スズキ・ワゴンR FXリミテッド(FF/CVT)【試乗記】
国民的アイドル 2008.12.01 試乗記 スズキ・ワゴンR FXリミテッド(FF/CVT)……118万1250円
2008年9月のモデルチェンジで4代目になった「スズキ・ワゴンR」。日本一売れるクルマである理由を、売れ筋グレードに乗りながら考えてみた。
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手をかけるからまた売れる
いま日本で一番売れているクルマ、「スズキ・ワゴンR」のそのまた一番の売れ筋グレードである、FXリミテッドの後席に腰掛けてびっくり。なぜって、16cmスライドする後席シートを一番後ろに下げてバックレストをリクライニングすると、余裕で足を組むことができたから。
いいですかみなさん、身長180cmの自分が運転しやすいように運転席の位置をあわせて、そのまま後席にまわって座ったのにしっかり足を組めたという話です。こんなにコンパクトなクルマなのに、ダイナマイトな驚き!
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ま、後席をスライドしたこの状態だと荷物はほとんど積めないわけですが、それにしてもこの広さすごい。後席で足が組める広さって、ミニバン以外の国産車でパッと思い浮かぶのはたとえば「レクサスLS600hL」だ。なみにレクサスLS600hLのお値段は、1500万円也。
クルマを大きくすることで室内空間が広くなるのなら当たり前の話だ。けれど、ご存じのように軽自動車の全長は3.4m以下に定められている。モデルチェンジ前も、ワゴンRは規格ギリギリの長さだったからボディを大きくすることはできない。
全長はそのままに、でも室内だけは広くするというのはかなりの難問だ。それはつまり、給料は変わらないけれどもっとおいしいものが食べたい、というのに似ている。そんなとき、われわれ庶民は安くておいしい店を新規開拓するわけですが、スズキのエンジニアたちもクルマの骨格となる部分(プラットフォーム)を新規開発した。
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フルモデルチェンジにあたっては、新しいプラットフォームを採用することでホイールベース、つまり前輪と後輪の距離が40mm延びて2400mmとなった。これは「スズキ・スイフト」より10mm長いというからびっくり仰天。その他いろいろな工夫を重ねた結果として、前席と後席の距離が14cmも延びたという。
後席の広さが一番わかりやすいけれど、ワゴンRは細かいところまで入念に作り込まれている。で、こんなに手間暇をかけることができたのは、やはりワゴンRが売れているからだろう。売れるからお金や人材を投入することができて、力を入れて作るからまた売れる。こりゃ売れないわけがない。幸せなサイクルでまわっている。
この感じは、SMAPの新曲のクレジットに山崎まさよしとか槇原敬之やスガシカオ、あるいはトータス松本の名前を見た時の印象に似ている。ただでさえ人気のSMAPに、力を入れて人気アーティストを投入するんだから売れないわけがない。
予想を裏切る乗り心地
試乗したのは658ccの3気筒DOHCエンジンにCVTを組み合わせた仕様。ほかに、よりパワフルなターボエンジン、それにCVTのほかに5段MTと4段AT、計3つのトランスミッションを用意している。ダイハツの「ムーブ」も同じだけれど、1台のクルマで3種類のトランスミッションを選べるというのは、やはりたくさん売れているからこそ可能になる贅沢だ。
3種類のトランスミッションから好きな物を選べるというのは、SMAPの5人のなかには必ず好みのタイプがいると言われるのに通じる(通じないか)。たとえばクラッチ操作に気を使って付き合う5MTは、神経質で気難しそうな稲垣くん、みたいな。CVTよりちょっと安い4ATは庶民的で親しみやすい中居くん、なんて書くと苦情が来るかもしれない。
話がそれましたが、標準的な3気筒エンジンとCVTの組み合わせでも、加速も高速巡航も不満はない。もちろん54psなので青いイナズマにはなれないけれど、大人3名乗車でも立派に走るからドライバーの気持ちはらいおんハート。
クルマの教科書を開いてCVTの項目を見ると「エンジンの最も効率のよい回転域を使って走る」云々とあるけれど、まさにその通りで、いかにも効率よくパワーを路面に伝えている感じが伝わってくる。
個人的には、パワーステアリングの手応えがやや頼りなく、もう少し重くてしっかり感があるほうが好み。そのあたり、がんばりましょうかもしれない。ただし、ハンドルを切った時の反応じたいは自然でクセのないもので、セロリが好きな人もオレンジが好きな人も納得できるはず。
万人向けの実用車、ということでフワフワする乗り心地を予想していたけれど、良い方向に裏切られた。かなりシャキッとしたフィーリングで、すっきりとした乗り味。SMAP同様、女子だけでなく男子からも支持されそう。
とはいえ、もちろん弱点もあるわけで、それは他の軽自動車と同様、スピードを上げた時に露呈する。
高く見せようとする姿勢は「?」
速度計が90から100km/hに差し掛かると、車内が一気に高周波の音で騒がしくなる。エンジンの音とCVTの音、さらに風切り音が入り混じって、かなりの音量になる。しばらく聞いているとガックリ疲れるから、高速道路を使って夜空ノムコウまで突っ走ろうというロングドライブはちょっと遠慮したい。
ロングドライブを遠慮したくなるのにはもうひとつ理由があって、やはり90km/h以上になると途端にサスペンションの働きが心許なくなるのだ。凸凹を乗り越えてもボディのブワンブワンというshakeが収まらなくなる。
限られたコストで50-60km/hといった一般的な速度での乗り心地をよくすると、高速性能がおろそかになるのは仕方がないかもしれない。だけどコンパクトカーが世界的に求められているこのご時世、高速もビシッと走るように仕立てて欧州コンパクトカーと真っ向勝負を挑むのもアリではないか。そうしたらナンバーワンからオンリーワン、世界にひとつだけのクルマになる可能性があるのではないか。ワゴンRやSMAPが世界で活躍する姿を想像するのは楽しい。
あと、これは弱点ではないけれど、インパネを銀色にピカピカ光らせるのは、逆にビンボー臭いと思った。「使い勝手のいい道具です」と割り切っていた初代ワゴンRの清々しさを知る者として、助手席シート下にまで収納スペースを作るようなユーザー目線の工夫は好ましく思える。けれど、高価で立派なクルマに見せようとするのはちょっと「?」という感じ。このあたりは「森くんのいた頃が懐かしい」みたいなことを言うオールドファンの心境と同じなのかもしれませんが。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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