ホンダ・インサイト LS(FF/CVT)【ブリーフテスト】
ホンダ・インサイト LS(FF/CVT) 2009.03.31 試乗記 ……266万9000円総合評価……★★
「トヨタ・プリウス」のモデルチェンジに先駆け、低価格をウリに販売好調な「ホンダ・インサイト」。300km超の一日ドライブで、その性能をテストした。
わかりやすい魅力がほしい
誰が見てもそれとわかるハイブリッド専用車として生み出され、しかも価格は安い。誰もが違和感なく運転できて、それでいて燃費は良好。インサイトのコンセプトとは、要約すればそんなところだろう。そして実際、それはハードウェアにしっかりと落とし込まれている。しかし今回を含めて何度かそのステアリングを握ってみて思うのは、ハイブリッド車としての、あるいはクルマそのものの魅力、訴求力が今ひとつ薄くはないかということだ。
たしかに、それなりに燃費は良いとして、平たく言えば、他にインサイトならではの「買って良かった」と思わせる部分として思い浮かぶものが、あまりない。違和感をなくそうとした運転感覚は、一方で、ハイブリッドの特性をうまく引き出して走る楽しさをも薄めてしまった。アクと同時に旨味も取ってしまった、なんて喩えられるかもしれない。
べつに特殊であれと言っているわけではない。普通に乗って燃費がいいだけじゃなく、グルメな舌には、その先、その奥の歓びが感じられるものであるべきじゃないかということである。それはハイブリッドらしさでも、あるいは乗り心地でもなんでもいい。購入して3年乗ったところで振り返って、印象に残っているのが停車中にエンジンが止まった記憶と燃費の良さというだけでは寂しいじゃないかという話だ。
ベーシックカーだから、マニア向けじゃないから、それぐらいでいいのだという考えだとしたら、それはどうせ大抵の人は本当の味なんかわからないという料理人と同じことだろう。そんな不遜な態度ではないと信じたいが、少なくとも、今この時代にクルマを買う意味を求めているユーザーに対しては、やはり薄味に過ぎはしないだろうか。
今は販売好調と聞く。しかし、たとえば新型「トヨタ・プリウス」が噂のとおり近い価格で出てきた時に、インサイトはなにをウリにできるだろうか? ましてや今回は、燃費も思ったほどではなかったと考えると……。その価値、意義はおおいに認めたい。クルマが売れない時代の、一筋の光明だということも十分承知している。しかし、だからこそホンダにはこんなところで満足してほしくはない。辛口の評価は、そういう意味を込めたエールのつもりである。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
ハイブリッド専用車として初代「インサイト」がデビューしたのは1999年9月のこと。「トヨタ・プリウス」(初代)と、燃費を競ったものの、2名乗車という実用性の低さから、商業的に成功したとはいえなかった。
これを踏まえて生まれ変わった2代目は、2009年2月に発売された。心臓を1.3リッター+モーターにパワーアップ。5名乗車のハッチバックに形状を変え、最廉価グレードを189.0万円に設定して、再度「プリウス」に戦いを挑む。
駆動方式はFFで、トランスミッションはCVT。ボタンひとつでスロットルバルブやCVT、エアコンを協調制御する「ECONモード」が備わり、10・15モードの値は30.0km/リッターを達成した。
(グレード概要)
インサイトの最上級グレードとなるのが、テスト車の「LS」。CVTは7段のマニュアルモード付きで、パドルシフトも備わる。アンチスピンデバイスのVSAのほか、フロントフォグランプ、16インチタイヤなども標準。なお、LSを含むすべてのグレードで、ナビゲーションシステムはオプションとなる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
ホンダ自慢の上下2分割構造のインストゥルメントパネルだが、筆者がドライビングポジションを合わせると、速度計にステアリングリムがかかって見えなくなってしまう。ボンネットに向けて逆ラウンドとされたダッシュボード、太いAピラー基部などのせいで、前方の見切りが今ひとつなのも気になる。
デザインは色々工夫した跡が感じられるが、操作系の配列は煮詰めが足りない。燃費を向上させる「ECONスイッチ」は、なぜ右端の、ドアミラーのスイッチの下にあるのだろうか? よく使うスイッチではないということ? いや、そもそも本来はECONモードが標準で、パワーモードが別に用意されるくらいでもいいのでは?
燃費走行状況をリアルタイム表示するコーチング機能、エコ運転度を採点するティーチング機能などは、それなりに楽しめるし有益だといえそうだ。しかしたとえばECOスコア表示などは、なにが良かったのか、あるいは悪かったのか、もう少し具体的でもいい。本当はそんなの自分で探ればいいのだが、後述するようにこのインサイト、走り自体に手応えが薄いため、なにか指標がないとエコドライブを突き詰めるのが難しいのである。
装備はひととおり揃っている。見た目のクオリティは「フィット」などと同じようなレベル。心ときめかせることはないが、価格を考えればまあ納得はできるはずだ。
(前席)……★★★
全高を抑えるため燃料タンクは前席シート下から後席下へと移されており、おかげで着座位置は低め。シート自体はサイズも形状も平均的な出来映えだが、硬い乗り心地を相殺できるほどのものにはなっていない。
ドライビングポジションは基本的には問題ない。ただしセンターコンソールの形状が悪く、コーナリング中などに踏ん張ろうとする左足が当たって痛くなる。このクルマ、ちゃんと走って評価してるのか? なんて言いたくなる部分だ。
またステアリングホイールは、握った時のちょうど親指の部分にスポークの硬い部分が当たって違和感がある。ホンダ各車に使われているこの形状は、しかし最新のライフやオデッセイでは新しいデザインに置き換えられているが、インサイトの場合はコストの制限もあったのか古いままとされている。細かなところだが、ステアリングはクルマとの対話のための重要なポイント。やはり気になる部分である。
(後席)……★
ドアの切り方やタイヤとの位置関係など色々な要素があるのだろう。乗降性がいまひとつの後席は、いざ乗り込んでみても、空気抵抗低減のため全高を下げた影響を如実に味わわされるハメとなる。身長177cmの筆者の場合、頭頂部はルーフに触れるし、自分のポジションに合わせた前席のシートバックに膝がつかえる。爪先は前席の座面下に入れられるが、ここも高さがギリギリで足の甲が圧迫されるといった具合だ。
前後長が短い上に妙に凸凹した座面、均一な面で受け止めてくれない背もたれも、居心地を悪くしている。乗り心地が身体を常に上下左右に揺さぶるほど酷い上に、身体を的確にサポートしてくれないのだから始末が悪い。
正直、後席だったら短距離の移動以上のドライブの誘いは遠慮したい。この席で育った子供が将来クルマ嫌いにならないことを祈りつつ……。
(荷室)……★★★★
バッテリーを含むIPU(インテリジェントパワーユニット)はコンパクト化によってフロア下に収められており、おかげで荷室への侵食はなし。大きなリアゲートを開けるとフラットで扱いやすい空間が広がる。フロアボードを1段下げれば、その収納力は5名乗車時で容量にして400リッター。ゴルフバッグ3つ分に至る。
フロア下にも小物収納用のスペースが用意されているなど、使い勝手は悪くなさそうだ。必要とあらば分割可倒式の後席背もたれを倒して荷室に充てることも。この際もフロアはフラットに保たれる。
たくさん入る空間だけに、欲を言えばトノカバーはオプションではなく標準装備としてほしいところ。しかしながら実用性は十分なレベルといえる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
フリクションの低減や軽量化、燃焼の改善等々、細部に至るまで改良の手が加えられた1.3リッターi-VTECエンジンと、IMAと呼ばれるモーターユニット、そしてCVTを組み合わせたパワートレインは、通常のガソリン車に対して違和感のない走りを旨とする。たしかに旧型インサイトやシビックハイブリッドと比べると、音にしろ運転感覚にしろモーターの存在を強く意識させなくなっている。元々、走行中は気筒休止こそするものの、エンジンが停止することはないIMAだけに、停車中にエンジンが止まること以外、ハイブリッドに乗っていると強く意識させることはないと言ってもいい。
なるほど、たしかに違和感はない。しかし、それはハイブリッド車を所有する歓びを薄めているという局面もあるように思える。もちろん普通に走って燃費も上々というのは悪くない。しかし、乗っていると、ついつい感覚を研ぎ澄ませてエンジンとモーターの状態を感じ取り、最大のエコパフォーマンスを引き出そうとしてしまう……といったかたちの歓びが、もっとあっても良いのではと思ってしまうのだ。たとえば初代インサイトには、それがあったはずである。
動力性能自体は、実用上十分というレベルにある。ただし、CVTとモーターを組み合わせることから、アクセル操作に対する加速のリニアリティは程々といったところだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★
さすがホンダだなと思わせるのはスポーティに走らせた時のフットワークの良さだ。ステアリングの効きは素直で、後輪の追従性も理想的。限界はタイヤなりで決して高くはないが、コーナリングそのものを堪能できる味つけとなっている。
しかしながら、乗り心地の粗さは、その代償としても受け入れ難いレベルにあるのも事実である。とにかく走らせている間中、常にヒョコヒョコとした上下動に晒され続けるのは、一体どうしたことなのだろう? 始終浮き足だったような接地感も、どっしり落ち着いた印象を欠く。
率直に表現すれば、安っぽい乗り味。いくらスポーティさ重視でも、もう少しやりようがあるはずだ。ちなみに試乗車の16インチはマシな方。意外や15インチの方が乗り心地は劣る。ホンダ自身もこのことには気付いているようだが、やはり煮詰めが足りないまま世に出てしまったということなのだろうか? コストの縛りで専用開発タイヤを使えなかったことも影響しているのかもしれない。
いずれにせよ、ホンダの思惑通りフツウの人にフツウに買ってもらい満足してもらうためには、シャシーは要改善である。
(写真=郡大二郎)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2009年3月18日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2009年型
テスト車の走行距離:3300km
タイヤ:(前)185/55R16(後)同じ(いずれも、ブリヂストン TURANZA ER370)
オプション装備:プレミアムディープバイオレットパール=3万1500円/HDDインターナビシステム(リアカメラ付き)+ETC車載器=24万9000円/コンフォートビューパッケージ=3万1500円/スマートキーシステム=6万3000円/前席用i-サイド&サイドカーテンエアバッグシステム=8万4000円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳路(2)
テスト距離:328.2km
使用燃料:22.43リッター
参考燃費:14.6km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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