プジョー208シエロ(FF/4AT)/208プレミアム(FF/4AT)【短信】
走って楽しいコンパクト 2012.10.23 試乗記 プジョー208シエロ(FF/4AT)/208プレミアム(FF/4AT)……240万円/216万円
プジョーの新しい顔「208」に試乗。コンパクト・プジョーの良き伝統である「操る楽しさ」は、どう受け継がれたのか。
存在感はクラス随一
プジョーから主力モデルの「208」が登場した。振り返れば「207」は2006年5月の登場以来まだ6年しかたっておらず、通常10年以上という長いモデルサイクルをとるプジョーにしては“短命”なモデルとなった。聞けば207は、208の登場後も現地では販売が続行されるという。
もっとも、プジョーにとって新旧モデルの並売は今に始まったことではない。「2」シリーズはプジョーの確固たる地位を維持してきた看板車種。旧モデルも依然として魅力があせず、需要があることを意味している。また長期間にわたって愛用されることの多いプジョー車にとって、補修パーツの確保にも役立つだろう。
さて、新しいプジョーである208の顔だが、フロントオーバーハングを75mm詰めた結果、口元も引き締められて「おちょぼ口」になった。この趣旨には賛同できる。しかし筆者は、リップラインの引き方に注文がある。まるでデザイン技法の基礎ともいえる雲形定規を使う手を滑らせたかのごとく、“下唇”のRの線引きを少しゆがめてしまった。ここは一筆書きでシューッとスムーズにつなげるべきである。正常な美的感覚の持ち主という自負がある筆者にとって、これは非常に気になるところなのだ。
曲率の違う曲線をつなぐ手法として、同種の“過ち”をおかした例は他メーカーでもいくつか見られる。しかし、時を経ずして修正されているから、これも製品初期の“ムラ”として適宜訂正されていくだろう。
このささいな一点を除けば、208はクラス随一の存在感を放つ。全長は4m未満のコンパクトサイズながら、立派で気品ある雰囲気を醸しつつ、これまでややきつい表情だったものが柔和でかわいらしい顔に改められ、クラスを超えて「この一台」として選べる魅力が備わった。
そのトピックに新設計の3気筒1.2リッターエンジンの登場がある。しかしその日本仕様は少し遅れて入ってくる。3ドアおよび5MTのみという設定で価格は199万円。今回試乗できたのは、120psの1.6リッター直4と4ATの組み合わせで、「プレミアム」と「シエロ」という車種である。
両者の違いは、ガラスルーフやバックソナー、アルミペダル、レザーシート、あるいは部分的にダークグレーに塗装されるアルミホイールの有無などで、価格はプレミアムが216万円、シエロが240万円となる。この他、6MTと156psのターボエンジンを積む「GT」が用意される。こちらは258万円である。
足の確かなコンパクト
数値の上でコンパクトになったボディーは、実際にシートに座ってみると室内空間の拡大を感じる。また、特徴的な小径ステアリングホイールと、その上から視認できるインストゥルメントパネルは、ドライバーに新しい感覚を与える。最初はちょっと戸惑うものの、今までの、狭い隙間からのぞくレイアウトよりもはるかに開放的で見やすく、しかもドライバーは姿勢を正して乗ることの重要性に気がつくだろう。視線の移動量も少なくて済み、外の景色の一部として絶えず視野に入ってくる。
これはヘッドアップディスプレイのように、数字を読み取る努力を必要とするものとは違い、アナログの良さが十分に発揮され、その針の動きや傾き具合で概略を把握できるものだ。また視線がステアリングホイールのアーチをクロスして移動することがないから、目の疲労の軽減にも役立つ。これは長距離走行で効果を発揮するだろう。
今までより腕を下向きにして回すステアリングも操作しやすい。腕の位置を維持する力を若干減らせるので、ここでも疲れは少なくなるはずだ。電動パワーステアリングの操舵(そうだ)力は軽い。小径化により操作量も少なくなるぶん、路面からの情報はより重要になるが、プジョーの本領が発揮されるのがこの部分だ。サスペンションチューンこそクルマの存在価値と自認するメーカーの面目躍如たるものがある。
この日は短時間の市街地試乗だったので、詳しく観察できたわけではないが、少なくとも日常的な場面における乗り心地の良さは、廉価な小型車の枠外にあることがわかった。より大きく高価なクルマでも、この208に及ばないものはたくさんある。
また全長で85mm、幅も10mmほど詰められたボディーの“隅切り”もあって、狭い路上での取りまわしは上々。Uターンも楽だ。中にいると広々しているのに、小回りが利いたり、外寸が小さく思えたりするこの感覚はどこか不思議である。また小さなクルマに乗っている不安感がないのは、しっかり守られていると感じるボディー剛性や、シャシー剛性の高さがあってのことだろう。
自分の意思で走りたいドライバーへ
今回は動力性能をうんぬんするほど十分には乗れなかったけれども、市街地での発進・停止は元気一杯で、活発に動き回れることを確認した。当初は変速のマナーがぎこちなかった「AL4」トランスミッションも、今ではとてもスムーズに作動するし、ちょっと空き地に頭を突っ込んでUターンするような場合でも、前進・後退の所作はサッサッとしておりモタモタしない。
また、左足ブレーキで止まっていても、放せばスッと遅滞なく発進できて安全。意思通りに動かせることが、結局は初心者からも経験豊富なドライバーからも歓迎される。妙な言い訳をしないところがプジョーらしい。
今回は試乗できなかったが、1.2リッター直3の82psエンジンと5MTの組み合わせは楽しみだ。なぜならば1070kgという車体の軽さにMTが組み合わされば、実用車であってもスポーティーな運転が可能だからだ。プレミアムが1160kg、シエロで1180kg、GTは1200kgであることを思えば、より期待は高まる。
高出力にラクさを求めるよりも、限られたパワーを自分で引き出す方が、運転として面白いことは言うまでもない。クルマの運転は、安楽なほどいいというわけではないだろう。今やブレーキを踏まなくても自動で止めてもらえる時代かもしれないが、そうやって乗せられているよりも、自分の意思で積極的に動かしてこそ、運転は楽しいものである。
プジョー208はクルマとの対話の中で、何が大切かという価値観をもう一度見直し、ATで乗るスポーツカーよりもMTで乗る小型軽量実用車の方が、実はスポーティーな運転を楽しめるということを教えてくれる。プジョーとは代々がそうしたスポーティーセダン的な思想に基づいて作られてきた。
クルマの楽しみかたは人それぞれだから、どんな使い方をしていようが非難するにはあたらないが、何も考えずにのほほんと移動するよりも、ステアリング入力とギアシフトを駆使してアシをいじめることに楽しみを見いだす人にとって、208はうってつけの一台である。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
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