第110回:「三菱i-MiEV」でエコランに挑戦
2010.06.02 エディターから一言第110回:「三菱i-MiEV」でエコランに挑戦
電気自動車って実際どのくらい走れるの? エコ運転って具体的にどうすればいいの? イマの電気自動車の実力を試すべく、スーザン史子がエコランにチャレンジした。
「燃費」ならぬ「電費」を競う
三菱自動車主催の「メディア対抗エコラン大会」に参加してきました。
クルマは2010年4月1日から一般に向けて市販されるようになった電気自動車「i-MiEV」。コースは東京・田町の三菱自動車本社から、昼食会場となる三浦半島の観音崎京急ホテルへ向かい、再び田町へと戻ってくるというもの。
1番「電費」の良かったチームには「エコラン賞」が用意されていますが、その他にも、推奨ポイントに数多く立ち寄ったチームには「推奨ポイント賞」が、もっとも長い距離を走破したチームには「ロングラン賞」が用意され、それぞれの目標に向かって、自由にコースの組み立てができるようになっています。
今回『webCG』チームが狙いを定めたのは「推奨ポイント賞」。厳しくエコランして記録を出すのではなく、最低限守ることを決め、できるだけ一般ドライバーが普段走るような感覚でドライブを楽しもうというわけです。守るべきポイントは次の4点。
【その1】:周囲のクルマの流れを止めることのないよう、高速道路を走る場合は80km/hまで、一般道の場合は40〜60km/hの間で走る。
【その2】:クリープトルクをカットし省電費になるよう、信号待ちではなるべくセレクターレバーを「P」か「N」に入れる。
【その3】:クルマの持つエネルギーをうまく利用し、上り坂では手前で加速、下り坂では惰性で走ることで、なるべくアクセルは抜いた状態にする。
【その4】:電力消費が大きいエアコンは使わない。
といったことです。
基本的には、セレクターレバーは「Eco」ポジションに入れ、メーターの針が左側のチャージゾーンと右側のエコ&パワーゾーンとの境目を指した状態で走ること、前走車との速度差を調節できるよう、普段よりも少し車間距離を開けること、発進時には一呼吸おき、クリープが出てきてからじわっと踏むことを心がけました。
車間距離は3秒開ける
田町にある三菱自動車本社ビルを10時22分に出発。撮影車両の「三菱RVR」に続いて芝浦入り口から首都高速1号羽田線、横羽線を経由してみなとみらい出口へ。アップダウンやきついコーナーでは、つい車間距離が開いてしまうものの、なるべく自分のペースを守ります。
11時5分には推奨ポイントとなる赤レンガ倉庫に到着。その後、三菱みなとみらい技術館、日本郵船歴史博物館の順で推奨ポイントを巡り、これで3ポイントゲット!
次に向かうのは三浦半島の観音崎京急ホテル。12時15分に横浜を出発し、ここからは国道16号(横須賀街道)を経由して観音崎へ。
45km/h走行で車間距離は3秒を目安に走る。JAFや警視庁などで推奨されているスムーズドライビングの考え方では、「車間距離は2秒」が目安です。最初の1秒で状況を判断し、ブレーキを踏むといった操作をするのに1秒かかるという考え方。今回は3秒と、1秒多く車間距離を開けることで、前走車の急な動きにつられてすぐにブレーキを踏んだりすることなく、余裕を持って走ることができました。
そして、少し長めの下り坂では積極的にエネルギーを回生してくれる「B」ポジションに入れてみます。すると、一旦針が右に大きく振れたあと、ググッとエンジンブレーキがきいて左側のチャージを指し示します。なんだか貯金が増えたみたいで少しうれしい気持ち!
ところが、再び「Eco」ポジションに戻そうとすると、セレクターレバーの形状上、1つ上の「Eco」ポジションではなく、2つ上に位置する「D」ポジションに入ってしまいそうになるんです。そこで一気にまた針が右に大きく振れるので、この動作を繰り返すと結局プラスマイナスゼロになってしまいそうな気に。
山道など比較的距離の長い下り坂で使用するにはメリットがありそうですが、街なかでちょくちょく操作すると、逆にロスが多いかなとも感じました。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ハラハラドキドキの展開に
そんなわけで、13時40分に観音崎京急ホテルに到着。ゴールの17時まであまり時間がないとはいえ、ちょっぴりリゾート感を満喫し、レストランを後にしたのが15時。「まだまだ2時間ある」なんて思いつつ、バッテリーの残量が5目盛りだったこともあり、復路分のバッテリーを充電するため充電ポイントを探して、走ること20分。着いたのは横須賀市内にあるENEOSのガソリンスタンド。
ところが、先に出発したチームが充電中。しかもあと10分はかかるとのこと。まさかのタイムロス! 結局80%充電が終わったのは充電し始めてから18分後の15時50分。「あー、あと1時間しかないっ!!」
もう後の祭りだけれど、観音崎京急ホテルからクルマで約5分のところに横浜横須賀道路の馬堀海岸入り口があり、横須賀PAまで行くことができれば、そこで充電は可能だったはず。でも、充電量が持つかどうかが心配だったのと、できれば一般道で帰りたかったんですよ……。
もう、こうなっては選択の余地もなく、帰り道は逗子インターから高速道路でゴールを目指したわけですが、夕方ということもありかなり混んでいて、これじゃ17時のゴール時間に間に合わない、という事態に。
そこで、失格だけは避けようと、エコランの中止を決断!! 何度もメーター振り切りつつ首都高速湾岸線を走り、やっとこさ大井出口付近まで来たんです。
ハァ〜。で、気づいたら、急速充電で13目盛りまであったバッテリーが、あっという間に3つに!
メーター上の走行可能距離は9km、一方ゴールまでの距離はあと9.7km!! ヒェ〜〜!!
飛び上がりそうになりながら、再び作戦変更、とにかく走行距離を伸ばせるよう、車の流れを止めない範囲でできるだけゆっくり走ることにしたのでした。
とはいえ、徐々に減っていく目盛りを見ていると、「高速で止まったらどうしよう〜」という不安が……。そして、ついに目盛りは1つになり、いよいよ点滅し始めたんです。
![]() |
![]() |
「17時まであと3分、走行可能距離は4km。スピードを落としたことで、随分温存できたみたい。ゴールまであと1.5kmならなんとかなりそう。でもとにかく、あと3分で着かないと失格になっちゃう……」
そんなこんなで、なんとか16時59分に本社前到着。歩行者が途切れ、ビルの地下入り口に入った瞬間、ちょうど17時!!
「ヤッターーーーー!!」と声を上げた瞬間、一気に全身から力が抜けていきました。とにかく、復路は充電量と時間との戦い、あとひとつ信号が多かったら、アウトでした〜。ハァ〜。
早め早めが大切
結果『webCG』チームは、154kmと最長距離を走破したことで「ロングラン賞」を、また、横浜で立ち寄った3カ所の推奨ポイントが評価され、「推奨ポイント賞」を獲得し、ダブル受賞!
エコラン部門では平均電費が6.7km/目盛りで、残念ながら全4チーム中、3位に(1チームは時間オーバーで失格)。観音崎までの往路では7.1km/目盛り。ラリードライバーの増岡浩さんが同じコースを走った平均電費が7.7km/目盛りだったことを考えれば、まあまあの結果。ところが、エコランを断念した復路では5.6km/目盛りと、随分悪い結果になってしまいました。残念!
ズバリ、現在の電気自動車の実力はどうかといえば、普通に街なかを走る分にはまったく問題なし。「B」もしくは「D」ポジションなら坂道での加速もよく、音も静かですから、とても快適です。高速道路では電池の消費が激しいものの、スピードを落とすことでかなり抑えられることもわかったし、実は、最後の1目盛りのあとにもカメさんマークがあり、まだ5〜10kmは走れる余裕があるのだとか。焦って損しちゃいました。今回はたまたまゴール時間が決まっていたのでこんな結果になってしまいましたが、普段乗る場合はなるべく早めに充電ポイントに立ち寄っていさえすれば問題はないはずです。
ちなみに、残り5目盛りから13目盛りまで、8目盛りぶん急速充電するのにかかった料金は720円(ENEOSは5月中旬時点で無料でした)。1目盛り90円として、フル充電した場合では1440円。これで100km以上走れます。
ではガソリン車と比べた場合はどうでしょう。現在レギュラーガソリン価格は1リッターあたり約140円。10km/リッター走るガソリン車では100km走って1400円。
こう考えると電気代とガソリン代ではたいして差はないように思えますが、これは急速充電の料金を支払った場合のこと。前記のとおり、経済産業省の資源エネルギー庁が実施する「平成21年度電気自動車普及環境整備実証事業」により、急速充電器を使用した場合、ENEOS では2010年5月末まで無料だったのです。実証事業の終了を境に、今後も無料になるかどうかは各企業、自治体によって変わってくるでしょう。たとえば、NEXCO中日本では、高速道路のSA・PAに設置された急速充電器を1回100円にするといった課金システムを導入しています。とはいえ、タダ、もしくは1回100円という料金設定、コレはかなり安い!
家庭用電源を使った場合ではどうでしょう。東京電力の場合、契約の種類によっても違いますが、一般的な家庭で主流となる従量電灯B 30〜40A(アンペア)の契約では、平均で1kwhあたり約20円とのこと。「i-MiEV」の総電力量は16kwhですからフル充電で約320円。深夜利用が割安になる「おとくなナイトプラン10」を利用すれば、1kwhあたり9.48円。フル充電では約150円。
「i-MiEV」が通常走行で約100km走ると考えても、1km=約1.5円。ガソリンの1kmあたりの価格は14円(10km/リッターの場合)、ということですから随分安く済みますよね。ただし、「おとくなナイトプラン10」(「おとくなナイトプラン8」もアリ)は、昼間の電気代が高く設定されているので、昼間と夜間の電気使用量のバランスを見てメリットのある契約内容を選ぶ必要がありそうです。
急速充電ポイントは、現在全国でおよそ100カ箇所。今後増えていく予定ですし、電気代が格段に安くなるということであれば、普段使いに十分対応できる乗り物になっていくのではないでしょうか。電気自動車の未来に期待したいです。
(文=スーザン史子/写真=郡大二郎)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

スーザン史子
-
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して 2025.10.15 レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す 2025.10.1 横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。
-
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ 2025.9.18 BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。