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【スペック】全長×全幅×全高=4876×1983×1684mm/ホイールベース=2933mm/車重=2380kg/駆動方式=4WD/4.4リッターV8DOHC32バルブターボ(555ps/6000rpm、69.3kgm/1500-5650rpm)(欧州仕様車)

BMW X6 M(4WD/6AT)【海外試乗記】

誕生した、新時代の「M」 2009.07.27 試乗記 河村 康彦 BMW X6 M(4WD/6AT)

ハイパフォーマンスなSUV「BMW X6 M」が登場。主戦場となるアメリカで、サーキットをメインにその性能をテストした。リポーターは、今までにないキャラクターを感じたというが……。
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走りのSUV

「SAV」(Sports Activity Vehicle)に、「SAC」(Sports Activity Coupe)と、相変わらず孤高のコンセプト(?)を展開し続けるBMW。が、傍から見れば「それってやっぱりSUVでしょ!?」とそんな突っ込みを入れられてしまいそうな「X5」「X6」の両モデルに、ついに「M」バッジバージョンが追加された。

走りに特化させたSUVというアイデアが、なにも「ポルシェ・カイエン」のデビューに刺激をされて生まれたものではないことは、歴史が物語る。2000年3月に、一部ジャーナリストを対象に披露されたのが「X5 Le Mans」。X5のエンジンルームに、「マクラーレンF1」用に開発されたという12気筒エンジン(!)を押し込んだこのモデルは、実に約740psを発生するというモンスターSUV。もっとも、そんなこのモデルは当初から市販計画を持たない研究実験車だった。

Mバッジ付きSUVモデルの登場が真実味を帯びたのは、2008年に「およそ500psを発生するツインターボ付きエンジン搭載」と紹介された、「X6 Mプロト」の存在が明らかになってからだった。
プロトタイプとはいっても、こちらは逆に当初から市販化を意識した内容の持ち主。「2基のターボにはツインスクロールタイプを採用」と当初から囁かれたそんなフレーズには、これまでのMモデルが例外なく搭載してきた、高回転・高出力型という特性の心臓とは、明らかに異なるキャラクターが予想された。

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異次元感覚のエンジン

そして、いよいよリリースとなった市販型のX6 M。このモデルが搭載する心臓の比類なきキャラクターは、カタログスペックからも明らかだ。プロトタイプで報じられた「およそ500ps」を遥かに凌ぐ、555psの最高出力も驚嘆ものだが、さらに驚かされるのは69.3kgmと強大なトルク値を、実に1500〜5650rpmと、幅広いゾーンで発生することだった。

その秘密は、特異な排気系のデザインにある。通常とは逆にバンク内に収められた排気系は、マニホールドからターボチャージャーを経由して触媒コンバーターに至るまでが極めてコンパクト。左右バンク2つの燃焼室からの排気を受け持つ「エキゾーストチューブ」はターボチャージャー手前で合流され、排出されたばかりで高いエネルギーを持つ排気ガスを一定の安定したリズムで絶え間なくタービンに送り込む。これにより、優れたレスポンスと高い過給圧を実現させているのだ。

0-100km/hまで、わずかに4.7秒という、4輪が大地を蹴っての加速力は、それが2.4トンという重量の持ち主であることを忘れさせる俊足ぶり。ただし、まるでメカニカルスーパーチャージャーの持ち主のごとき機敏なアクセルレスポンスを示す出力アシストの仕方は、ターボチャージャー付きエンジンとしては“異次元感覚”だ。「BMWの、そしてM社のエンジン開発力はやはり群を抜いている」……そんな感銘を受けるのは、まさにこんな時である。

 
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バンク角90度のシリンダーの間に、2基のターボチャージャーと触媒コンバーターが配置される。
バンク角90度のシリンダーの間に、2基のターボチャージャーと触媒コンバーターが配置される。 拡大
 
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今までにないパワーパック

組み合わされるトランスミッションは、形式としてはオーソドックスなトルコン式6段AT。「現状ではここまでの大トルクエンジンに対応するユニットがないし、このカテゴリーでは牽引に対する要求も厳しい」といった理由から、今回はあえてDCTにはトライをしなかったというが、そんなトランスミッションをマニュアルモードで用いると、極めて素早いシフトとタイトな繋がり感を味わわせてくれる事に感心した。「このモードでは敢えて残した」というわずかなシフトショックも、たしかにアップテンポな走りでは心地良いドライビングのリズムを刻むひとつの演出と受け取れる。ズルズル滑るという、旧態依然としたトルコンATの感覚は、そこには全く存在しない。

10mmのローダウンというメニューを含んだ強化サスペンションを用い、アクティブスタビライザーやリアのヨーコントロールシステムを標準採用、ファットなハイグリップシューズを履いて……と、強心臓に対応すべく足腰の強化にも抜かりはない。が、それほどの手当てを施しつつも最終局面では、やはりアンダーステアが強めに表れるのは、やはりSUVなりの走りのキャラクターが隠せないことの、ひとつの証明であるかもしれない。

ただし、このようなコメントはあくまでも本格的なサーキットコースを、遠慮のないスピードで駆け巡った際のもの。実際には、4輪グリップの限界値は公道上で探るのが不可能というほどに高いものだし、そもそも国際試乗会のプログラムの中にそうしたシチュエーションを盛り込むという事自体、そのスポーツカーばりの走りのポテンシャルの高さに対する自信のほどを裏付けている。

「やはりエンジンが主役のスーパーモデル」という点では、Mモデルの文法どおりであるX6 M。一方、「高回転型エンジン+MT」ではなく、「全域トルク型+トルコンAT」を採用したことで、誰でもどこでも快適・快速にという、これまでのMモデルにはなかった、初のキャラクターを備えている。AMGのように「シリーズ中で一番高いの持ってこい!」的な買われ方をしても、どんなオーナーをも満足させられる。「新時代のM」の誕生でもあるのだ。

(文=河村康彦/写真=BMWジャパン)

 
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タイヤは前275/40R20、後315/35R20と、前後異サイズを装着する。
タイヤは前275/40R20、後315/35R20と、前後異サイズを装着する。 拡大
 
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河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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