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【スペック】全長×全幅×全高=4638×1939×1262mm/ホイールベース=2680mm/車重=1620kg/駆動方式=FR/6.2リッターV8DOHC32バルブ(571ps/6800rpm、66.3kgm/4750rpm)(欧州仕様車)

メルセデス・ベンツSLS AMG(FR/7AT)【海外試乗記】

伝説のモデル、誕生 2009.11.18 試乗記 河村 康彦 メルセデス・ベンツSLS AMG(FR/7AT)

AMGがイチから手がけたスーパースポーツ「SLS」が、いよいよデビュー。アメリカにおける公道&サーキット試乗で、そのパフォーマンスを確かめた。
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300SLへのオマージュ……じゃない?

2009年フランクフルトモーターショーの巨大メルセデスブースで、主役の座を務めた「SLS AMG」。マクラーレンとのコラボレーションの末に生を受けた「SLRマクラーレンの実質的後継モデル」ともっぱら評判のこのモデルは、「AMGがイチからプロデュースした初のモデル」というのがウリの1台でもある。と同時に、「SLRのような“スーパーカー”ではなく、より現実的な“スーパースポーツカー”を狙った」と紹介される点も見逃せない特徴だ。ワンオフ的な作りとなることで極めて高コストになるカーボンファイバー製から、アルミスペースフレーム式へとボディ骨格構造を変更したのは、そんな両者の狙い所の違いを、最も雄弁に語る象徴的な出来事と言えるだろう。

スラリと伸びたロングノーズに、前輪後方に口を開く2本のフィン付きサイドエアベント。ちょっと立ち気味のウインドシールドに、なによりも特徴的なデザインを持つガルウイング式ドア……とくれば、誰もがこれは「往年の300SLへのオマージュから開発されたモデル」と感じるはず。しかし、カリフォルニアで開催された国際試乗会の場で確認をとって驚いた。実はこのモデルは、決して「300SLの再来」などという思いから開発されたものでは無いというからだ。

そんなSLSのそもそもの開発の発端は、2005年にAMGが新社長を迎え、「独自のコンプリートカーを作りたい」という思いが芽生えたことで始まったという。そこで社内で2シータースポーツカーの基本パッケージングを作り込み、親組織であるメルセデスにもお伺いを立ててみると「何か昔のSLに近いね」と話題になったという。すなわち、このモデルには当初はガルウイング式のドアなど想定されていなかったそうだ。その採用も含め、かつてのSLとのイメージのリンクが意識され始めたのは、すでに車両の基本パッケージングが完成された後のことであったらしい。「実はウチ(AMG)の社内では、名前も別のものが考えられていた」とも聞いている。

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優れた前後重量配分、軽量なボディ

SLSに搭載されたパワーパックは、すでに様々なモデルに積まれて定評のある6.2リッターV8ユニットを、ドライサンプ化するなどで大幅リファインした心臓+リアにトランスアクスル配置したゲトラグ製の7段DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)という組み合わせ。達成された47:53という前後重量配分は、SLRで痛い目を見た(?)トラクション能力の確保という観点からすれば譲れなかったポイントであるだろう。前述のようにアルミスペースフレームを用いたホワイトボディの重量は、わずかに241kg。車両全体でも1600kg少々という重量は、全長4.6mプラス、全幅1.9mプラスというサイズを持つ、オーバー6リッターの8気筒エンジン搭載車としては、相当に軽量であることは言うまでもない。

高めのシルをまたいでドライバーズシートへと滑り込む作業は、実はさほど大変ではない。難儀するのは70度の角度で開いたドアを着座状態から閉じようとする時だ。率直に言って、この動作を優美に行うためには相当な“訓練”が必要となりそう。特に、多くの日本人にとっては、何らかのストラップの類が是非欲しい、そう感じられる事になりそうだ。

2人にとってキャビン空間は十分な広さだし、シートのリクライニング角も十二分。が、想像よりも大ボリュームのグローブボックスを除くと、小物入れの類は不足気味。ボディ構造上シート背後には、ミドシップカーのごとき壁がそそり立つので、ここにモノを置こうというのも現実的ではない。トランクスペースは、なんとかミドルサイズのスーツケースが収納できそうな176リッター。樹脂製リッドからは120km/hでリトラクタブル式のスポイラーが起きあがり、最高速の317km/h時には20kgのダウンフォースをリアアクスルに与えるという。

ピュアスポーツな走り

そんな「SLS AMG」の走りは、なるほどピュアなスポーツカー感覚がとても強いものだった。たとえトランスミッションの変速モードが「C(コンフォート)」にセットされていても、1速発進を行うことで加速は常に力強いし、ギア比のクイックなステアリングは、例のフロントミドシップレイアウトからくる後ろ寄りの着座位置と相まって、シャープな回頭感を味わわせてくれる。トラクション能力はリアエンジンやミドシップ車同等とまではいかない感覚だが、FRレイアウトの持ち主としては優れている実感はある。“コークスクリュー”で知られるラグナ・セカのサーキット試乗でも、そうした当初の印象に変わりはなかった。ただし、タイトなコーナーでのラフなアクセルワークでは、簡単にテールを張り出そうとするなど、4WDシャシーを持つ「ポルシェ911ターボ」のような懐の深さは感じることができないのも事実。テスト当日がドライ路面であったことは、神に感謝をしたい。

コンクリートの継ぎ目が剥がれかけたフリーウェイ路面上を含め快適性には、標準仕様車とオプション設定の“コンポジット・セラミック・ブレーキ”装着車の間に、意外に大きな差が感じられた。低速域ではそれなりの揺すられ感が目立つものの、総合的には「素晴らしい」と評価が可能な後者に対し、ばね下重量の増す前者は、やはり荒れた路面上でのバタつき感が大きい。
ダイレクトな動力の伝達感が嬉しいDCTは、一方で微低速時のマナーという点においてまだ改善の余地はありそう。時にクラッチワークがラフで、それなりのショックが発生するからだ。

0-100km/h加速が3.8秒で最高速が317km/hというのは、まさにスーパーカーのデータ。それでいながら、日本では2000〜2500万円の間と想定される、SLRよりも遥かにリーズナブルな価格は、やはり“お値打ち”と判断すべきだろう。なによりも、3000万円近い値札を下げる「SL65AMG」と比べても、遥かにスポーツカーしている点がこのモデルの大きな見所。単なる300SLへのオマージュなどには留まらない、「AMGにはピュアなスポーツカーなんか無理!」と、そう思っていた人に一泡吹かせそうな、新たな伝説のモデルの誕生だ。

(文=河村康彦/写真=メルセデス・ベンツ日本)

河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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