第128回:【Movie】シトロエン「トラクシォン・アヴァン」の運転教えます!
2010.02.06 マッキナ あらモーダ!第128回:【Movie】シトロエン「トラクシォン・アヴァン」の運転教えます!
拡大 |
拡大 |
70年以上前に作られたクルマ
「運転方法教えます!」シリーズ、3回めは初の戦前モデル編である。
お題はシトロエンの「トラクシォン・アヴァン11CV」1939年型だ。
クルマについて、おさらいしておこう。トラクシォン・アヴァン(以下トラクシォン)は、1934年にシトロエンが送り出した前輪駆動車である。機構部分はのちに「DS」も担当するアンドレ・ルフェーブルが指揮した。欧州において前輪駆動は、以前からドイツのアドラーなどが採用していたが、大量生産を前提としたモデルはこのトラクシォンが初めてだった。その直進性は、当時のクルマのなかでは超一級だったといわれる。
また、さきにランチアで採用されていたモノコックボディもいち早く採り入れ、軽量化と低重心化を達成していた。
スタイリングはイタリア生まれのデザイナー、フラミニオ・ベルトーニによるものだ。彼はスケッチを省略し、粘土を使って一夜にして縮尺モデルを作り上げた。それを見た創業者アンドレ・シトロエンの夫人――同社では夫人に新型車のスタイルを見せるのが慣例となっていた――は、即座にこのクルマが売れることを確信したという。
トラクシォンは、後継車DSが誕生したあともカタログに載り続け、1957年7月までの23年間に約75万9000台が製造された。
今回操作を説明してくれたオーナーは、パリ在住のディディエ・ジュアン氏だ。1959年生まれの今年51歳。平日は地下鉄で片道1時間かけて通勤している銀行マンである。彼のトラクシォン・アヴァンは1939年型11CVである。正確にいうと、同年の10月製。「第二次世界大戦が勃発した僅か2カ月後のクルマ」とディディエ氏は説明する。
モノコックボディのため、着座位置は同時代の他車と比べて極めて低い。ステップを省略してしまった理由がわかる。ボディから分離したアームによってエンジンが支えられているおかげで、走行中の車室内は、街なかを流している限り、これも同時期の他車と比べて振動が少なく静かだ。
当時の量産車としては贅沢なフロントのダブルウィッシュボーンは、家庭用ソファのような柔らかなシートと相まって、後年のフランス車に引き継がれる穏やかな乗り心地を実現している。
やがてセーヌ川沿いの道で、ディディエ氏は「ほら」と言ってステアングから手を放した。今も変わらぬ直進性はオーナーの自慢だ。
ビデオでは独特の操作とともに、トリップメーターの巻き戻し、小さなフロントウィンドウをゆっくりとスウィングするワイパーなど、さまざまな作動音もお楽しみいただきたい。
今回は雨の中の撮影となった。曇り始めた窓を長男のクレモン君(12歳)と三男のベノワ君(8歳)は、父親に指図されないのに黙々とスポンジで拭き始めた。ヒストリックカー家庭では、独特の教育が行われているようだ。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA、歴史写真提供:Citroen)
【Movie】戦前型「トラクシォン・アヴァン11CV」の特徴は?
【Movie】「トラクシォン・アヴァン11CV」の室内
【Movie】「トラクシォン・アヴァン11CV」の運転教えます!
(撮影・編集=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う 2026.2.25 かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。
-
第949回:「戦場のスパゲッティ」は実在するのか? イタリア陸軍ショップで聞いた 2026.2.19 世界屈指の美食の国、イタリア。かの国の陸軍は、戦場でもスパゲッティを食べるのか? 30℃でも溶けにくいチョコレートに、イタリア伝統のコース構成にのっとったレーション(戦闘糧食)などなど、エゼルチト(イタリア陸軍)のミリメシ事情に大矢アキオが迫る。
-
第948回:変わる時代と変わらぬ風情 「レトロモビル2026」探訪記 2026.2.12 フランス・パリで開催されるヒストリックカーの祭典「レトロモビル」。客層も会場も、出展内容も変わりつつあるこのイベントで、それでも変わらぬ風情とはなにか? 長年にわたりレトロモビルに通い続ける、イタリア在住の大矢アキオがリポートする。
-
第947回:秒殺で当確? 新型「ルノー・クリオ」が販売店にやってきた! 2026.2.5 欧州で圧巻の人気を誇る「ルノー・クリオ(日本名:ルーテシア)」がついにフルモデルチェンジ! 待望の新型は市場でどう受け止められているのか? イタリア在住の大矢アキオが、地元のディーラーにやってきた一台をつぶさにチェック。その印象を語った。
-
第946回:欧州に「277万円以下」のクルマなし! キューバ化を覚悟した冬 2026.1.29 欧州でお値段1万5000ユーロ未満の大衆車が壊滅状態に! 自動車の価格高騰はなぜ起き、そしていつまで続くのか? 一般の自動車ユーザーは、この嵐をいかにしてやり過ごそうとしているのか? イタリア在住の大矢アキオがリポートする。
-
NEW
「ジープ・アベンジャー4xeハイブリッド」発表会の会場から
2026.3.5画像・写真ジープブランドのコンパクトSUV「アベンジャー」に、4WDのハイブリッドバージョン「アベンジャー4xeハイブリッド」が追加された。その発表会(2026年3月5日開催)の場に展示された同モデルの外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ(4WD)【試乗記】
2026.3.5試乗記スバルから本格的な電気自動車の第2弾となる「トレイルシーカー」が登場。前後のモーターから繰り出すシステム最高出力はドーンと380PS。ただし、それをひけらかすような設定にはしていないのがスバルらしいところだ。スノードライブの印象をお届けする。 -
NEW
ホンダ・インサイト
2026.3.5画像・写真4代目はまさかの電気自動車(BEV)! ハイブリッドからBEVへ、4ドアセダンからSUVへと変身して、「ホンダ・インサイト」が復活を遂げた。ドアトリム/ダッシュボードヒーターにアロマディフューザーと、新たな快適装備を満載したその姿を、写真で紹介する。 -
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。