BMW X6 M(4WD/6AT)【海外試乗記】
誕生した、新時代の「M」 2009.07.27 試乗記 BMW X6 M(4WD/6AT)ハイパフォーマンスなSUV「BMW X6 M」が登場。主戦場となるアメリカで、サーキットをメインにその性能をテストした。リポーターは、今までにないキャラクターを感じたというが……。
走りのSUV
「SAV」(Sports Activity Vehicle)に、「SAC」(Sports Activity Coupe)と、相変わらず孤高のコンセプト(?)を展開し続けるBMW。が、傍から見れば「それってやっぱりSUVでしょ!?」とそんな突っ込みを入れられてしまいそうな「X5」「X6」の両モデルに、ついに「M」バッジバージョンが追加された。
走りに特化させたSUVというアイデアが、なにも「ポルシェ・カイエン」のデビューに刺激をされて生まれたものではないことは、歴史が物語る。2000年3月に、一部ジャーナリストを対象に披露されたのが「X5 Le Mans」。X5のエンジンルームに、「マクラーレンF1」用に開発されたという12気筒エンジン(!)を押し込んだこのモデルは、実に約740psを発生するというモンスターSUV。もっとも、そんなこのモデルは当初から市販計画を持たない研究実験車だった。
Mバッジ付きSUVモデルの登場が真実味を帯びたのは、2008年に「およそ500psを発生するツインターボ付きエンジン搭載」と紹介された、「X6 Mプロト」の存在が明らかになってからだった。
プロトタイプとはいっても、こちらは逆に当初から市販化を意識した内容の持ち主。「2基のターボにはツインスクロールタイプを採用」と当初から囁かれたそんなフレーズには、これまでのMモデルが例外なく搭載してきた、高回転・高出力型という特性の心臓とは、明らかに異なるキャラクターが予想された。
異次元感覚のエンジン
そして、いよいよリリースとなった市販型のX6 M。このモデルが搭載する心臓の比類なきキャラクターは、カタログスペックからも明らかだ。プロトタイプで報じられた「およそ500ps」を遥かに凌ぐ、555psの最高出力も驚嘆ものだが、さらに驚かされるのは69.3kgmと強大なトルク値を、実に1500〜5650rpmと、幅広いゾーンで発生することだった。
その秘密は、特異な排気系のデザインにある。通常とは逆にバンク内に収められた排気系は、マニホールドからターボチャージャーを経由して触媒コンバーターに至るまでが極めてコンパクト。左右バンク2つの燃焼室からの排気を受け持つ「エキゾーストチューブ」はターボチャージャー手前で合流され、排出されたばかりで高いエネルギーを持つ排気ガスを一定の安定したリズムで絶え間なくタービンに送り込む。これにより、優れたレスポンスと高い過給圧を実現させているのだ。
0-100km/hまで、わずかに4.7秒という、4輪が大地を蹴っての加速力は、それが2.4トンという重量の持ち主であることを忘れさせる俊足ぶり。ただし、まるでメカニカルスーパーチャージャーの持ち主のごとき機敏なアクセルレスポンスを示す出力アシストの仕方は、ターボチャージャー付きエンジンとしては“異次元感覚”だ。「BMWの、そしてM社のエンジン開発力はやはり群を抜いている」……そんな感銘を受けるのは、まさにこんな時である。
今までにないパワーパック
組み合わされるトランスミッションは、形式としてはオーソドックスなトルコン式6段AT。「現状ではここまでの大トルクエンジンに対応するユニットがないし、このカテゴリーでは牽引に対する要求も厳しい」といった理由から、今回はあえてDCTにはトライをしなかったというが、そんなトランスミッションをマニュアルモードで用いると、極めて素早いシフトとタイトな繋がり感を味わわせてくれる事に感心した。「このモードでは敢えて残した」というわずかなシフトショックも、たしかにアップテンポな走りでは心地良いドライビングのリズムを刻むひとつの演出と受け取れる。ズルズル滑るという、旧態依然としたトルコンATの感覚は、そこには全く存在しない。
10mmのローダウンというメニューを含んだ強化サスペンションを用い、アクティブスタビライザーやリアのヨーコントロールシステムを標準採用、ファットなハイグリップシューズを履いて……と、強心臓に対応すべく足腰の強化にも抜かりはない。が、それほどの手当てを施しつつも最終局面では、やはりアンダーステアが強めに表れるのは、やはりSUVなりの走りのキャラクターが隠せないことの、ひとつの証明であるかもしれない。
ただし、このようなコメントはあくまでも本格的なサーキットコースを、遠慮のないスピードで駆け巡った際のもの。実際には、4輪グリップの限界値は公道上で探るのが不可能というほどに高いものだし、そもそも国際試乗会のプログラムの中にそうしたシチュエーションを盛り込むという事自体、そのスポーツカーばりの走りのポテンシャルの高さに対する自信のほどを裏付けている。
「やはりエンジンが主役のスーパーモデル」という点では、Mモデルの文法どおりであるX6 M。一方、「高回転型エンジン+MT」ではなく、「全域トルク型+トルコンAT」を採用したことで、誰でもどこでも快適・快速にという、これまでのMモデルにはなかった、初のキャラクターを備えている。AMGのように「シリーズ中で一番高いの持ってこい!」的な買われ方をしても、どんなオーナーをも満足させられる。「新時代のM」の誕生でもあるのだ。
(文=河村康彦/写真=BMWジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】 2026.10.16 欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
NEW
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。










