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ホンダN-ONE 開発者インタビュー

受け継がれる個性 2020.11.19 試乗記 山田 弘樹 本田技研工業
四輪事業本部 ものづくりセンター
新型N-ONE 開発責任者
宮本 渉(みやもと わたる)さん

丸いような四角いような、クラシックでシンプルなスタイリングが特徴の「ホンダN-ONE」がフルモデルチェンジ。実用性重視のトールワゴン全盛期に、趣味性に振った軽乗用車を存続させた意図とは? “個性派モデル”にかけるホンダの意気込みを、開発者に聞いた。

外身は受け継ぎ、中身を刷新

日本で一番売れている「N-BOX」を筆頭に、ホンダが展開する軽乗用車の「Nシリーズ」。その中でも、背の高さではなく(とはいってもハイトワゴンだが)、趣味性の高さを売りとしているN-ONEがフルモデルチェンジを果たした。

そのコンセプトで最も興味深かったのは、「変わらなかった」こと。ボディーの外板は基本的に従来モデルから踏襲。軽自動車初となるLEDデイタイムランニングランプで目元をキリッ! と引き締めながらも、そのルーツとなる「N360」モチーフのフロントマスクも継承。「これではフルモデルチェンジだと気づかれないのでは?」という部外者の心配もどこ吹く風で、キープコンセプトを貫いている。

こうした手法で思い出されるのは、往年のMiniであろうか(あちらは一度もモデルチェンジしなかったが)。ちなみにホンダはこれを「タイムレスデザイン」、そして「Be the only ONE」と述べている。

外見を大きく変更しなかったN-ONEだが、その中身はすっかり刷新された。ボディーの骨格部は「N-WGN」とプラットフォームを共用する新世代のものだし、同じくエンジンも自然吸気、ターボともに新世代のユニットに移行。トランスミッションにはよりリニアな加速フィールを追求したというCVTに加え、「RS」グレードにはコダワリの6段MTも設定された。よりスムーズなストロークを実現したという、サスペンションも注目である。

試乗してみなければ評価は下せないのだが、これらはまさにN-ONEの走りを磨き上げるための進化だ。それは喜ばしいことなのだが、一方でふと疑問に思う。なぜホンダはこうまでして、決して“売れ線”とはいえないN-ONEをディスコンせずに刷新させたのだろう?

外身は初代そっくりだが、中身は全面的に刷新。特にボディーは、剛性の向上と7%の軽量化を実現しているという。
外身は初代そっくりだが、中身は全面的に刷新。特にボディーは、剛性の向上と7%の軽量化を実現しているという。拡大
エンジンやトランスミッションも新世代へ移行。レスポンスの向上や環境負荷の低減を果たしている。
エンジンやトランスミッションも新世代へ移行。レスポンスの向上や環境負荷の低減を果たしている。拡大
<宮本 渉さんプロフィール>
1990年入社。「シビック」や「アコード」「オデッセイ」「ストリーム」などの外装設計に携わる。軽乗用車の開発では、2009年に初代「N-BOX」のボディーの開発責任者を担当。2019年より、現職である新型「N-ONE」の商品開発責任者を務める。
<宮本 渉さんプロフィール>
	1990年入社。「シビック」や「アコード」「オデッセイ」「ストリーム」などの外装設計に携わる。軽乗用車の開発では、2009年に初代「N-BOX」のボディーの開発責任者を担当。2019年より、現職である新型「N-ONE」の商品開発責任者を務める。拡大
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傍流にあるモデルを継続させる意味

N-ONEは2012年に登場し、翌年には年間約10万台のピークセールスを記録したものの、2014年には一気に3万5000台までダウン。その後も徐々に台数を減らしていき、2019年の年間販売台数は1万5000台ほどとなっている。Nシリーズの中では断然N-BOXがダントツの稼ぎ頭(2019年は24万7000台強)で、ニューカマーである「N-WGN」や「N-VAN」にも、意地悪く言えば存在感を奪われている。ざっくり言うとN-ONEの割合は、ファミリーの中にあって1割ほどだという。

兄弟車はいずれも勢いに乗っているし、悲しいかな最近の日本メーカーのトレンドは、ラインアップの整理・統合である。N-ONEも、ここでひっそりフェードアウト……という選択肢もあったのではないかと思ったのだ。

ぶしつけにも、その疑問を開発責任者である宮本 渉氏にぶつけたところ、N-ONEの継続にはホンダの意地と、これから伸びてくる(だろうとホンダが目している)“個性派”ジャンルへの期待が込められていたようだ。

宮本 渉氏(以下、宮本):新型N-ONEの開発は、ちょうど新しい保安基準が適用される時期に差し掛かっていました。先代でも法規をクリアするだけならできたのですが、「それではだめだよね」という結論になった。旧世代のまま法規だけをクリアさせても、まず新世代のN-BOXやN-WGNとのクオリティーが開いてしまう。それ以上に、ただ延命させたクルマを販売することが、お客さまには失礼だという話になりました。

従来モデルよりさらにシンプルな意匠となったインストゥルメントパネルまわり。ダッシュボードの助手席側を大きくえぐることで、ゆったりとした足元スペースを実現している。
従来モデルよりさらにシンプルな意匠となったインストゥルメントパネルまわり。ダッシュボードの助手席側を大きくえぐることで、ゆったりとした足元スペースを実現している。拡大
足まわりでは、サスペンションに新形状のスプリングを使うことでサイドフォースを軽減し、ダンパーの動きをスムーズに。FFモデルにはリアスタビライザーが新たに装着された。
足まわりでは、サスペンションに新形状のスプリングを使うことでサイドフォースを軽減し、ダンパーの動きをスムーズに。FFモデルにはリアスタビライザーが新たに装着された。拡大
豊富なバリエーションは従来モデルから受け継いだ美点。スポーティーな「RS」には6段MTも用意されるほか、CVTにも専用の制御を採用。ピックアップに鋭さが加えられているという。
豊富なバリエーションは従来モデルから受け継いだ美点。スポーティーな「RS」には6段MTも用意されるほか、CVTにも専用の制御を採用。ピックアップに鋭さが加えられているという。拡大

機能で見れば「N-BOX」かもしれないが……

本題はここからだ。

宮本:そして何よりN-ONEというクルマを「一代で終わらしてはダメだよね」という気持ちがありました。どうやったら2代目につなげられるのか? 絶やさないように知恵を使いなさい、という言い方で開発を進めました。N360の系譜を受け継いだと自ら言っておきながら、それをこちらの都合でやめるのは、自分勝手だと思いました。

……なんだか、先日撤退が発表されたF1の活動に際して聞きたかった言葉な気もする。しかしこの熱き志にも筆者はギモンを持った。それがN-BOXでも「N360の系譜」と言えるのではないか? 日本で一番小さな自動車規格の中で、最大限の効率を実現するクルマこそ、N360の後継車と表するべきではないのか?

宮本:それをわれわれが言ったら詭弁(きべん)になってしまうかと(笑)。N360の基本的な考え方は「MM思想」(※)だったり、1970年代当時に家族4人が乗れるクルマづくりだったので、確かに「家族4人で乗って」というコンセプトを一番色濃く受け継いでいるのはN-BOXです。しかしシルエットやコンパクトさで言えばN-ONEであり、NシリーズのどれもがN360の思想を受け継いでいると言えます。昔は何種類もクルマをつくれなかったですが、現代ではそれが可能になって、細分化されたと言えるのではないでしょうか。

(※)マン・マキシマム/メカ・ミニマムというホンダのクルマづくりにおける基本コンセプト。

その、細分化されたN360の子孫の中で、“個性派”という役割を担っているのがN-ONEなのだ。

1967年に登場した「N360」。ホンダ初の軽乗用車であり、広々とした車内空間とパワフルな走りで大ヒットを記録。「スバル360」からベストセラーの座を奪取した。
1967年に登場した「N360」。ホンダ初の軽乗用車であり、広々とした車内空間とパワフルな走りで大ヒットを記録。「スバル360」からベストセラーの座を奪取した。拡大
限られた寸法の中で、最大限の車内空間を……という意味では、「N-ONE」より「N-BOX」のほうが「N360の系譜」と言えそうだが……。
限られた寸法の中で、最大限の車内空間を……という意味では、「N-ONE」より「N-BOX」のほうが「N360の系譜」と言えそうだが……。拡大
商品思想は開発コンセプトだけに宿るわけではない。デザインや、そのコンパクトさを思えば、「N-ONE」はやはり「N360」の子孫なのである。
商品思想は開発コンセプトだけに宿るわけではない。デザインや、そのコンパクトさを思えば、「N-ONE」はやはり「N360」の子孫なのである。拡大
ホンダ伝統のMM思想を受け継ぐ「N-ONE」。「N-BOX」ほどではないにしろ、センタータンクレイアウトがかなえる車内空間は十分に広い。
ホンダ伝統のMM思想を受け継ぐ「N-ONE」。「N-BOX」ほどではないにしろ、センタータンクレイアウトがかなえる車内空間は十分に広い。拡大

個人の時間を大事にする人の“N”

N-ONEは“個性派”を狙ったとのことだが、それはどのようなジャンルを指すのだろう? ライバルはいるのだろうか?

宮本:家族ではなく自分のために、というクルマです。ライバルはないと思っているのですが……。強いて言えば、「スズキ・アルト」や「アルト ラパン」などに乗っている方に振り向いていただけたらうれしいでしょうか。

プレミアム性にはこだわりました。シート表皮の質感も高めましたし、ベンチシートをやめてデュエットシートにしたのも、ふたりの時間や運転を楽しむため。使い勝手よりデザインを重視して、スライドドアではなくヒンジドアにしています。

先代のユーザー層は、男性だと40~50代とやや高年齢だが、女性は20~50代と、実に幅広い層がN-ONEを支持。「MINI」や「マツダ・ロードスター」と同様に「N-ONEが好き!」という人々に愛されている。そして新型は、男女ともに20~30代のレトロカルチャーを愛する層をターゲットとしているのだという。

今回、RSグレードに6段MTを用意したのも、こうした若返りへの一環なのだろうか?

宮本:MTに関しては先代から要望があったんです。ただ当時は、ハードをつくるだけの時間や状況が整っていなかった。しかし今はS660とN-VANのハードを上手に組み合わせればそれができるよね、という話になりました。

MTの販売比率としては、全体の10%ほどを目標としているというから強気だ。

宮本氏がライバルとして挙げたのは、スズキの軽セダン2台。「アルト」(左上)は価格的にも性格的にも「N-ONE」とは趣を異にするクルマだが、ユーザー層の幅広さやバリエーションの豊富さなど、重なるところも多いのかもしれない。
宮本氏がライバルとして挙げたのは、スズキの軽セダン2台。「アルト」(左上)は価格的にも性格的にも「N-ONE」とは趣を異にするクルマだが、ユーザー層の幅広さやバリエーションの豊富さなど、重なるところも多いのかもしれない。拡大
普通車に匹敵するインテリアの質感は従来モデルより継承。写真は「プレミアム ツアラー」に装備される、レザー調表皮とファブリックのコンビシート。
普通車に匹敵するインテリアの質感は従来モデルより継承。写真は「プレミアム ツアラー」に装備される、レザー調表皮とファブリックのコンビシート。拡大
6段MTは単に設定しましたというだけではなく、シフトフィール、クラッチフィールにもこだわった一品。MTに興味がある若者はもちろん、オジサン世代の心にも刺さること間違いなしだ。
6段MTは単に設定しましたというだけではなく、シフトフィール、クラッチフィールにもこだわった一品。MTに興味がある若者はもちろん、オジサン世代の心にも刺さること間違いなしだ。拡大
MTが設定されるのはターボ車の「RS」のみだが、それでもホンダでは、その販売比率を「N-ONE全体の1割ほど」と見込んでいる。
MTが設定されるのはターボ車の「RS」のみだが、それでもホンダでは、その販売比率を「N-ONE全体の1割ほど」と見込んでいる。拡大

人と同じことはしたくない

最後に、シェアがそれほど大きくないN-ONEよりも、いまこそ盛り上がりを見せているジャンルの軽クロスオーバーを登場させるべきでは? という意地悪な問いを投げたところ、

宮本:N-BOXでは「スラッシュ」などもやりましたからね。あと現実的な話で言うと、現状のホンダの販売力ではN-BOXとN-WGNでもキャパシティー的に十分以上なんです。出せば出すほど売れるということはないと思うので、今のところ(SUVやクロスオーバーを出すこと)は考えていません。

……という回答を得た。

いやいや、確かにN-BOXスラッシュも“個性派”だったが、あれはクロスオーバーじゃなくてストリートカルチャースタイルのクルマだったはずだから、うまくかわされてしまっただろうか?

筆者としては今こそガッツリ樹脂製フェンダーを付けた「ハスラーに続け! モデル」が必要ではないか? ……と思ったのだが、ともかくそこは人まねやパクリを嫌うホンダ。だからこそN-ONEのようなクルマが、このご時世にモデルチェンジを果たすのだろう。

あとは本当に、試乗するだけ。コロナ禍で発売が遅れているけれど、ホンダがN-ONEに込めた意地と情熱を、早く味わいたいものである。あれだけハイトなN-BOXで、軽自動車の枠を超えて走りを鍛え上げたホンダだけに、新型N-ONEの登場は非常に楽しみである。

(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

クロスオーバーモデルの設定に消極的な理由を語る宮本氏。自動車ビジネスは、トレンドに乗じて新型車を出せばそのぶん販売台数が増えるというような、簡単な仕組みでは成り立っていないのだ。
クロスオーバーモデルの設定に消極的な理由を語る宮本氏。自動車ビジネスは、トレンドに乗じて新型車を出せばそのぶん販売台数が増えるというような、簡単な仕組みでは成り立っていないのだ。拡大
初代「N-BOX」の派生モデルとして登場した「N-BOXスラッシュ」。スーパーハイトワゴンであるN-BOXのルーフをチョップ(=ロールーフ化)するという、だれも思いつかないような手法でもって登場した“個性派”モデルだった。
初代「N-BOX」の派生モデルとして登場した「N-BOXスラッシュ」。スーパーハイトワゴンであるN-BOXのルーフをチョップ(=ロールーフ化)するという、だれも思いつかないような手法でもって登場した“個性派”モデルだった。拡大
背高ノッポな「N-BOX」でもハイレベルな走りを実現してみせたホンダ。低重心で走り向きな「N-ONE」ではどのような走りを実現しているのか。試乗できる日が楽しみだ。
背高ノッポな「N-BOX」でもハイレベルな走りを実現してみせたホンダ。低重心で走り向きな「N-ONE」ではどのような走りを実現しているのか。試乗できる日が楽しみだ。拡大
山田 弘樹

山田 弘樹

ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。

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