アウディR8 4.2 FSI クワトロ(4WD/6MT)【試乗記】
“乗せられない”R8 2010.02.24 試乗記 アウディR8 4.2 FSI クワトロ(4WD/6MT)……1828.0万円
スポーツカーの世界でも、オートマチックが主流の昨今。スーパースポーツ「アウディR8」のMTモデルを駆り、その魅力を探った。
スーパー・イージー
「アウディR8」は普通のクルマ同様、気楽に転がせる高性能車として知られている。動力性能などはまさにスーパーカーであるが、その扱いやすさは同社の「TTクーペ」と変わらないほどだ。横幅も必要以上に広くないから、それほど意識する必要はないし、ボディ周辺の全てが見えなくとも、障害物に近づけばクリアランスソナーがピピピと鳴って教えてくれる。2ペダル式のマニュアルトランスミッションは、全くのオートマチック感覚であり、安楽に乗れる。しかし、少しはドライビングへの積極性を求めるならば、伝統的な6段MTというチョイスもあることをお知らせしよう。
ボディ重量は1630kgと、4.2リッターV8エンジンを積む大排気量ミドシップカーとしては驚異的に軽く、60km/hも出ていれば6速で走れる柔軟性をもつ。だからMTモデルとはいえ、上のギアに入れっぱなしでも大排気量のパワーとトルクに物言わせ、難なく走ってしまう。
AT車並の、イージードライブ。4WDのクワトロシステムの恩恵もあり、エンスト寸前までスムーズな走行感覚ゆえ、停止前にクラッチを踏むことさえ忘れてしまうほどだ。
クラッチの踏力は軽く、繋がりのタッチも良好。過敏ではないしダルでもない。4WDのセンターデフはポルシェ譲りのVCU(ビスカスカップリング)式であるが、パーキング速度での大舵角ではゴリゴリと内輪がスリップする。強いLSDのせいか回転差の補正はしてくれない。
低い目線がもたらすスピード感は、飛ばさないでもそれなりに雰囲気を楽しむことはできる。周囲のクルマも遠慮してか、すぐには追い越さないで、しばし眺めながら並走してゆく。抜いてもその気になればすぐにまた追い越される、と感じるからだろうか? いや、「R8」の低い車体やミドシップ特有のクーペスタイリングは、そこはかとなくスーパーな雰囲気を発散する。たとえクルマを知らない人でも、ただならぬ気配を察するのだろう。
ポルシェ以上、フェラーリ未満
トロトロ流すような乗り方でも「R8」の運転に飽きることはないが、いざ本格的に対峙する気になると、スポーツカーとしての基本性能がチラリチラリと見えてくる。ミドシップによる前後重量配分は43.6:56.4。前輪荷重はリアエンジンの「ポルシェ911」ほど軽くはなく、操舵感もしっかりしているし、グリップも確かだ。もちろん後輪にはしっかり荷重がかかり、トラクションを有効に伝える。そのパワー・オンで、ポルシェのように前輪が先に逃げ出す感覚は薄い。この点は4WDの「911カレラ4」と比べてもまだ優位点は残る。
ホイールベースは長く、オーバーハングが短めで、とにかくパワーのオン/オフによるアンダーステア/オーバーステアの姿勢変化が格段に少ない。4WDの恩恵もあって四肢は執拗に路面をとらえる。とはいえ、この時期の峠の日陰は凍結しており、限界を超えれば4輪そろってアウトへ向かうことになる。そんなギリギリのグリップを探りながらのドライビングもまた、「R8」ならではの楽しみではある。FR車が恐る恐る探るような状況でも、安心感は依然、十分に高いままだが。
さて、そんな「アウディR8」は何かと「ポルシェ911」と比較される運命にある。価格も1560万円の「911カレラ4S」(6MT)と似たようなもので、3.8リッターの6気筒のあちらに対して、4.2リッター8気筒エンジンということを考えると、(十分高価だが)むしろ割安にも感じられる。この辺は量産型エンジンの流用というメリットを生かしているからで、メンテ費用を考えても有利なはずだ。
いっぽうで、フェラーリなどイタリアの高性能車と比べれば、ハッキリ言って乗り心地など感覚的な部分では、高性能セダンを造ってきたメーカーの作、所詮量産パーツの流用という限界も見受けられる。一例を挙げるなら、足まわり。フェラーリのもつソリッドな感覚は、ソフトなスプリングを最初から縮めて硬い部分を使い、ダンパーの戻し方はソフトなレートで行われることから、減衰力がまず支配的で伸び側と縮み側の比率がえも言われぬフラット感覚をつくり出している。「R8」をけなすつもりはまったくないが、こちらは単に上下動を減衰させ振動をなだめるだけのドイツ流マナーに終始する。
手綱は自分でとってこそ
伝統的なマニュアルトランスミッションと2ペダルマニュアルの違いは、クラッチをドライバー自ら断続するか、あるいは機械にやってもらうかということである。
もちろん、自分でやる方が自由度がある。機械は設定されたモードでしか動かない。シフトの速さ正確さだけを言えば、機械にはかなわないかもしれないが、ヒトはその時々で微妙に感情を変化させるものだから、機械仕事と波長が合わないこともある。
設定に押しつけがましいところがあれば嫌う。例えば、運転しているなかで、スロットルを閉じないままブレーキングしたい状況に出会うことがある。今の季節によくあるような、雪混じりの雨模様など、路面状況がユルい場合は、なおさら駆動と制動の間を開けたくない、そんな時に右足でスロットルを開けたまま、左足で軽くブレーキペダルに足を載せただけで、この6段MTでさえもエンジンが休んでしまう。これにはガッカリさせられる。2ペダルMTならばまだやむなしと許せても「MTよお前もか」だ。こんなところは、一般ドライバー向けのクルマを中心に造っている量産車メーカーのスポーツカーだと、現実に引き戻される部分だ。
スポーツカーを選ぶなら、クルマに“乗せられている”状況を嫌い、自分の意思でコントロールすることに楽しみを見いだせるものが欲しいものだ。とはいえ、そう思うなら、そして「R8」を選ぶなら、やはりクラッチの断続だけでも自分の意思で支配できるMTがベターであるとはいえよう。
(文=笹目二朗/写真=荒川正幸)

笹目 二朗
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