第165回:ニコラ・プロストにインタビュー WEC富士6時間レースで善戦したレベリオン・レーシングとは?
2012.11.13 エディターから一言第165回:ニコラ・プロストにインタビュー WEC富士6時間レースで善戦したレベリオン・レーシングとは?
世界耐久選手権(WEC)第7戦「富士6時間耐久レース」(2012年10月12日〜14日、富士スピードウェイ)では見事、トヨタの「TS030ハイブリッド」が2台の「アウディR18 e-tron クワトロ」を抑えて優勝をさらったが、そのすぐ下ではプライベーター参戦ながら4位と7位を獲得したチームがあった。「ローラB12/60」のシャシーにトヨタエンジンを搭載したレベリオン・レーシングである。レベリオンとはどんなチームなのか。同チーム、そしてエースドライバーを務めるニコラ・プロストにインタビューした。
2011年シーズンから「ローラ・トヨタ」で参戦
世界耐久選手権(WEC)は、その名のとおり、世界中のサーキットを転戦するイベントであり、年間8戦の中にはセブリングやスパ・フランコルシャン、「偉大なる草レース」と言われるルマン24時間耐久レースが組み込まれている。そしてこの日本で「WEC JAPAN」が開催されたのは、実に24年ぶりのことなのであった。
レースはルマン常勝メイクスであるアウディが「R18 e-tron クワトロ」を2台走らせ、これをトヨタが「TS030ハイブリッド」で迎え撃つ、LMP1ワークス頂上決戦が最大の見どころ。ご承知のとおり、トヨタが見事優勝をさらったが、そのすぐ下ではプライベーター参戦ながら4位と7位を獲得したチームがあった。「ローラB12/60」のシャシーにトヨタエンジンを搭載したレベリオン・レーシングである。今回は、そのチームとドライバーにインタビューすることができた。
インタビューに答えてくれたのは、レベリオン・レーシングのコミュニケーション・ディレクターであるステファン・ジェルヴェ氏。ここからは一問一答形式でご紹介しよう。
――レベリオン・レーシングはいつからレースを始めたのですか?
レベリオンとしては2010年からです。しかしチームとしては、1995年から活動していました。2004年のルマンシリーズではポルシェでクラス優勝し、2008年からLMP2へ。2010年にトヨタがLMP1車両へのエンジン提供を検討していたとき、シャシーコンストラクターであるローラがわれわれをトヨタに紹介してくれました。そこから今の体制が続いています。
――F1やDTM、FIA-GTなどさまざまなカテゴリーがある中で、なぜ耐久レースを選んだのですか?
一番の理由はコストです。F1に比べてコストがかからず、レベルの高いレースができる。世界でも注目されているレースがWECだと思います。
F1からのテクノロジーの移植も多いですよ。また、われわれのチームにもF1で活躍したエンジニアがいます。マクラーレンでアイルトン・セナのエンジニアを担当していたジェームス・ロビンソンや、ジョン・ジェントリーがそうです。彼らのおかげで、この5年間チームは急速に成長することができました。
そしてチーム全員が「レースに参加している」という気持ちになれることが、耐久レースの何よりの魅力です。
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LMP1クラスで最高のプライベーターを目指す
――マシンにロータスの文字がありますが、どうしてですか?
ロータスはビジネスパートナーです。彼らは世界中で知名度を上げたいと考えています。またロータスがトヨタのエンジンを使っていることも関係していますね。
テクニカルな提携は今のところありませんが、将来的には彼らもルマンをやりたいと考えているようです。
――LMP1クラスには、トヨタとアウディという2大ワークスがいます。その中で、毎回どのような作戦を立てて勝利を狙っていますか?
レベリオン・レーシングのポジショニングは、LMP1における最高のプライベーターであることです。だからアウディやトヨタと争うつもりはありません。仮に闘ったとしても、ディーゼルハイブリッドやガソリンハイブリッドマシンのパワーには、ガソリンカーではかなわないでしょう(笑)。
――WECはF1や日本のSUPER GTとは違って、非常に穏やかな雰囲気があります。あななたちはトップチームですが、どうしてそんなにフレンドリーなのですか? (例えばパドック裏には、貴重なドライカーボン製のレーシングカウルが無造作に立てかけられていたりするのだ)
それはまず、日本のレースファンたちのマナーがとてもよい、ということがあるでしょう(笑)。
それと、耐久レースは時間に余裕があるので、メディアに対しても本当のことをきちんと話せるんです。これがF1だったら、20分程度で30人のインタビュアーを相手にしなくてはなりません。
ニュルブルクリンク、スパ、ルマンなど、耐久レースはヨーロッパで始まりました。私たちはこの長い時間を、どうやって楽しんだらいいのかわかっています。耐久レースのスピリットとは、「出場するみんな、そして見に来ているみんなと一緒に楽しむこと」なんですよ。
最後の質問にもあるように、インタビューはとても和やかなムードの下で行われた。
これまでの経験から、トップチームにインタビューできるといっても四角四面な内容ばかりで、大したことは聞けないだろうと思っていた。しかしその予想はいい意味で裏切られた。
普通だったら「ノン」とひとことで終わってしまうような質問に対しても、少し考えたあとにゆっくりと、丁寧に答えてくれたのだ。
彼らはチームをPRすることに熱心でありながら礼儀正しく、気さくだった。来年はこちらがもっとWECを勉強して、その面白さを引き出さなくてはいけない。
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ニコラ・プロストにインタビュー
そんなレベリオン・レーシングの12号車には注目すべきドライバーが乗っていた。エースドライバーを務めるニコラ・プロスト。偉大なるアラン・プロストの息子だ。
――なぜあなたはドライバーとしてこのシリーズを選んだのですか?
フォーミュラ1以外ではこのLMP1が一番速く、一番システムが整ったシリーズなので、F1かこのLMP1に乗りたかったんです。ルマン24時間耐久レースに出られることも理由のひとつですね。
――あなたにとってレベリオンはどんなチームですか?
すごく居心地のいいチームです。今年で4年目で、初めはそんなに強いチームではありませんでしたが、どんどん力をつけてきました。
――富士スピードウェイを走るのは初めてですか?
はい。施設がとてもきれいなサーキットですね。それと観客が多い。とても大切なことですよね。コースはセクター3が大変。LMP1は大きいから、セクター1からセクター2まではいいのですが、セクター3が大変です。
――このマシンをドライブするのは難しい?
結構難しいと思います。ダウンフォースが少ないですから。また富士スピードウェイはそれほど大きくないサーキットですし、各クラスの台数も多いので、シリーズ戦の中で今日が一番難しいでしょうね。
――ところで、そもそもレーサーになろうと思ったきっかけは何ですか?
大学を卒業してから、父に「レースに挑戦したい」と相談したんです。最初はフォーミュラ・ルノーでした。そのカテゴリーで僕は成功し、レースが大好きになってしまったんです。それから今まで、ずっとレースを続けています。モーターレーシングは僕の人生そのもの。僕の生きる糧であり、いつだってレースのことを考えています。
――お父さんにドライビングを教えてもらえるんですか?(笑)
少しだけ(笑)。当時と今とではクルマが全然違いますから。アドバイスをもらうことはありますが、クルマを運転するときは結局自分ひとりですから、自力で頑張っていますよ。
――お父さんの名前はプレッシャーになりませんか?
レースを始めたときは常にプレッシャーがありました。でも今は大丈夫です。レベリオン・レーシングはマシンもチームも世界で一番のチームです。そこでドライブできていることが、僕の実力を証明していると思っています。
――どうやったら速く走れるようになりますか?
一番大切なのは、毎日走ること。一生懸命仕事をして、それをデータとして理解することです。常に自分の走りを分析して、それを生かしてゆく。僕がいつもやっていることはそれですね。
――日本のファンに何かメッセージをいただけますか?
みなさんの優しさに感謝します。また、みなさんが素晴しいモータースポーツファンであることに感謝します。
ヘルメットごしに見えるその目もと、眉毛は恐ろしいほど父プロストに似ていたニコラ。小さな声で控えめに話すしぐさもそっくりだったが、二世の方がどちらかというとまじめで、優しい感じがした。ちなみに父は、ニコラのレースを「怖くて見に行けない」と言っているそうだ。
(インタビューとまとめ=山田弘樹/写真=田村弥)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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