ車に明日はあるのか?」というエッセイの締めくくりとして、米ビッグ3それぞれを分析しようと思う。今までの取材に加え、ここ1ヶ月ほどの取材で痛感したことも多い。
●GM−−世界NO.1の呪縛が解け、やや落ち着いた
世界自動車生産/販売台数でトヨタに負けることは、GMにとって屈辱だ。人間とは感情豊かな動物。「日本人なんぞに……」と思うのは、自意識が強いアメリカ一流企業人にとっては自然現象だ。
しかし、トヨタに対して(一時的な?)負けが確定した現在、GM首脳陣の肩から少し力が抜けたようにも思える。結果、名誉より実を取る方策として、UAW(全米自動車労組)と医療費負担について妥協策が進展しているそうだ。販売戦略/ディーラー対応についても、2004年の「オールズモービル」ブランド廃止以降、さらなる再編の可能性が示されている。
最も重要な“クルマ”についても、デザインとパッケージングに優れたモデルがやっと登場し始めた。「キャデラックCTS」「ポンティアックG8」など、特にハイパフォーマンス系での秀作が目立つ。
SUVについても、「キャデラック・エスカレード」はデザインも走りも正常進化した。これからの売れ筋となるであろうミドサイズSUVでは、「サターン・アウトルック」「GMCアルカディア」の質感が上がっていて、トヨタもかなり気にしている。
そして最近、日本でも急激に報道が増えているのが、エタノール燃料車。シカゴ先物市場で、エタノール燃料の原料となるトウモロコシの相場が急騰するなど、話題が多い。E85(エタノール85%含有燃料)はGMが主力となり推し進めている戦略であり、ブッシュ政権へのロビー活動が功を奏し、インフラ整備が徐々に動き出したようだ。
元王者GM、ジンワリとだが各方面でシッカリとした足取りの軌道修正が進んでいる。
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●フォード−−経理的経営戦略が最優先。もっとインパクトの強い商品を!
徹底した財政立て直しが迫られているフォード。フォード一族のビル・フォード会長は、ボーイング社から引き抜いた“ファイナンシャル・ガイ(経理畑)”のムラーリー新社長にフォードの未来を託した。
1月デトロイトショー、国際自動車ショーに初お目見えしたムラーリー社長。“ファイナンシャル・ガイ”らしく自己表現を控えて、ショーのプレゼンテーションを(ご当人曰く、シアトルの友人)マイクロソフト創業者・ビル・ゲイツ氏に委ねてしまった。お題は、SYNC(シンク)なる、車内エンターテイメントプロトコルなのだが、自動車業界に疎い人が見たら「あれ?マイクロソフト、フォード買ったの?」と思うほど、ムラーリー新社長の存在は控えめだった。
さらに驚いたのが、シカゴショーでのこと。事前にフォードメディア用ウェブサイトで「重要発表あり!」と謳っていたそれは……、なんと「ファイブハンドレッドの内外装手直しで、トーラス復活!」、ついでに「マーキュリー」の兄弟車は「モンテゴ」改め「セーブル」として復活。さらに、クロスオーバーSUVの「フリースタイル」から「トーラスX」に名称変更。
こうした一連の動きは“カー・ガイ(車に徹底的にこだわる、ある種古い意味での車好き)”では決して発想/最終決定されない秘策である。まるで、ニッサン・ゴーン会長(当時社長)が演じたドラスティックな事業戦略のようだ。つまりはフォード、ニッサン的なV字復活の可能性を秘めているのかもしれない。となると、PAG(アストン、ジャガー、ランドローバー、ボルボ)とマツダは今後、どう料理されるのか……。
フォードには、もっとインパクトがあって、もっとアクが強い商品があっても良いはず。そう、インターセプターやリンカーンMKRなど、マッスルなヤツラ、ドンドン登場させてほしい。
●クライスラー−−大変革期に突入。この先は……、現時点では予測不可能!
(本原稿執筆時点での)各種報道によると、ダイムラークライスラー(以下DC)本体からクライスラー部門の分社独立の可能性が出てきている。こうなると、資金調達面、デザイン&開発面など、クライスラー/ダッジ/ジープの未来が見えてこない。
過去5年程で、クライスラー関連ブランドは確実にイメージが向上してきた。商品ラインナップの拡充も進んだ。
だが、その拡充スピードがやや速すぎた感もある。実はそれが現在の販売不振→DCからの離脱の可能性を生んでしまったようにも思えるのだ。
過激さがウリのSRTや、スピードショップ(DC保証付きチューニングフランチャイズ)の未来は? デトロイトショーで私個人的に最も気に入った「クライスラー・ナッソー」(車高短の大柄SUV)の量産は?
現時点でクライスラーの未来予測は、不確定要素が多過ぎる。なんにせよ、これまで貫いてきた独創性だけは失ってほしくない。
それぞれ岐路に立たされていることは間違いない、米ビッグ3。そしてアメ車に熱い熱いエールを送りたい。
ガンバレ、アメ車たち。
(終わり)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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第10回:ガンバレ、アメ車たち!(前編)〜アメ車が売れない現実 2007.2.28 2007年に入り、私だけではなく、世界中の自動車関係者たちがこう言い出した。「アメ車に明日はあるのか?」アメ車たちはいま、彼らの社史上で最大のターニングポイントに差し掛かっている。
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第9回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(後編) 2006.12.29 ■古い設計でも十分と考えるフォードGMに続き、フォードの試乗エリアに来てみると、ウェイティングの人があとを絶たない。そう、皆、「シェルビーGT500」(5.4リッターV8、500ps)にどうしても乗りたいのだ。それほど“シェルビー効果”は、典型的なアメリカ人に有効なのだ。その乗り味を一言で表現すると「意外と、普通」。エンジンONでV8がドロドロすることもないし、低速走行でサスがガシガシ、ゴツゴツもしない。「なんだか拍子抜けしちゃう」ほど、普段のドライブに向いている。アクセル全開で、イートン製ルーツ式3枚歯スーパーチャージャーが「ウギュワァーン!」と叫ぶ。だが、遮音性が意外と高く、うるさいと思う音量・音質ではない。直線でフルスロットル。リアサスがじーんわりと沈みこみ、ズッシーンと加速する。コーナーに進入。トラクションコントロールをONにしたまま、この手のクルマとしては中程度の重さとなるパワステを切る。ステアリングを切ったぶんだけクルマ全体が曲がるような安心感があるのだが、ステアリングギア比が意外とスローで、結構な角度まで切りたす必要があった。ロール量は、乗り心地と比例して大きいが、「この先、どっかにブッ飛っンでいっちゃうのか!?」というような不安はない。ちなみにトラクションコントロールOFFで同じコーナーを攻めてみると、意外や意外、コントローラブルだった。このボディスタイルからすると、スナップオーバー(いきなりグワーンとリアが振り回される現象)を想像してしまうのだが……。日系自動車メーカー開発者たちはよく「こんな古い基本設計のリアサスでいいのか?」といっている。しかし、シェルビーGT500の目指す「大パワーを万人向きに楽しく&乗りやすく」は、十分満たされている。なお、系統は違うが、期待のミドサイズSUV「エッジ」でも同様に、マイルド系ズッシリ乗り味は表現されていた。
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第8回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(前編) 2006.12.28 毎年恒例、米国メディア団体のMPG(Motor Press Guild)主催のトラックデー。日米欧韓各自動車メーカーが最新型車両を持ち込み、サーキットと一般路で走行体験をさせてくれるビッグイベントだ。今回集まったのはおよそ130台。アメ車たちは他国モデルのなかに埋もれず、個性を出していたのだろうか?■アメ車の個性をハイパフォーマンスモデルで試す皆さんはこんなことを思ったことはないだろうか。「クルマの技術って、メーカーによってそんなに違いがあるの? どのメーカーだって、最新コンピュータ技術を導入しているし、生産技術は上がっているし、他社関連の情報だってウェブ上に溢れかえっている。だいたい、比較車両としてどのメーカーも競合車は購入してバラバラにして詳細解析しているのだから、同じ価格帯のクルマならどこのメーカーも似たようなクルマになるでしょ……」確かに一理ある。ところが、現実には各社モデルには技術的な差がある。その差を背景として、各車の“味”も変わってくる。特に、乗り味、走り味の差は大きい。その原因は、購買コスト&製造コストとの兼ね合い、開発責任者のこだわりやエゴ、実験担当部署の重鎮との社内的なしがらみ、開発担当役員の“鶴の一声”……など様々だ。ではそうした差は、アメ車と日欧韓車、いかに違うのか。今回の「トラックデー」で、約50台のステアリングホイールを握ったが、そのなかでも各社が力を入れ、アメ車の色が濃く出ているハイパフォーマンスモデルに絞って、乗り味、走り味を比較してみたい。場所はウイロースプリングス・ロングコース(1周約3km)。ここでは200km/hオーバーの高速コーナリングから、ハードブレーキングまでチェックできるほか、近場の一般道でも乗り心地などを試すことができる。
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第7回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(後編)(桃田健史) 2006.11.15 ■会場はレトロな雰囲気スターがいない。これが、今年のSEMAショー全体を見ての率直な感想だ。SEMAショーではここ数年、「ハマーH2」「クライスラー300C」や、ホンダ系プライベーター主導のジャパニーズ暴走族、などアメリカの社会背景を映し出してきたクルマたちが華やいでいた。だが今回は、次世代のスターの姿が全く見えてこなかった。毎年キャッチコピーや『Car/Truck of the Show』というテーマを祭り上げて、ショー全体の雰囲気作りを行っているSEMAショーの今年のテーマは『American Musclecar』。会場正面玄関には歴代の「フォード・マスタング」「ダッジ・チャージャー/チャレンジャー」「シボレー・カマロ/コルベット」など、V8ドロドロなアメリカン魂たちがレッドカーペットの上で整然と構えていた。ということで、会場内のあちこちにも60年代のレトロな雰囲気が蔓延していた。アメリカングラフィティ世代の初老のカーファンたちは「いやー、昔のアメリカはほんと、楽しかったわいなぁ……」とノンビリとした足取り。
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第6回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(前編)(桃田健史) 2006.11.13 ■プレスなのに取材拒否?「今すぐ、ここから出て行って下さい!」。強面のセキュリティにすごまれた。ここは、米ネバダ州ラスベガス。毎年11月の恒例イベント、世界最大級の自動車アフターマーケット見本市であるSEMA(Specialty Equipment Market Association)ショーの取材に来た。問題が発生したのは開催2日目の昼、ラグジィ系大手ホイールメーカーのブースでのことだ。雑誌掲載用に、まずは手持ちデジカメでパチパチと撮影。そして、タイヤサイズなどをメモしようとカバンからノートを取り出した瞬間、セキュリティが飛んできたのだ。彼は「商品について、筆記することはお断りします」と言う。私は首からぶら下げたSEMA発行のプレスクレデンシャルを見せて、「いや、私はプレス。取材ですから」とさりげなく言うと、「ですから、商品についてここで書くことは一切できません。写真は構いませんが」と、相手はより強い口調で返してきた。「あなたの言う意味がよく分かりません。つじつまが合わないので、SEMA事務局に後で聞いてみます」と言った瞬間、相手は「今すぐ、ここから出て行って下さい!」と血相を変えた。埒(らち)が明かないと思った私は渋々そのブースを出た。するとあのセキュリティは私の後ろ姿を指差し、ブース入り口のキャンギャルに「アイツを、2度とここに入れるな!」と“用心棒”のような捨て台詞を残した。こうしてつまみ出された私。まるで、間違えて入ってしまった新宿歌舞伎町の非合法な飲み屋から叩き出されたような気分になった。
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