日産フェアレディZ バージョン NISMO(FR/6MT)【試乗記】
意外なほどにオトナ向け 2009.08.20 試乗記 日産フェアレディZ バージョン NISMO(FR/6MT)……527万8350円
新型「フェアレディZ」に、ド派手なエアロで武装したスペシャルバージョンが登場。日産のモータースポーツ部門「NISMO」の名を冠するニューモデルの走りや、いかに?
見かけ倒しじゃない
日産のスポーツカー「フェアレディZ」に、ハイレベルな空力性能を与えたのが、「バージョン NISMO」というスペシャルモデルである。単に空気抵抗を低減させただけでなく、“マイナスリフト”という特性をも得ている。マイナスリフトとは文字どおり、車体が浮き上がらないように地面に押さえつける力のこと。ボディ表面の空気抵抗を可能な限り減らしたうえで、床下の空気をそれより速く流すことで、ボディを地面に吸い付かせてしまうのである。
これを実現したのは、ノーマルとは明らかに異なるロー&ワイドな“エアロボディ”だ。
ノーマルではショートオーバーハングが特徴だったフロントバンパーはロングノーズ化。さらに、バンパー両端のカナード(先尾翼)処理のおかげで、ノーズは地面に押さえつけられる。床面はGT-Rのようなフラットボトム的処理こそなされないものの、パーツの配置を細かく最適化することで空気流が速められ、ディフューザー式にえぐられたリアバンパーから空気が後方へ排出される。ちなみに排気のサイレンサーは、このリアバンパー形状に沿うように成形され、空力パーツのひとつとしても機能している。
その結果得られたマイナスリフトは、120km/h走行時の接地圧荷重でフロント8kg、リア17kg。先代のZ33型ではそれぞれ5kgと15kgだったから、数字のうえでは確かな進歩があったといえる。
タイヤのレベルが上がったような!?
しかし面白いことに(?)、実際走らせてみたところで、先代以上の“空力感”が得られることはなかった。むしろ強く感じられたのは、ノーマル以上にしっとりとしたタイヤの接地感だった。
思うにこれこそがマイナスリフトの恩恵だと、僕は推測する。フロントセクションの支持剛性が比較的低かった「Z33」では、ダウンフォースの圧迫感が、ボディ全体からステアリングにまでわかりやすくあらわれた。対する新型の「Z34」はそれら剛性が高く、かかる力を余裕で受け止めていられるように感じるのだ。
さらにヤマハ製のパフォーマンスダンパーが路面からのバイブレーションを減衰することで、手のひらには雑味のない路面のグリップ感が伝わってくる。結果として、まるでタイヤのグレードがワンランク上がったかのような印象と言ったら、おわかりいただけるだろうか。
もっとも、さらにアクセルを踏み込めば、強烈なダウンフォースを感じることもできるだろう。しかし、公道ではここまでが限界。さらなる“吸い付き感”を求めて、サーキット走行も試してみたいところだ。
スーパースポーツに非ず
空力性能だけでなく、新型は出力特性にも手が加えられている。
エンジン内部こそノーマルの「VQ37VHRユニット」と変わりないが、ECM(エンジンコントロールモジュール)とマフラーが変更され、出力はシリーズ最高の355psを発生するまでになった。その効果は、数字以上に吹け上がり感に出ている。VQ35HRユニットよりもストロークアップしたVQ37VHRは、エンジン回転のフィーリングがやや鈍重だったが、きれいに吹け上がるようになった。マフラーから吐き出されるサウンドは、昨今のメーカー事情もあってか、味気ないけれど……。
そんな「バージョン NISMO」は、ポルシェでいえば「911GT3」、あるいは「フェラーリF430スクーデリア」のようなポジションにいるのか? といえば、答えはノーだ。スーパースポーツとしての割り切りはできていない。むしろ意図的に、「BMW M3」のような上質なスポーツカーというポジションに置かれている。
実際の走りは、実に味わい深い。ひとつひとつの操作に対して、穏やかかつリニアな反応が返ってくる。その挙動を確認しながら自分のドライビングを修正してゆく行為は、口先だけではなく大人のスポーツドライビングといえる。
でも個人的には「NISMO」の名が付く以上――製作はオーテックジャパンだが――出場カテゴリーの有無に関わらずモータースポーツのベース車両であってほしい。
いまはそういう時代ではないのかもしれないが、素性としては、それだけの力がバージョン NISMOにはある、と思う。逆に、フェアレディZであれば、たとえモータースポーツのベース車両となっても、その大らかで楽しい乗り味をも、失わないでいられるとも思うのだ。
(文=山田弘樹/写真=高橋信宏)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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