三菱 i-MiEV(MR/1AT)【試乗記】
“家電化”も悪くない 2009.08.12 試乗記 三菱 i-MiEV(MR/1AT)……481万9500円
2009年6月に待望のデビューを果たした電気自動車「i-MiEV」。走行中にCO2を排出しないEVは、環境にやさしいクルマとして注目されているが、もうひとつ忘れてはならないのは、走りっぷりの良さだ。
この日を待ち焦がれていた
三菱の量産型EV「i-MiEV」が、日本の街を走り始めた。カタチは「i(アイ)」と変わらないけれど、これからのクルマ社会を大きく変える可能性が、このコンパクトなボディに秘められている。
モノフォルムボディとミドシップレイアウトが特徴の軽自動車iをベースにつくられたi-MiEVは、合計88セルのリチウムイオンバッテリーをホイールベース間の床下に収納するとともに、エンジンやトランスミッションの代わりにモーターなどのパワーユニットを搭載することで、iが誇る広い居住スペースをそっくりそのまま受け継ぐことに成功。全長3395×全幅1475×全高1610mmのボディも、iに比べて全高がわずかに10mm増しただけで、特徴的なスタイリングは維持されている。
90年代前半からさまざまなEVに触れ、量産車の登場を待ちきれず、ガソリン車をEVに改造した経験がある私としては、スタイリングもパッケージングも破綻なく仕上げられたi-MiEVに、ただただ驚くばかり。ベースのiを知らなければ、EV専用にデザインされたクルマといわれても信じてしまいそうだ。こんなEVの登場を、長いこと待ち焦がれていたのだ。しかも、日本の自動車メーカーが、一般にもなんとか手の届く価格で発売したというのだから、喜ばずにはいられない!
EVの醍醐味とは
そんなi-MiEVの市販モデルを、発売直後の7月下旬、公道で試すことができた。この日は薄曇りの空模様とはいえ、朝から気温が上昇。試乗車に乗り込み、パワーユニットを起動するとすぐに、助手席のKカメラマンがエアコンを全開にした。「よく効きますね」。当然、エアコンを使えば、バッテリーの電気を消費するから、そのぶん航続距離は短くなるが、EVだからといってガマンを強いるようでは多くの支持は得られない。
セレクターレバーをDに入れて、さっそくスタート。軽自動車だけに最高出力はきっちり64psに抑えられているが、0rpmから2000rpmまで180Nm(18.4kgm)の最大トルクを発生する特性の永久磁石式同期型モーターは、1100kgの車両重量をものともせず、余裕ある発進を切った。感覚的には2リッターエンジンを上回る力強さだ。そのままアクセルペダルを踏み続けると、静かに、スムーズに加速を続け、気がつくと狙った速度に達しているという感じ。トランスミッションは1段の固定式なので、もちろん変速のショックとは無縁。スピードが上がるにつれて徐々に加速は緩やかになるが、一般道はもちろんのこと、高速道路の合流や追い越し車線に飛び出すときでも、必要な加速が得られるのは頼もしい。
そのうえ、アクセルペダルに対するモーターのレスポンスが鋭く、それがダイレクトに反映されるのも、ガソリン車やハイブリッド車では経験できないEVの醍醐味。私がEVに惚れる理由が、実はここにある。EVはドライビングプレジャーに満ちあふれているのだ。
新時代のプレミアムコンパクト
ただし、力強さを楽しんでばかりでは、航続距離も短くなってしまう。そこで、i-MiEVにはパワーをセーブするEcoポジションが用意されている。セレクターレバーを切り替えると、確かにそれまでの勢いはなくなるが、それでも不満を覚えるほどもどかしいわけではなく、EVの気持ち良さを堪能することができた。
アクセルペダルを戻すと、パワーメーターの針が「Charge」を指し、回生ブレーキが効いているのがわかる。三菱のエンジニアによれば、その効き具合は、Dを4速相当のエンジンブレーキとすれば、Ecoは3速相当、もうひとつのBなら2速相当なのだそうだ。フットブレーキのフィーリングはとても自然だが、ハイブリッド車のように回生ブレーキとの協調制御を行わないから、それも当然のこと。市街地での航続距離を少しでも伸ばそうとするなら、回生ブレーキとの協調制御が将来必要になるだろう。
ところで、i-MiEVはガソリンモデルに比べて200kg重量が増えており、そのぶん、足まわりが強化されているが、乗り心地は重厚で快適。床下のバッテリーが、重心を低くしていることも、落ち着いた動きにつながっている。EVならではの静粛性も手伝って、i-MiEVの挙動には軽自動車の枠を超えた上質さが感じられる。新時代のプレミアムコンパクトと呼びたいクルマだ。
足りないところもあるけれど
試乗して気になったところもある。たとえば、高速道路を走行中、多少直進性が心許なく思える点。また、スピードが上がると、乗り心地に粗さが目立つときもあった。パワーユニットが静かなぶん、高速ではロードノイズが耳につくなんてこともある。ただ、このi-MiEVで高速を延々と走るわけではないから、このあたりのマナーは大目に見てもいいのではないか?
一方、多くの人が気にするのが、i-MiEVの航続距離だろう。メーカーによれば、i-MIEVの航続距離は、10・15モードで160km。実際には、市街地で冷暖房を使わないときが約120km、冷房を使うと約100km、暖房を使うと約80kmというのが目安だそうだ。これを十分と見るかどうかは人それぞれだが、シティコミューターとして割り切れば、実用に足る数字だと私は思う。過去、EVは航続距離を延ばすために、バッテリーを増やし、それによるボディの拡大や重量増が災いして、結局は航続距離があまり延びないという悪循環に陥ることがよくあった。そもそもEVはガソリン車の代わりにはならないし、長距離走行は、ハイブリッド車や燃料電池車に任せたほうがいい。
EVはオールマイティじゃないけれど、シティコミューターに特化すれば、他のエコカーとは別次元の効率や使いやすさを発揮する。そんなEVの価値が理解できる人なら、このi-MiEVにきっと満足するはずだ。
(文=生方聡/写真=菊池貴之)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。



































