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第62回:ピニンファリーナの市販EV公開! 亡きアンドレアの夢ひらく

2008.10.11 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第62回:ピニンファリーナの市販EV公開! 亡きアンドレアの夢ひらく

仏伊合作

今年2008年のパリサロンは、「エコカーの祭典」といっても過言ではない。
シトロエンとルノーのコンセプトカーは、ヨーロッパで市販が期待されているディーゼル・ハイブリッド搭載を謳い、2代目「ホンダ・インサイト」コンセプトや「シボレー・ボルト」といった市販型ハイブリッド車などが公開された。

電気自動車もルノーのコンセプト「Z.E.」や「三菱 i MiEV」といった大メーカーのものから、小メーカーのものまで、おびただしい数が出品された。

そうした飽食状態ともいえる怒涛のエコカー展示のなかで、主要自動車メーカーでないにもかかわらず、ひときわ注目を集めた1台がある。「ボロレ ピニンファリーナ Bゼロ」と名づけられた4ドアの電気自動車だ。
フランスの複合企業Bollore(ボロレ)グループとイタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナとの共同開発によるものである。

バッテリーは、ボロレがグループ企業のバスカップ社で15年にわたる経験をもつリチウム・メタルポリマー電池を採用している。電圧410ボルト・出力45kWで、20万kmメインテナンスフリーの繰り返し充電が可能だ。本体重量は300kgでフレームの中央に搭載される。
また制動力を回生して蓄電するスーパーキャパシタも、その分野に強いボロレによるものである。

航続距離は250kmで、最高速は電子制御により130km/hに設定されている。0-60km/h加速の公表値は6.3秒だ。さらにルーフとフロントマスクには、補機類に電力を供給するためのソーラーパネルがビルトインされている。

ちなみにボロレは、2005年からジュネーブショーで、ピニンファリーナのフランスの子会社「マートラ・エンジニアリング」と共同開発した電気自動車「ブルーカー」のプロトタイプを毎年展示してきた。Bゼロはその後継モデルにあたる。

「ボロレ ピニンファリーナ Bゼロ」。手前は電池(右)とスーパーキャパシタ(左)。
「ボロレ ピニンファリーナ Bゼロ」。手前は電池(右)とスーパーキャパシタ(左)。 拡大
フロントマスクにはソーラーパネルが装着されている。
フロントマスクにはソーラーパネルが装着されている。 拡大
ソーラーパネルを見事デザインに取り入れている。
ソーラーパネルを見事デザインに取り入れている。 拡大

注目される理由

ピニンファリーナとボロレのスタンドは、パビリオン1号館の一番奥だった。にもかかわらず、記者発表が行われる時間になると多くのジャーナリストが押しかけた。
人混みのなかボクは、足元に展示されたリチウム・メタルポリマー電池につまずきそうになった。すると、ジュネーブショー時代に知り合ったバスカップ社のジャンマルク・メテ会長の顔がこわばるのが見えた。ボクがその場を取り繕うべく、「これ、クルマ本体より高いんですよねえ〜」と笑いをとろうとしても、まだ顔が引きつっていたところを見ると、かなり高価なものなのだろう。

冗談はともかく、たくさんの記者が集まったのにはいくつか理由があった。まずボロレ・グループの社主、ヴァンサン・ボロレ氏が姿を現したことである。ボロレ氏は、前述のバッテリー産業以外にもプラスチックフィルムやアフリカ向け運送業と、さまざまな分野に進出している著名実業家である。
ニコラ・サルコジ仏大統領の友人で、当選直後から彼にクルーザーやビジネスジェット機を貸与したことで話題を呼んだ。一般紙のジャーナリストにとっても興味の対象であったのだ。

ふたつめは、「Bゼロ」がショーカーではなく実際に生産計画があるということである。
2009年にトリノで生産が開始され、年末までに販売開始されるというのが目下の予定だ。なおバッテリーとスーパーキャパシタは、ボロレのフランスおよびカナダ・モントリオールの工場で生産され、トリノに運ばれる。

3つめの理由は、ピニンファリーナの近況だ。
今年初頭から経営の悪化が表面化したピニンファリーナは、春に第三者割り当て増資を決定。ボロレにも新規発行株を引き受けてもらうことにした。
それに続いて、オランダ−ベルギー系のフォルティス銀行にも支援を仰ぐことになった。ところがショー開幕直前の9月末、そのフォルティス銀行が世界金融パニックを受けて経営危機に陥ってしまったのだ。
後日フォルティスは、ベルギーなどの政府やフランスのBNPパリバ銀行に救われることになったが、こうした「泣きっ面に蜂」状態ゆえに、ジャーナリストたちがピニンファリーナに関心を示したことは容易に想像できる。

インテリアの各パーツも、環境に優しい素材を厳選しているという。
インテリアの各パーツも、環境に優しい素材を厳選しているという。 拡大
ピニンファリーナの“家風”にしたがったクリーンなデザイン。
ピニンファリーナの“家風”にしたがったクリーンなデザイン。 拡大
ヴァンサン・ボロレ会長(左)とパオロ・ピニンファリーナ会長(右)。
ヴァンサン・ボロレ会長(左)とパオロ・ピニンファリーナ会長(右)。 拡大

きっと、どこかで

しかし、何よりも記者たちの関心をよんだのは、ピニンファリーナのアンドレア・ピニンファリーナ会長が8月に突然の交通事故死を遂げてから、初の国際モーターショーであったことだ。

スタンドには、アンドレア氏の後任として急遽会長に就任した弟のパオロ氏、暫定副会長となった姉のロレンツァ氏も臨席した。
席上パオロ会長は、「兄は、とりわけこの電気自動車プロジェクトに深い精力を注いでいました」と回想したうえで、ヴァンサン・ボロレ氏とともにピニンファリーナのイメージカラーである濃紺のヴェールを剥いだ。取り巻いたジャーナリストたちから一斉に拍手が上がった。

Bゼロの価格は未定。販売ルートに関しては、筆者がピニンファリーナのスタッフに問い合わせたところ、「2009年3月のジュネーブショーで明らかにする」とのことだ。
ボロレ、ピニンファリーナとも自国で著名企業とはいえ、自社ブランドによる本格的な自動車量産は初めてである。したがって前途は決して楽観視できない。
しかし、パリの空の上からアンドレア氏はその様子を見守っている――そこに居合わせた誰もが、そう感じていたに違いない。

(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=Pininfarina、大矢アキオ)

電池製造を担当するバスカップ社のメテ会長(中央)も熱心に記念撮影。
電池製造を担当するバスカップ社のメテ会長(中央)も熱心に記念撮影。 拡大
故アンドレア・ピニンファリーナ氏と。
故アンドレア・ピニンファリーナ氏と。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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