第151回:新仮説! 今やクルマ趣味は「インパラ世代」で支えられている
2010.07.17 マッキナ あらモーダ!第151回:新仮説! 今やクルマ趣味は「インパラ世代」で支えられている
おもしろいクルマ好きの人たち
ボクはイタリアをはじめ各国で、クルマ好きの人たちと毎週のように会う。愛好者イベントにもたびたび参加する。そうした会場では「オレのクルマ、取材してくれよ〜」とボクをコバンザメのごとく追いまわす参加者がいるものだ。気弱なボクは、その勢いに押されて、彼のクルマを見てあげるしかない。
いっぽうで、一見「ちょっと、話しかけるとヤバいんじゃないか」というムードを醸し出しているオーナーが興味深いクルマを持っていて、恐る恐る話しかけると意外にいいおじさんで、その後何年も文通が続いたりする。
そうかと思えば後日、ボクが取材中のところをこっそり逆取材した写真を、わざわざ送ってきてくれる人もいる。
いずれにしても、クルマ好きの人たちは、ヨーロッパのモーターショーにいる人々よりも格段におもしろい。純然に自動車をビジネスと割り切っている彼らは、前回のショーでは自分が携わるブランドを熱く語っていたにもかかわらず、次のショーではライバルメーカーの記者発表に何食わぬ顔で立ち会っていたりする。彼らにとって仕事であるのはわかるが、純粋なオタクからこの道に入ったボクとしては、幻滅せざるを得ないのである。
インパラくん
ところでヨーロッパのクルマ愛好家たちと会っていて気がつくのは、1959年生まれを中心とした、51歳前後1歳くらいが妙に多いことである。
1959年といえば、アメリカでは「シボレー・インパラ/ベルエア」「キャデラック」各車など、テールフィンのデザインが最も高く立派だった年である。そこで、ボクは彼らの世代の人たちを「インパラくん」と呼ばせていただいている。
その世代に、なぜクルマに熱い人が多いのか。それは、彼らの生い立ちを追ってみると、次第にわかってくる。
1959年、イタリアでは「フィアット500(チンクエチェント)」が誕生して2年、フランスでの「シトロエン2CV」誕生からは優に11年が経過している。つまり、物心ついたときには家にクルマがあって、親たちが晴れて手に入れたクルマで誇り高くドライブに行った時代だ。ちなみに、英国では「ミニ」が誕生した年でもある。
やがてヨーロッパでは、1968年にフランスで大規模な学生運動「5月革命」が起きる。そしてその翌年1969年にイタリアでは「熱い秋」という大労働争議が発生した。ちなみに「熱い秋」は、あのランボルギーニを経営危機に陥らせる発端のひとつにもなった。
しかしインパラくんは、当時まだ7歳から10歳で、事実上蚊帳の外の出来事だったのである。つまり彼らの先輩世代と違い、あまり闘争や混乱に巻き込まれなかった世代といえる。
うらやましい世代
自動車という観点からしても、インパラくんの少年時代には、夢のようなクルマが続々とデビューしている。たとえば、アルファ・ロメオは彼らが7歳の1966年に「スパイダーデュエット」、8歳の1967年には「モントリオール」と、後年まで伝説として語り継がれるモデルを矢継ぎ早に送り出している。
シトロエンもしかりだ。1970年、同社はジュネーブショーで「SM」を、パリサロンで「GS」を発表している。そうした前衛的モデルを、彼らは11歳の目で眺めていたことになる。
比較のために記すと、筆者は彼らより7歳年下の1966年生まれである。小学生になった途端、オイルショックが襲って次々とエキゾティックカーが消えていった。排ガス対策エンジンが搭載されたクルマを買った小学校の先生は「まったくトロい!」と嘆き、わが家のクルマの三角窓にも、「排ガス対策済み」のステッカーが、まるで種痘注射の跡のごとく貼られていたものだ。
当時ヤナセのラインナップからも、「排ガス対策のため、輸入を見合わせております」といったたぐいの断り書きとともに、次々と扱い車種が消えていったのを覚えている。
インパラくんたちは免許取得年齢になっても恵まれていた。イタリアではモーロ首相暗殺事件で有名な「赤い旅団」が社会を不安に陥れたが、クルマの世界に関していえば、1973年のオイルショックから立ち直ったメーカーが、1978年「シトロエン・ヴィザ」、1980年「フィアット・パンダ」、1983年「フィアット・ウーノ」といった具合に、初心者にも手が届き、かつ魅力的なコンバクトカーをたくさん発表した時代であった。
さらに所得にちょっとゆとりが出る30歳代になると、彼らにドアを開いて迎えるようなモデルがまたまた登場した。
1989年「シトロエンXM」、1992年「アルファ155」、1993年「クーペ・フィアット」、1995年「フィアット・バルケッタ」といったクルマたちは、プレミアムといえばドイツ系全盛の今日では考えられない個性を放っていた。
これしかない? 最後の手段
かくもインパラくんは、クルマ好きが多数増殖するにふさわしい土壌で育った貴重なジェネレーションだったのである。
参考までに元F1パイロットのゲルハルト・ベルガーや、ボクが住むシエナ出身のアレッサンドロ・ナンニーニも1959年生まれである。
写真で紹介するのは、ボクの知るインパラくんたちの一例だ。いままで本欄で紹介した人も含まれている。いずれのインパラくんも、クルマの話題を離れても、団塊世代よりも説教くさかったり気取る人が少なく、またおおらかなので、ボクは好きである。
【写真1と2】のアンドレア氏は、なんと高校で前述のナンニーニと同級生だったという。彼のアクセレレーションペダルを踏む足にときおり気合いが入るのは、そのためか。プライベートだけでなく、仕事でもクルマ一筋。現在は認定サービス工場のパーツセンターで働いている。
【写真3】は先日、アルファ・ロメオ100周年祭に愛車「RZ」ではるばるフランスからやってきた愛好家だ。「サンカンヌフ(1959年!)」とエグゾーストノートに負けぬ声で元気な答えてくれた。
【写真4と5】は、「トラクシオン・アヴァン」の動画解説でお世話になったシトロエン愛好家のディディエ・ジュアン氏。彼も1959年生まれである。
そして【写真6と7】は、イタリアのスマート愛好会「スマートフォーラム」で役員を務めるジャンピエロ氏である。メンバーから「zio(おじさん)」と呼ばれ、イベントでは自分が楽しむよりも終始盛り上げ役に徹する、尊敬すべきキャラクターである。
もしまだどうしても自動車雑誌を創刊したい編集者は、クルマ趣味人最後の世代であるこのインパラくんたちの生態を研究すべく彼らと寝食を共にし、彼らをターゲットに据えたものを企画するしかない? と思えてきた今日このごろだ。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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