BMW X6 Mコンペティション(4WD/8AT)
自在さこそがMの証し 2023.11.28 試乗記 マイナーチェンジで48Vマイルドハイブリッド機構を搭載した「BMW X6 Mコンペティション」が上陸。スポーティーさを強調しモダンに進化したとうたわれる内外装の仕上がりとともに、625PSの最高出力を誇る元祖クーペSUVの走りを確かめた。キドニーグリルが目立たない?
「X5」とともにマイナーチェンジを受けたX6の新しさは、外観では矢印型デイタイムライトを内蔵したヘッドランプや大型フロントバンパーなどがあげられる。さらに「M60i xDrive」(以下、M60i)と、今回の「Mコンペティション」というM系モデルは、これまで同様キドニーグリルがブラックとなるのだが、新デザインではそれをブラックバンパーと一体化したように見せているのも特徴だ。
内装では先に改良された「X7」同様に、2枚の大型TFT液晶をつなげたカーブドディスプレイ、アンビエントライトバーを内蔵した新意匠のダッシュボードといったところが新しい。メカニズム面ではエンジンのピーク性能に変わりはないものの、12PS/200N・mを発生する48Vマイルドハイブリッド機構が全車に追加された。
今回試乗したのは、そんなX6でも、よりカリスマ的最速モデルの“M”=Mハイパフォーマンスモデルだ。日本では以前からMコンペティションのみのラインナップだったが、本国では少し穏やかな「X6 M」も存在した。ただ、直下に“ハイ”がつかないMパフォーマンスモデル=M60iを抱えるようになったからか、このマイチェン版からは世界的にMコンペティションのみとなっている。
こうして最新のX6 Mコンペティションを眼前にすると、キドニーグリル周辺のブラックが、M60iよりさらに広範囲になっているのに気づいて、興味深い。性格の悪い筆者などは「レクサスのスピンドル?」なんてツッコミを入れたくなったのだが、いずれにしても、そこにはキドニーをあえて目立たせたくないという意図が明白である。
BMWにとってのキドニーは、他社には望むべくもない絶大すぎる認知度と、長い長い歴史を誇る武器である。それゆえに、あつかいに困ることもあるんだろうな……と勝手に納得してしまった。本当のところは知らんけど。
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ファンが望むツボを心得ている
運転席に座ると、ステアリングスポークの左右に「M1」「M2」という赤いスイッチ(好みのセッティングを記憶させるショートカットモード)があり、センターコンソールにはシフトセレクターがそびえ立つのが、最近の真正Mの証しである。ちなみに、ほかのX6のシフトセレクターは今回のマイチェンを機に、最新BMWのお約束であるツマミ式レバーに変更されている。
ただ、それ以外の真正Mたるゆえんがわかりにくい……と思う向きもあるかと思う。実際、X6でもこのMコンペティションとM60iが搭載するエンジンは、ともに4.4リッターV8ツインターボエンジンで、「S68」という型式名も同じ。さらに、750N・mという最大トルク値も選ぶところはない。
シャシー関連では可変ダンパーが「プロフェッショナル」となり、4WDが「アクティブMディファレンシャル」を搭載する「M xDrive」と呼ばれる専用品となるが、逆にいえば連続可変ダンパーであることや4WDの仕組み自体はM60iと基本的に共通である。同じDNAをもつX5ではM60iがエアサス、Mコンペティションがコイルサスという差別化がなされているものの、このX6は両方ともコイルだ。
とはいえ、約90年という歴史をもつキドニーほどではないが、あの「M1」から数えれば40年以上の歴史をもつ真正Mである。さすが、ファンが望むツボは心得ている……というのが、最新のMコンペティションに乗ってみてのウソではない気持ちでもある。
まず、エンジンにおける真正Mならではのキモは、レブリミットを1000rpm上乗せすることで、最高出力(=単位時間あたりの仕事量)を、M60iの95PS増しとなる625PSまで引き上げていることだ。実際に乗っていても、この最後の1000rpmこそが“Mの特権”というオーラがヒシヒシである。
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不敵な乗り心地が逆に新鮮
M60iのV8は6500rpmのリミットまでなんの引っかかりもない。しかし、Mコンペティションはそこからサウンドのトーンを1段階上げて、さらにレスポンスも上乗せしながら“吹け上がる”のだ。まあ、かつての超高回転型自然吸気ユニットのように“絞り出す”というのともちがうが、逆にこの大排気量エンジンが7500rpmまでシレッと回り切るところに、あらためて技術の進化を感じもする。
低回転域のターボラグは皆無ではないものの、中域の微妙なオンオフでのレスポンスは増した気がするのは、新たに追加されたマイルドハイブリッド効果だろうか。いっぽうで、それに気をよくしてアクセルを粗雑にあつかうと、パワートレイン全体がギクシャクと盛大に揺れてしまうこともあった。これは試乗車特有の現象かもしれないが、750N・mの怪力に縁の下のモーターアシストまで加われば、いよいよマウント類の物理的限界も近いのか……とも思わせた。次期プラットフォームは正面から電動化に向き合う必要があろう。
シャシー関連の特権も、実際には前記のダンパーや4WDの専用プログラムだけではない。Mコンペティションではタイヤがより武闘系の「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S」で、フロントが21インチ、リアが22インチという前後異径(M60iは前後とも21インチ)になる。
実際、そのいかにもゴリッとした肌ざわりの不敵な乗り心地は、今では逆に新鮮でもある。特別な役物スポーツモデルでも、設定によって高級サルーンもかくやの快適性を示すのが最近の当たり前だ。この真正MのX6もダンパーをコンフォートにすれば路面のアタリは丸められるが、硬いバネとのバランスのせいか、フラつくような上下動が増える。これならダンパーも素直に引き締めたほうが、動きに一体感が出てトータルでは心地よい。
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アクセルを踏むほど回頭性が増す
ただ、個人的にX6 Mコンペティションの走りで最大の走りのツボとなるのは、M60iに標準装備される「インテグレーテッドアクティブステアリング」が省かれることだと思う。この“可変レシオステアリング+後輪操舵”機構は、小回りを利かせるだけでなく、操舵量を少なく、また操舵力も軽くできるのがメリットだ。しかし、人間の操作とクルマの挙動の関係は、ときと場合によって微妙に変わる。
以前に試乗経験のある「X7 M60i xDrive」や「XM」と比較しても、今回のステアリングが、圧倒的に雑味がなくピュアなのは、やはり「インテグレーテッド~」のような可変機構が介在しないからだろう。目前のコーナーの曲率を先読みして、積極的に舵角を決めてターンイン……みたいな古典的な運転スタイルがピタリと決まる。
もっとも、最新の高級SUVとしては、とくに駐車場やせまい路地でのステアリング操作があからさまに忙しいのは否定できない。今回も某コインパーキングに止めただけでタメ息が出てしまったのは、筆者のような50代オヤジの悲哀というほかない。
お仕着せのドライブモードはなく、エンジン、変速機、ダンパー、パワステ、ブレーキ、4WD制御、ADASの介入具合……までを個々に設定できる(しなければならない)のも、今の真正Mの特権(いい意味での面倒くささ)だが、すべてをハードに締め上げると、この巨体が1~2クラス、いや3クラスはクルマが小さく軽くなったように錯覚する。アクセルを積極的に踏むほど回頭性が増すのは、巧妙な4WDに加えて、明らかにリアのキック力を重視したタイヤ設定とリアに仕込まれた「Mスポーツディファレンシャル」の効果だろう。
雨後のタケノコのように増殖したスーパーカーブランドのSUVを見渡せば、これより速いSUVはいくつか思いつく。しかし、これほどダイレクトで、これほど自在に振り回せる大型SUVはそうはない。ある意味でちょっと古典的ともいえるが、それこそが真正Mである。
(文=佐野弘宗/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW X6 Mコンペティション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4955×2020×1695mm
ホイールベース:2970mm
車重:2400kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 48バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:625PS(460kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-5500rpm
モーター最高出力:12PS(9kW)/2000rpm
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/0-300rpm
タイヤ:(前)295/35ZR21 107Y XL/(後)315/30ZR22 107Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:7.8km/リッター(WLTCモード)
価格:2012万円/テスト車=2193万4000円
オプション装備:ボディーカラー<アイルオブマングリーン>(0円)/フルレザーメリノ<シルバーストーン、ブラック>(0円)/Mコンフォートパッケージ<ソフトクローズドア+アクティブベンチレーションシート[運転席&助手席]+4ゾーンオートマチックエアコンディショナー+マッサージシート[運転席&助手席]>(37万8000円)/Mカーボンエンジンカバー(16万4000円)/Mカーボンミラーキャップ(12万3000円)/Mカーボンリアスポイラー(14万4000円)/Mコンパウンドブレーキ<レッドハイグロスキャリパー>(6万8000円)/スカイラウンジパノラマガラスサンルーフ(38万3000円)/Bowers&Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(55万4000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:354.7km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(5)/山岳路(4)
テスト距離:330.1km
使用燃料:52.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.3km/リッター(満タン法)/6.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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