トヨタ・マークXシリーズ【試乗速報】
このクラスのベンチマークに 2009.11.20 試乗記 トヨタ・マークXシリーズトヨタのFRセダン「マークX」がフルモデルチェンジ。先代とプラットフォームは同じだが、その乗り味に変化はあったのか?
ツボを押さえたデザイン
乗る前には正直言って侮っていた。なにしろ新しい「マークX」は、プラットフォームは先代のものを踏襲し、車両価格が安くなっている。「マークIIの2リッターモデルと同じ値段で2.5リッターを成立させる」ために、走りを含めたいたるところに安普請のあとがうかがえた先代の轍を踏むことになるのでは……、そんな先入観を抱いていたのである。
そのエクステリアはさながら「ミニ・クラウン」といった趣だ。3眼のヘッドランプなど先代のアイデンティティを継承しつつも、強調された前後フェンダーなどのディテールが躍動感を演出している。チーフエンジニアは、かつて製品企画としてあの「ヴェロッサ」にも関わったというから、そういう要素もあるのかもしれない。
インテリアの仕立ての良さには目を見張る。先代のような奇をてらった意匠ではないが、ダッシュボード上側のソフト部分などは成形品質も高く、パッと見、上質感がある。しかし実はコストは先代の方が掛かっていたという。要するに見せ方の問題。デザイナーの自己満足ではなく、デザインにしても素材の使い方にしても、ユーザーに良いと思ってもらえるツボを押さえることがポイントというわけだ。
広さも十分満足できる。全幅が拡大した分、前後席とも左右方向の余裕が向上。特にリクライニング機能まで備えた後席は、FFのライバル達にも負けていない。
これは期待以上だ
生憎の雨の中、最初は「250G“Sパッケージ リラックスセレクション”」に乗った。主力の2.5リッターのスポーツグレード。オプションの235/45R18タイヤ付きの仕様である。
走り始めて角をひとつふたつ。ここでの「おや?」は、続く比較的Rの大きなコーナーをクリアしたところで確信に変わった。その走り、実にいい案配なのだ。適度にダンピングの効いた足まわりは、ストロークを規制することなくコーナーでも路面を離さない。そして、まさに良くできたFRらしい絶妙な前後バランスを保ったまま、気持ち良くコーナーを抜けることができる。「日本にこんな爽快なFR車あったっけ?」と、半ば本気で思ってしまうほどだ。
2.5リッター直噴エンジンはレギュラーガソリン仕様となったが、動力性能は依然として十分。ノーマルのほかECO/SPORT/SNOWを選べる走行モードスイッチで、ECOモードをチョイスしても遅いと感じることは無いはずである。
ここぞという時にはSPORTモードに入れれば、スロットル、電動パワーステアリング、減衰力可変ダンパーのAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンションシステム)の制御が切り替わり、よりスポーティな走りを楽しめる。嫌味なほどの差は無いが、味付けはしっかり変わる。ステアリングの手応えはもう少し増してほしいが、不満らしい不満はそれだけ。Dレンジでも反応するパドルシフトも操作感は上々だから、つい積極的に走らせたくなってくる。
これは期待以上だな……。試乗の後、思わず呟いてしまった。
快適で爽快な走り
続いて乗った一番の売れ筋であろう「250G」は、AVSが付かず、タイヤサイズも215/60R16となる。こちらは、乗り心地にわずかとはいえ、しなやかさが増しているが、基本は同じだけにスポーティさだって失われてはいない。アシが勝ち過ぎない走りは、もしかすると一番の好バランスと言えるだろうか。
一層のスポーツ性、あるいは走りの余裕を求めるなら3.5リッターエンジン搭載車となる。特に「350S」はギア比可変ステアリングシステムのVGRSが備わり、さらに引き締まった走りが刺激を味わわせてくれる。操舵と車体の動きのダイレクトな連関ぶりは、間違いなくスポーツセダンと呼ぶべきものだ。
そして最高峰に位置するのがラグジュアリー系の「プレミアム“Lパッケージ”」。力はあるが、それは猛々しさではなくゆとりに繋がっていて、ゆったり走らせても気持ちが良い。乗り心地はAVS付きの350Sにわずかに譲る感もあるが、しかし十分、快適という言葉の範疇に入る。クラウン要らず。そう言ってもいいぐらいである。
先入観とは裏腹の完成度の高さ、とりわけ走りの良さは、実は危惧したプラットフォーム継承こそがもたらしたものだった。ただし正確に言えば、それは先代から継承しているのではなく、先代が直近に出た“ZEROクラウン”からそれを流用していたように、新型も、様々な車種で使われて進化、熟成された、最新版を使っている。これはそもそもマークXにとってはオーバースペックとも言えるだけに、専用の開発をしなくてもポテンシャルアップに繋がったというわけだ。
味付けにも秘密がある。外乱による影響が小さく、微小舵角から操舵に対してリニアに反応するという、理想とした走りを実現するために、セットアップにはこれまでトヨタ車がやらなかったロジックも採り入れているという。その結果が、まさに今までのトヨタ車では経験したことの無いような、快適で爽快な走りとして結実したというわけである。
これまで個人的にはこのセグメントではノーマークだったマークX。ドライ路面や長距離は試していないので断定はできないが、しかしこの好感触には、新型はむしろベンチマークに据えられるかもしれないとすら感じている。キャッチコピーのセンスなどは相変わらず……といったところだが、このクラスのセダンを考えている人は、是非先入観を捨てて試乗してみることをお勧めしたい。
(文=島下泰久/写真=荒川正幸)
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島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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