フィアット500 1.2 8V ラウンジSS(FF/5AT)【試乗速報】
日本にぴったり 2008.03.25 試乗記 フィアット500 1.2 8V ラウンジSS(FF/5AT)……233.0万円
2007年にデビューしたリバイバル版「フィアット500」が、いよいよ日本でも発売開始。初期導入される1.2リッターモデルを、初春の東京で試した。
とにかくカワイイ
「FIAT500」は「フィアット・ゴヒャク」とも読めるが、愛情をこめて「チンクエチェント」と呼ぶ人は多い。別に、イタリア車をイタリア語で呼ばなきゃならない決まりはないけれど、やっぱりチンクエチェントの方がしっくりとくる。姿形からくるイメージと語感が一致するからなのかも知れない。
そのチンクエチェントが日本でも発売になった。1/1モデルのミニカーを思わせる姿形は、誰が見ても可愛いいと感じるはず。人一倍カワイイと思った筆者は待ちきれずに、イタリアまでこのクルマのドライブ旅行に行っちゃいました。
母国で乗ったチンクエチェントは1.4リッターの6段MTで、乗り心地の硬さが気になった。日本仕様の1.2リッター、デュアロジック(ATモード付き5段シーケンシャルトランスミッション)は、どんな風に仕上がっているのか、そこが一番興味のあるところだ。
今回の試乗会は朝9時半開始の予定だったが、8時半には会場の明治記念館に着いてしまった。気がはやる。もうクルマの準備が整っていたこともあって、フライング試乗が許された。さあどこに行こうか、さほど迷わず皇居の周りをまず一周した。
イタリアでは、チンクと5000km以上をともに過ごしてきた。そのあとで、改めて日本の路上を右ハンドルの日本仕様で走ってみると……やっぱりカワイイの一語に尽きる!
長距離もオーケー
嬉しいことに、乗り心地は本国の1.4より改善されていた。これなら、普段の使い走りはもちろん、長距離旅行でも疲れは少なく快適であろう。シートは廉価なクルマにもかかわらず、立派な造りでしっかりした座り心地を提供してくれる。
試乗会場の往復には新型「トヨタ・クラウン」を使ったが、座面の前後長などはこのクラウンより長く、座り心地もたっぷり。スッポリと腰が納まって、横方向のサポートも十分だ。外寸は小さなクルマながら、狭苦しい感覚は、ない。
全体的にガッシリした造りでボディ剛性も高く、大きなクルマの流れの中で過ごしても、安心感がある。小さなクルマの特技は“すばしっこさ”であり、特に全長の短さは緊急回避の可能性を期待させる。
前席3人掛けの「フィアット・ムルティプラ」のように、このクルマもまたボディの縦横比が2:1に近く、全長の割りに横幅を広く感じる。これはサイドインパクトテストなど安全上の要求であるとともに、最近のデザイントレンドでもある。
狭い道やコンビニの駐車場など、幅に対するデメリットを説く人もいるが、個人的にムルティプラを日常の足にしているせいか、幅のデメリットよりも全長の短さのメリットのほうが大きいと実感している。実際、狭い道のすれ違いなどで邪魔に感じるのは、むしろ長さの方である。
デュアロジックは楽しめる
もうひとつ敏捷さと関係するのは、動力性能だ。1.2リッターユニットでも十分なパワーを感じる。いずれは1.4リッターモデル(100ps/6000rpm、13.4kgm/4250rpm)も追加されるだろうが、1.4は比較的「高回転型」だ。低速ではトルクの細さも感じるから、むしろ頻繁な発進停止は1.2の方が活発にさえ感じる。そうした意味では1.4を待たずに1.2を買っても後悔はしないだろう。
デュアロジックはトルコン式ATと異なり、クラッチ操作は要らないものの、スムーズに加速させるにはアクセルペダルの操作に多少のコツがいる。
無神経にベタッと踏み込むのではなく、ギアのステップアップ比が開き気味の1速から2速へは、あまり回転差が大きくならない初期のうちにシフトアップさせた方がいい。1速は「停止している重量物をひとまず動かすだけ」の感覚で、加速の仕事は、2速以上に任せる。
右足をちょっと緩めれば自動的にシフトアップしてくれる感覚は、普通のトルコンATと同じだから、それを少し早めに行えばいいのだ。この微妙にして繊細な感覚もまた、大味で刺激に乏しいATドライビングに慣らされてしまった現代人には、新鮮な感動を与えてくれるだろう。
クルマに乗せられてしまっている感覚と違い、自分が主体的に操っている感覚こそは、飽きずにクルマと長く付き合うための大事な要素である。
それでもなお、個人的にはクラッチ付きのMT仕様は欲しいが。
イタリア育ちの大根足
チンクエチェントの美点は数多くあるが、そう長くも書けないのでもう一つだけ……それはサスペンション系の剛性感だ。
日本の軽乗用車に乗っている人が、チンクエチェントに乗って最初にビックリするのは、この足元の造りがガッシリしている点だろう。イタリア車は外見がカッコいいだけで、中身は華奢だと思ったら大間違いだ。
イタリアの地方道は舗装が荒れており、石畳の路面もまだまだたくさんある。ナポリの市内などは最たるもの。ポルシェや車高の低いチューニングBMWのチンスポイラーが、ボロボロに引きずられている場面を何度か見かけたことがある。そんな酷いデコボコ道を、彼らは容赦なく飛ばす。
かような入力に長年耐えねばならないイタリア車は、“極太の大根足”でなければならないと容易に察しがつく。チンクエチェントの1.4は硬い足が裏目に出て飛ばす気すら起きなかったが、頑丈さは身をもって体験できた。
クルマは、その生まれ育った国の環境に合った仕様になる。たとえば、ドイツ車はアウトバーンに代表されるように平坦路が多いので、サスペンションはストロークを要さない。足もボディも剛性は高い。これを日本の路上で使うと、つなぎ役のブッシュ類の損傷が極端に激しくなる……というような事も勘案すると、イタリアやフランスのクルマが日本の道路事情には合っているような気がする。
それに、使い途の限られる大排気量エンジンやハイパワー、そして大きなボディだって見栄でしかないように思えてくる。チンクエチェントのような小型車を繁殖させることで、地球の未来も救われる……そう思いません?
(文=笹目二朗/写真=荒川正幸、笹目二朗(JS))

笹目 二朗
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