ホンダN-ONE G・Lパッケージ(FF/CVT)/N-ONE Premium Tourer(FF/CVT)【試乗記】
看板に偽りなし! 2012.11.21 試乗記 ホンダN-ONE G・Lパッケージ(FF/CVT)/N-ONE Premium Tourer 2トーンカラースタイル(FF/CVT)……136万6000円/156万750円
往年の名車をモチーフに開発された、ホンダの新型軽「N-ONE(エヌワン)」に試乗。その走りや使い勝手を、2つのグレードでチェックした。
3番目に本命登場
「CMで見て、懐かしいわねって話していたんですよ。初めて買ったクルマでしたから」
撮影をしていたら、60代とおぼしき品の良い奥さまに話しかけられた。隣ではご主人がほほえんでいる。「ホンダN-ONE」の試乗会場となったのは横浜美術館で、一般入場者も出入りしていたのだ。もちろん、奥さまがおっしゃったのは「N360」のこと。N-ONEの特徴的なフロントマスクを見て、すぐにN360を思い出したという。マニアではない一般の女性がモチーフを認識したのだから、デザインは大成功ということになる。
このご夫婦以外にも、展示車に寄ってきて興味深そうにのぞきこむ人が大勢いた。新車が注目を集めるのは当然だが、その数と熱気が尋常ではない。多くの人がうれしそうな笑顔を浮かべていたのが印象的だった。N360の記憶を持つ団塊世代だけでなく、集まってきた人々の中には若い世代も少なからずいた。レトロではなく “タイムレス”だとするデザインの意図は、どうやらうまく伝わっているらしい。
N-ONEは「N BOX」「N BOX+」に続く「Nシリーズ」3番目のモデルである。とはいっても、そもそも「N」の名はN360の直系たるこのモデルあってのものなのだから、満を持しての本命登場なのだ。N BOX は10月に1万8203台を売り上げ、車名別新車販売ランキングでは「スズキ・ワゴンR」や「ダイハツ・ムーヴ」を上回ったばかりか、「トヨタ・プリウス」をもしのいで堂々の第2位につけている。スーパーハイトワゴンのジャンルで成功を収めた勢いをかって、いよいよ主戦場であるハイトワゴンのマーケットに乗り出した。
可愛いだけじゃない
ハイトワゴンと言ったが、ぱっと見ではそうは見えない。全高1610mmというのはワゴンRやムーヴよりほんの少し低いだけで、ディメンションとしては確かにそのジャンルに入る。しかし、ファニーともポップともとれる風変わりなデザインに眩惑(げんわく)されて、まったく違うカテゴリーのクルマに見えてしまう。じゃあどこに属するのかと聞かれると困るのだが、強いて言えば「フォルクスワーゲンup!」と方向性は近いかもしれない。あのクルマも、クラスレスな雰囲気を持っている。
“タヌキ顔”とも称される表情なので、一見女子狙いのようにも見える。特にホワイトのボディーカラー(これが一番人気で3割を占める)だとかわいらしさが強調されるのだが、色が違うとずいぶん印象が変わるのだ。赤や黄色だとスポーティーさが前面に出るし、黒や紺などの濃色だとグリルが目立たなくなって精悍(せいかん)さが現れる。単色で11種、2トーンが5種用意されているので、選びがいがある。
5、6年前に軽自動車の“スペシャリティーブーム”があって、「ダイハツ・ソニカ」「スズキ・セルボ」「スバルR1」が次々に名乗りを上げた。いずれもデザインと走りを売りにしたモデルだったが、短期間で姿を消してしまった。ハイトワゴンの広さが当たり前になってしまった以上、室内が狭いことはユーザーに受け入れられなかったのだ。
N-ONEは、スペースを犠牲にしてはいない。乗員が4人ゆったり座った状態で、荷室の奥行きは十分に確保されている。シートを倒せば空間が広がるのはもちろんだが、センタータンクレイアウトの恩恵で座面を跳ね上げて後席を荷室にできるのがありがたい。
広さは合格、速さは?
ご先祖さまのN360は、圧倒的な速さ、広さ、安さで市場を席巻した。N-ONEもこの特質を受け継ぐものとして構想されている。安さは置くとして、広さは合格だ。ホンダの原点であるMM(マン・マキシマム・メカ・ミニマム)思想の系譜にあるのは確かだ。あとは速さである。「軽自動車の枠を超えた」「スモールカーと同等の性能」という触れ込みは、言葉どおりのものなのか。
N-ONEは、大きく分けて4種のモデル構成となっている。まずスタンダードモデルと上位版のPremiumがあり、それぞれ58psの自然吸気と64psのターボという2種のエンジンが用意されている。トランスミッションはCVTのみだ。
最初に試乗したのは、スタンダードの自然吸気モデルだった。ベーシックグレードだからといって、安っぽさは感じられない。エクステリアはシンプルなだけにデザインの意図がストレートに伝わってくる。
インテリアは高級さこそないものの、機能的で簡潔な作りが好ましい。メーターはスピードメーターを中心に置いた見やすいもので、ギミック感は抑えられている。試乗車には「ディスプレイオーディオ」が付いていて、スマートフォンを接続してナビゲーションシステムを使えるようになっていた。カーナビの新しいトレンドを早速取り入れたわけである。ただ、設定はすべてスマホ側で行わなければならず、画面のスクロールができないなど、まだ使い勝手には改善の余地があるようだ。
スマートキーやプッシュエンジンスタートスイッチは、全グレードに標準装備されている。キーをトレイに置いたままボタンを押し、インパネシフトのセレクターをDレンジに入れてスタートした。窓からの視界は広く、左右にボンネットの峰が見えて気分がいい。
横浜から逗子まで走るコースで、すぐに高速道路に乗った。アクセルの踏みこみに対してスムーズにパワーが盛り上がり、合流でも不安はない。なかなか機敏に走る。しかし、それなりにエンジンの回転を上げなければならず、室内には乾いた音質のエンジン音が充満する。出来はいいと思うけれど、これは……やはり軽自動車だ。
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ゴージャスさより大きな喜び
N-ONEはデザインやパッケージングだけでも魅力的なクルマだが、スモールカーの新しい基準を作るとなるとそれだけでは足りない。1.3リッター並みの走りを実現したとうたうのが、ターボエンジンモデルである。グレード名に“ターボ”の文字は使わず、「Tourer」と称している。ハイパワーを追求するのではなく、昨今流行のダウンサイジング過給が狙いなので、あえて前面に出さないのだ。わざわざ「Turbo」のエンブレムを誇らしげに付けていた時代からすれば、隔世の感がある。
あまり大げさに言いたくはないけれど、Tourerはまったく別物だった。発進の一瞬は少しもたつくものの、すぐさま力強い加速が始まる。660ccとは思えない力感にあふれたサウンドが響き、気分とパワーが連れ立つようにして上昇していく。すいた高速道路では、存分に長い加速を味わった。高速コーナーでも、流れに乗って頼もしい走りを見せてくれる。NAモデルに乗った時は少々心もとなく感じられたハンドリングも、なんだかしっかりした手ごたえに思えてくる。
ハイパワーなターボエンジンの軽は今までにいくらでもあったが、どれもめいっぱい回転を上げて力を絞りだすタイプだった。速く走るためには加速のたびにアクセルペダルを底まで踏み込む必要があり、苦しげなエンジン音に慣れなければならなかった。
N-ONEは、まったく違う感覚である。アクセル開度を加減して加速の度合いを操作する余裕がある。実のところ、1.3リッター並みというフレーズは眉につばをつけて聞いていた。この種の言い回しを信用してがっかりした経験は山ほどある。でも、乗ってみたら誇張のない正直な看板だと納得した。
テストを担当したエンジニアに話を聞くと、開発段階で実際に指標としていたのが「フィット」なのだという。3000rpm以下でトルクの厚みを増すことにより、むやみに回転を上げることなく十分な加速を得ることができたのだ。それにCVTの制御を加えることによって、フィットのパワーの特性に近づけようとした。アクセルのオンオフを繰り返さなければならない軽の宿命から逃れて、大人っぽい走りを目指したのだ。
試乗したTourerモデルは、上位版のPremiumグレードだった。インパネやシートの素材は高級なものになるし、メッキ加飾もふんだんにおごられる。エクステリアにはクロムのモールが付くし、フォグランプだって装備される。軽自動車らしからぬゴージャスさは、確かにうれしい。しかし、ターボエンジンのもたらす喜びは、それをはるかに上回る。スタンダード版のTourerモデル(123万円)かPremiumの自然吸気モデル(136万円)のどちらかを選ばなくてはならないとしたら、迷う理由はまったくない。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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