ポルシェ911 カレラS(RR/7AT)【試乗記】
ポルシェ911ファミリーカー化計画 2009.02.18 試乗記 ポルシェ911 カレラS(RR/7AT)……1554万4000円
トランスミッションを一新し、よりスポーティになったというオートマ仕様の「ポルシェ911」。伝統的なリア駆動の3.8リッターモデル、「S」でその実力を試した。
後席の広さは充分!?
エンジンとトランスミッションを一新した新しい「ポルシェ911シリーズ」には、各方面で絶賛の嵐が吹き荒れていて、ここでさらに絶賛を加えて嵐を大嵐にしてもしょうがないとは思うわけです。でも、自分にもひとことだけ言わせてください。「もう降りたくない」。
ケイマンもボクスターもそうだけど、ポルシェのスポーツカーは夢の国へと連れて行ってくれる。そこは、あらゆるメカニズムが理想的に動いているユートピア。加速も減速もコーナリングも思いのまま。ポルシェを運転している間だけは、自分も夢の国の一員になれるのだ。
今回試乗した、スピードイエローという名前までかっちょいい、黄色に塗られた「911 カレラS PDK」は正札1451万円、オプション込みで1554万4000円。定期預金とか保険をすべて解約して、ふたりの豚児のブタの貯金箱を内緒で割ったとしてもはるかに届かないお値段だ。残念を通り越して、悲しい。
もし、ほんの数%でもこのクルマを自分のモノにできる可能性が生まれるとしたら、それはこれ1台で暮らすということだろう。そんなしょぼい使い方をしたらフェルディナント・ポルシェ博士も草葉の陰でお泣きになるかもしれないけれど、背に腹は代えられない。無い袖は振れない。“ポルシェ911ファミリーカー化計画”ということをマジメに考えてみたのである。
最大の問題は、後席が使えるか否かだろう。家族4人、これ1台で移動できるのか。これまで真剣に試したことのない、911の後席の広さを本気でチェックしてみました。結果は、ほぼ問題なし。身長180センチの自分の場合、多少ひざが前席シートにあたり、少しだけ頭が天井に触れるけれど、我慢しようと思えば我慢できる範囲だ。逆にすっぽり囲まれる感じが、これはこれで心地よい。
というのは、試乗を終えたばかりで瞳がキラキラしている状態での感想であって、普通に考えると大人が乗って我慢できるのは30分が限度か。でも、わが家の豚児ならあと3、4年はこの空間に収まりそうだ。子どもはホントに狭くて薄暗い場所が好きだから……、なんて無理矢理に自分を正当化していますが。
奥さんには内緒のスイッチ
トランスミッションについては、PDK(ポルシェ・ドッペルクップルング)を選べばAT限定免許の愚妻も問題なく運転できる。変速時にほとんどシフトショックを感じない滑らかさに、ポルシェのカッコと名前にビビるヨメも安心するはず。
渋滞にはまってトロトロ走りを強いられるような場面でのお行儀のよさは、トヨタのオートマ級に上品だ。しかも、ただスムーズなだけでなく、PDKは6MTより加速タイムも燃費も優れている。だから古臭いティプトロニックの頃と比べると、スポーツカーとしての性能とプレミアムカーとしての資質、どちらも大きく向上している。
ノーマルの状態だとタコメーターの針が2000rpmに届くか届かないかという早いタイミングでぽんぽんとシフトアップするから、効率もよさそう。ダッシュパネルには「SPORT」と、より尖ったセッティングになる「SPORT PLUS」のスイッチがあって、これを押すと自動変速モードでももう少し高回転まで引っ張ることができる。
悩ましいのは、この「SPORT」「SPORT PLUS」のスイッチの存在と、PDKのセレクターを左側にパタンと倒すマニュアル操作モードをヨメに教えるかどうかだ。
それは、ヨメがエンジンやトランスミッションを壊すのではないかという、ケチな了見もある。あともうひとつ、電光石火の変速や、3.8リッターDFI(ダイレクトフューエルインジェクション)ユニットの硬質な回転フィールをマニュアル操作で直に操る感動を覚えると、ヨメが家に帰って来なくなる心配もある。
資産としてもポルシェは抜群
カレラSに積まれる、ゼロから新開発された3.8リッターの水平対向6気筒は、街中では静かでジェントル。軽くアクセルを踏み込んだ時のレスポンスも敏感だから、軽く流すぐらいの速度でも楽しい。正直、それほどのピークパワーも必要とはしないので、自分にはノーマルのカレラが積む3.6リッターで充分かとも思う。カレラとカレラS、お値段の違いは214万円也。ホンダのインサイト約1台分。この差はでかい。夢のクルマの原稿なのに、夢のない話で申し訳ないです。
乗り心地は、買い物その他、日常のおつかいに使ってもまるで問題ない。段差を越えたりちょっと路面の悪い箇所を通過する時のショックも、先の尖ったモノではなくてマイルドだ。ふわふわの高級セダンからの乗り換えであれば乗り心地が硬いという印象を受けるだろうけれど、幸か不幸か、わが家は実用車からの乗り換えになるのでまったく問題ない。
そんなことよりも、ミシリとも言わないボディの建て付けのよさ、ステアリングホイールの確かな手応え、最初は硬く感じるのに時間とともに体に馴染むシートの掛け心地など、体全体で感じることができる“いいモノ感”は、誰にでも理解されるはず。
真面目な話、一家4人で長距離ドライブに出かける機会が年に何回あることか。そしてその回数がこれから年々減るのは間違いない。だったら、その時には近所のニッポン・レンタカーで一番安いミニバンを借りるという手もある。
なんて皮算用をしつつ「ポルシェ911カレラ」の中古車価格を見ると、極上物は12年落ちの993型で軽く500万円オーバー、20年落ちの930型でも、程度のいいものはようやく400万円を切るあたり。ということは、現行911を買えるのは早くて20年後あたりか。だったら後ろに人を乗せる心配は不要かもしれない。むしろ、20年後も自分が元気でいられるかのほうが大きな問題だ。
それでもクルマを「資産」として考えれば、この値落ち率の低さはファミリーカーにぴったりだ、と思ったりもするのです。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その2) ―聖地「ホンダコレクションホール」を探訪する―
2025.12.10画像・写真ホンダの株主優待で聖地「ホンダコレクションホール」を訪問。セナのF1マシンを拝み、懐かしの「ASIMO」に再会し、「ホンダジェット」の機内も見学してしまった。懐かしいだけじゃなく、新しい発見も刺激的だったコレクションホールの展示を、写真で紹介する。
































