BMW750i(FR/6AT)【試乗速報(後編)】
主役はだれだ?(後編) 2009.04.22 試乗記 BMW750i(FR/6AT)……1549万5000円
新型BMW7シリーズとはどんなクルマで、どっちを向いて進化したのか? メルセデス・ベンツSクラスやアウディA8といったライバル車と比較しながら、その特徴を浮き彫りにしていく。
いちげんさんでも大丈夫
フォーマルカーとしても使われる大型ラグジュアリーセダンの定番は、「メルセデスSクラス」である。定番に戦いを挑むのは、つくるほうにも、乗るほうにも勇気がいる。2002年に出た先代7シリーズも、きわめて勇気のあるクルマだった。そのため、初試乗のとき、ぼくは出先から広報部にSOSの連絡を入れなければならなかった。まったく新しい運転操作ロジックが理解できなくて、助けを求めたのである。
こんどの新型でうれしいのは、すべての「いちげんさん」をパニックに陥れたひとりよがりの操作方法が、ほとんどあらためられたことだ。新しいことをやるのも勇気なら、あらためるのも勇気である。ATのセレクターは、センターフロアに戻ってきた。駐車ブレーキのスイッチもわかりやすいところにある。
先代7シリーズで初登場した集中コントロールのiDriveは、最新バージョンで大きく改良されて新型7シリーズに載った。エアコンやオーディオやカーナビを扱うのに、かつてはコンピュータ頭がないと手も足も出なかったが、いまはボタンによる「引き出し」が増えて、コマンドが出しやすくなり、現在地点もわかりやすくなった。これなら40代後半から50歳代にかけてという、7シリーズのユーザー層を悩ませることはないはずだ。
高級車は「時間」がつくる
勇気と言えば、「アウディA8」も勇気ある大型ラグジュアリーセダンである。ドイツ車のこのクラスとしては最も新参で、「アウディV8」までさかのぼっても、キャリアは21年。A8と名前を変えてからは現行モデルで2代目だ。
試乗したのはシリーズのフラッグシップ、「A8 L 6.0クワトロ」(1787万円)。ノーマルをさらに13cmストレッチしたロングボディに6リッターW12気筒を積む。7シリーズは今回、ボンネット、ルーフ、フロントフェンダー、ドアなどを鉄からアルミに換えて軽量化を図ったが、A8は骨格のフレームすべてがアルミでできている。ロングボディの4WDでも、車重(2100kg)を750iのプラス60kgに収められたのは「アウディスペースフレーム」のなせるわざだろう。
VIPセダンとはいえ、A8は会長ではなく、2代目若社長、もしくは若旦那的な雰囲気のクルマだ。そういう意味では7シリーズに近いが、5代続く「7」ほどの「コク」はない。いい加減なことを言っているわけではない。高級車ほど、「時間」がつくるクルマはないと思う。
主役はドライバー
6リッターW12気筒は450ps。でも、スペックから想像するほどの格違い感はない。ロングボディということもあって、敏捷性は750iのほうが上だ。荒れた舗装路だと、フロアが微振動するのが気になったが、帰り道にリアシートに乗せてもらったら、後席はおよそバイブレーションフリーで、別室のように快適だった。
このクラスで設計者が頭を悩ますのは、主役はだれかということだろう。ショーファードリブンで使われるクルマに、過剰なファン・トゥ・ドライブを与えても、ほめてはもらえない。かと思えば、ふだんは後席だが、休みの日は自らハンドルを握るというオーナーもいる。そのへんがミニバンやスポーツカーをつくるのとは違うむずかしさだ。
新型7シリーズの主役は、間違いなくドライバーである。そういう意味で、BMWのフラッグシップとして筋が通っている。おカネより運転が好きな人のラグジュアリーセダンである。
(文=下野康史/写真=荒川正幸)
![]() |
![]() |

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.20 「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。