メルセデス・ベンツSLS AMG(FR/7AT)【試乗記】
スポーツカー純情派 2010.12.29 試乗記 メルセデス・ベンツSLS AMG(FR/7AT)……2996万円
メルセデスのスーパーカー「SLS AMG」は外観こそゴージャスであるけれど、そのドライブフィールは研ぎ澄まされたものだった。
オマージュにあらず
30歳代前半の義妹に「世界的に見れば坂口憲二よりお父さんの坂口征二のほうが100倍ビッグだ」という話をしたら、「はぁ?」と返され、その後でかわいそうな人を見る目で見られてしまった……。
だってお父さんは柔道家としては日本一、プロレスラーとしても北米王者でニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでメインを張った、と反撃しようと思ってヤメた。自慢気に昔話をするのはオジサンの悪い癖だ。
「メルセデス・ベンツSLS AMG」についても、1950年代の名車「300SL」の現代的解釈、みたいな色眼鏡で見るのはよそうと思う。このクルマは歴史を振り返るために開発されたわけではなく、軽量化のため基本骨格にアルミを用いたことやメルセデス初のデュアルクラッチ式セミATの採用など、新時代にチャレンジするモデルなのだ。
生い立ちをもう少し遡ると、メルセデスのチューニングやモータースポーツ活動を担当するAMGが初めてゼロから開発した市販モデルというところに行き当たる。最終的にはメルセデスの意向もあって「300SL」を彷彿(ほうふつ)とさせるガルウイングドアが採用されたが、開発時点では「300SL」の“サ”の字もなかったという。
駆動方式はFRで、最高出力571psを発生する6.3リッターのV8エンジンをフロントに積む。車両本体価格は2430万円。もちろん目ん玉が飛び出すほどの高額モデルであることに間違いはないけれど、626psのV8+スーパーチャージャーを積んだ「メルセデス・ベンツSLRマクラーレンロードスター」が7000万円だったことを思い出すと……、それでも安いとは思えませんね。
ハネ上がったガルウイングドアを閉めながら、子猫が昼寝できそうなぐらい幅広いサイドシルをまたいで乗り込む。ここで、エレガントにシートに腰掛けるにはちょっとしたコツがいる。
左を制する者はSLSを制す
コツとは、左手の使い方にある(左ハンドルの場合)。ドア内側の取っ手を左手でつかみ、右足でサイドシルをまたぎながら、着座の態勢に入ったところで左肘を畳む。自分みたいに座高が高いと座ってから手を伸ばしても取っ手に届く。けれども「座る」と「閉める」を別々に行うよりも、流れるように「座りながら閉める」ほうがフォームがきれいだ。左を制する者はSLSを制す。
さあ、乗り込みの練習をしてみましょう。
「SLS AMG」に近づいてロックを解除すると、ドア外側にドア開閉用のノブが出っ張ります。軽く腰をかがめてノブを引き上げてドアを開けます。ドアが開いたら、さきほど説明したように、座りながら左肘を畳み込むように閉めるべし、閉めるべし。
骨格部分にマグネシウムを用いたというシートに腰掛けると、ゴージャスな雰囲気に圧倒される。でもそれはほんの一瞬で、落ち着いてあたりを見まわせば、あるべきものが正しい位置に配置されていることに気付く。左手を伸ばせばすぐにライトのスイッチやパーキングブレーキの解除スイッチに届くのも、いつものメルセデスの流儀。
センターコンソールで赤く光るエンジンスタートボタンを押すと、間髪入れずに「ボン!」と6.2リッターのV8エンジンが始動し、アイドリングの硬質なバイブレーションがシートとステアリングホイールから伝わってくる。でも、決してイヤな気持ちにはならない。車体とエンジンが強固に結合していることを感じさせる、ソリッドな感触だ。
センターコンソールにはシフトスケジュールとエンジン特性を変えられるダイヤルが備わり、穏やかな順に「C(燃費優先)」「S(スポーツ)」「S+(スポーツプラス)」「M(マニュアル)」となる。もうひとつ、レーシングスタートを敢行する時に用いる「RS(レーススタート)」もあるけれど、最初はもちろん堅く「C」で行く。
飛行機の操縦かんをモチーフにしたというシフトセレクターをドライブに入れて軽くアクセルペダルを踏み込む。ここで、恥ずかしながらレスポンスの鋭さを表現する常套(じょうとう)句を使わせてください。アクセルペダルとエンジンが直結しているかのようなフィーリングだ。右足親指のわずかな動きに、エンジンが俊敏に反応する(これまた常套句)。
一対一の裸の付き合い
高級ラグジュアリースポーツというよりネイキッドなスポーツカーだという印象を受けた理由のひとつが、かみつくようなエンジンのレスポンス。そしてもうひとつ、奥歯にモノがはさまらないダイレクトな操縦フィールもある。乗り心地ははっきりと硬く、駐車場を出た瞬間にビシビシと路面からの突き上げが伝わってくる。「AMGパフォーマンスパッケージ」というオプションを装備する試乗車はサスペンションのセッティングも相当にスパルタンだ。ただし、不快だとは感じない。
なぜなら、ドライバーの入力に対して、望んだのとちょうどぴったりの反応をしてくれるからだ。一対一の裸の付き合いだ。「これぐらいステアリングホイールを切ればこれくらい曲がってくれるだろう→ビンゴ!」
「この強さでブレーキを踏めば、これぐらい減速してくれるだろう→ビンゴ!」
そして、ものの10分も乗ると、外乱に対しての反応も予想がつくようになる。
「あの段差だったらこれくらいのショックがあるだろう→ビンゴ!」
ただし、想像以上というか想像を絶したのがその加速力。走り慣れているはずの箱根ターンパイクの登り勾配でアクセルペダルを深く踏み込むと、「ゴーン」という無骨な音とともに、いままでに感じたことのない巨大な力で後ろから蹴っ飛ばされた。速い! もし助手席にアンパンマンが乗っていたら、間違いなく「目がまわる〜!!」と叫ぶはずだ。
これだけのパワーでありながら、大味な感じがしないのに感心する。エンジンの回転フィールは緻密(ちみつ)かつソリッドで、ドヨ〜ンとあいまいなところがない。最近のターボエンジンはかなり自然なフィーリングになったけれど、それでも磨きあげたNA(自然吸気)エンジンはやっぱりいいものだ。
見かけはド派手、中身は……。
ワインディングロードで、「C」「S」「S+」「M」の4つのモードを試してみる。正直、短時間の試乗では「C」と「S」の違いがはっきりしなかった。「S+」に入れるとがぜんレスポンスが鋭くなり、多少ではあるけれどシフトショックが増す。「M」モードでマニュアル操作した時の変速の素早さとスムーズさは、かなりレベルが高い。大変にファンな装置である。
特筆すべきはオプションに含まれるカーボンセラミックブレーキで、ブレーキを踏んだ瞬間のかっちりとしたタッチ、ブレーキペダルを踏んだ力に正確に比例して立ち上がる減速力など、素晴らしかった。そして何度ハードブレーキングを繰り返しても、このフィーリングは変わらない。
このクルマを買う人は2000万円以上の大金を投じるわけだから、このブレーキも絶対にオプション装備すべき。
コーナーが迫ってアクセルをオフにすると、「ババッ、ババッ」と昔のレーシングマシンのようなバックファイアが聞こえる。カッコいい。しびれる。そしてブレーキング、まるで地球の重力が増したかのようにずっしりとスピードを殺す。ハンドリングは軽快、痛快で、スパンスパンとノーズがインを向く。
クラシカルかつド派手な外観に目を奪われがちではあるけれど、話してみると純なヤツ。ちょっと不器用にも思えるくらい、ピュアなスポーツカーだ。「羊の皮を被った狼」という言い方があるけれど、SLSは「シルバーフォックスの皮を被った狼」だ。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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