第446回:トヨタを抜いて世界一! 「シボレー100周年」で見たGM返り咲きパワーの秘密
2012.01.30 小沢コージの勢いまかせ!第446:第446回:トヨタを抜いて世界一! 「シボレー100周年」で見たGM返り咲きパワーの秘密
シボレー見なけりゃ世界は見えない!?
ニュース聞いてビックリよ。ほとんど映画『ロッキー』並みの復活劇じゃないの!? そう、2011年に世界で902万台を売り、795万台に落ちたトヨタグループはもちろん、816万台のフォルクスワーゲングループまで抜いて自動車販売台数のワールドチャンピオンに返り咲いた米国のゼネラルモーターズ(GM)のことだ。
トヨタに関しては、震災、タイの洪水、円高……などのウン重苦があったとはいえ、思い返せばGMがリーマンショック直後に“チャプター11”こと「連邦破産法第11章」の適用を受けたのがわずか3年前の09年春。しかし、もはや借金の相当分を前倒しで返してるらしい。年900万台って数自体、07年に最後にチャンピオンを取った時にかなり近い。いったいその強さの秘密ってなんなの? と思う。
ゼネラルモーターズ・ジャパンの名物広報スタッフ ジョージ・ハンセン氏いわく、「別に世界一は狙ってません。それより今は“ワールドベストカー”を作るのが目標です。デザイン、ビルドクオリティー、セールスほかすべてで一番を目指す。つまり、持続可能なプロフィタビリティー(収益体質)の追求ですね。この結果はたまたまであって、求めたものではない。もちろん喜んではいますけど(笑)」。
イチローが大記録について「毎日の積み重ねです」ってサラリと言っちゃうように、若干冷静過ぎる感じもあるけど、きっとそうなんでしょう。
肝心の900万台の内訳だが、ぶっちゃけ、キモは「シボレー」ブランドの異様な伸びだ。2011年だけで過去最高の476万台も販売し、メインの北米市場では前年比13%も伸びてるんだけど、それでも全体から見れば3割程度。
「今や半分以上は新興国の方ですね」とハンセン氏がいうように、伸びているのは、5年間で5倍(!)と驚異的な中国をはじめ、ブラジル、ロシア、メキシコなどなど。シボレーは完全に“ニュー・ワールド・キング”。世界は、日本以外のところで動いているのだ!
しかも、売れてるのは……超ベタな「コルベット」や「カマロ」もあるにはあるが、メインは日本にも導入されたSUV「キャプティバ」やコンパクトハッチ「ソニック」、さらに、まだ日本には上陸していない世界累計113万台のお化けセダン「クルーズ」! 他にも例のE-REV(航続距離延長型電気自動車)「ボルト」などあって、ホント別世界。
古い例えになるが、アクションスターの千葉真一が全米じゃ“忍者スター”「サニー・チバ」で有名だったように(古すぎ?)、ところ変わればイメージ変わるのが今の自動車ブランド。いまやシボレーは、魔性のオンナのごとく多面的で……ひとつのイメージだけでは語れなくなっているのだ。
ってなわけで、デトロイトで行われたシボレー100周年イベントで感じた“シボレーの強さ”を不肖・小沢がチラリ解説いたしましょう!
合わせワザが効いている
さて今、世界のシボレーを支えている大黒柱は、前出の「クルーズ」だ。と言っても、それは以前スズキ系列の販売店で売られていた、「スイフト」ベースでコルベット風の丸いテールレンズを持つ“半国産”の初代「クルーズ」じゃない。
いまの「クルーズ」は、プラットフォームがGMグループの「オペル・アストラ」のもので、その上に韓国GM(GMコリア)がデザインしたボディーが載ってる“合わせワザ”モデル。ある意味、ハーフなクルマなのだ。
今のシボレーは“日・米・欧”ではなく“亜・米・欧”で、世界各地からのイイとこ取りでクルマを作り上げるのがミソ。これはSUV「キャプティバ」そのほかも同じで、プラットフォームは欧州や北米で設計し、デザインや生産は韓国で、という流れ。この韓国はそのうち中国になるとも思われる。さらに言うと、ハッチバックの「ソニック」なんかは、チーフデザイナーがオペル出身のドイツ人というなんとも言えない混ざり具合。
まさしくボーダーレスのクルマ作りがなされてるわけで、これは最近のクルマ離れや品質問題に対して、「日本ならでのモノ作りに回帰する」と言う日本メーカーとはちょいとノリが違う。
さらにここでポイントとなるのは、09年の改革直後にできた“会社セパレート作戦”だ。現在新興国ほかの販売を統括するのは「GMIO」という別会社。ちなみに「IO」はインターナショナル・オペレーションズの略だという。
元々はリーマンショック後に経営破たんした北米部門を切り離すためにできた会社で、中国を筆頭にインド、ロシア、中東、ASEAN、韓国、オーストラリアをカバーする。そしてヘッドクオーターは上海! このほかGMグループはいち早く研究開発機関やデザイン部門を新興国に作るなど、変化のスピードがとても早い。
例えば、中国進出。1882年にはおそらく外資系としてはフォルクスワーゲンに続くかたちで現地オフィスを作ってるし、1997年には2億5000万ドルをつぎ込んで、上海に巨大なテストコース付きの開発センター「PATAC」を設立。2002年には初の外資系自主ブランド「五菱」を立ち上た。ホンダは2008年に「理念」(エヴァラス)、日産は2010年に「啓辰」(ヴェヌーシア)を発表しているが、それより6年以上早い。先行投資では確実に日本メーカーに先んじているのだ。
わかりやすいスポーティーさが魅力
話は戻って肝心の新型「クルーズ」だが、これまでとの違いはボディーに表れている。
サイズは全米仕様が全長×全幅×全高=4597×1788×1477mmで、少し古めだがライバル「トヨタ・カローラ」と比べると微妙にデカく、エンジンもベーシックモデルこそ1.8リッター直4でカローラと同じだが、ピークパワーは138馬力と微妙に上。しかも一番いい仕様でカローラが4段ATのところを6段ATが採用されている。
見た目については、正直素晴らしくカッコいいわけじゃない。が、ライバルと比べると、わかりやすくスポーティー。モダンシボレーの定石で、逆5角形の巨大グリルの中央に伝統のボウタイマークが入っており、ボディーラインはグラマラス。特にリアは高級感があって、フォルクスワーゲン車にちょっと似ている。
味付けも、意外にスポーティー。インテリアは特に高品質ではなく、エンジンも低速トルクが豊かなあつかいやすさ重視のものだが、それなりに高回転まで回るし、ステアリングが明らかにクイック! これは日本に入っている「ソニック」と共通で、俺は「もしやシボレー流の“Zoom-Zoom”では!?」と感じた。
そう、ちょっと前のマツダ同様、とにかくわかりやすくスポーティー。スッと印象に残るのだ。
それから意外にも燃費がいい。ベーシックな1.8リッターのAT車を比べると、カローラがシティ/高速燃費が26/34mpg(マイル・パー・ガロン:アメリカ環境保護局[EPA]値)のところを、クルーズが22/35mpg。新しく出たシビックセダンには負けるが、高速ではカローラには勝ってる。
またユニークなのは、11年モデルにあった「エコマニュアル」というグレードで、1.4リッターターボエンジンに6MTを組み合わせ、EPAで28/42mpgを達成。これがお値段2万ドル以下。本格ハイブリッドを持たないGMなりの、エコに対する回答だろう。こういうシンプルなやり方もあるんだなと思わされた。
ほかに今回試乗して気になったのは、日本では永遠に発売されることのない(?)巨大SUVのハイブリッドモデルだ。その名も「タホ ハイブリッド」!
ボディーはラダーフレームによる古典的な構造で、サイズは全長×全幅×全高=5131×2007×1953mmと超巨大。そこに332馬力の6リッターV8+モーターを搭載しているのだが、走りがとにかく豪快なのだ。日本のハイブリッドのようにモーターだけのEVモードはなく、EPA燃費も20/23mpgと素晴らしいわけではない。
でも8人乗りで、車重2トンオーバーだ。実燃費は確認できなかったがリッター10km前後と考えるとなかなかだし、加速感もモーターを「低回転から効くターボみたいなもの」として使うのは悪くない。
そう、シボレーのスポーツ感の出し方、違いの出し方はわかりやすいのだ。特にアメリカで走らせるとよくわかる。だだっ広い道を走ってると、より大きな違いが意識されるし、このわかりやすいデザインとわかりやすい味付けがうれしく感じられるのだ
ビックリするほど用意周到
そんなシボレーは、新興国以外でも堅調だ。ヨーロッパでは、元々パイが少なかったとはいえ、11年の販売台数は前年比で約9%の増加。特に中央と東ヨーロッパでは約13%も伸ばした。
持ち直し中の北米も、今のところアメリカ国内だけで現状3600万人のシボレーユーザーがいることがわかっていて、車両の平均保有年数が11年であるこれら買い換え客を相手にうまくやれば、多くを見込むことができる。ついでにカナダを見ると、コンパクトカーでは世界最大のマーケットと目されており、11年はSUV「シボレー・エキノックス」と「同クルーズ」が二けた増。これまた潜在的なニーズは高い。
さらにすごいと思ったのは、シボレーが次の手を着々と打っていること。そしてその“着々さ”が他メーカーとはレベルが違うのだ。
技術面では100周年イベントとほぼ同時に新世代エコテックエンジンの開発を宣言。その内容は、排気量が1リッターから1.5リッターまでの3気筒、4気筒エンジンをターボやスーパーチャージャーや代替燃料を使って造るということで、欧州メーカーと似ているが……違うのは、これを中国中心で開発する! と言い切ったこと。
もうすぐ出るミドルサイズピックアップ「コロラド」にしろ、世界で一番ピックアップトラックが売れるであろうタイに焦点を当てて開発してきてるし、現場の心、相手の国民性まで考えて事業計画を練っているのだ。
ここが一番の違いで、繰り返しになるがここ数年のシボレーおよびGMには、一部日本メーカーのトップやエンジニアが言いそうな「わが国ならではのモノ作り」とか「こだわり」と言った現地回帰の発想がほぼ感じられない。もちろんアメリカ中心思想や保守性もあるはずだが、表面的にはそれが見えないのだ。デザインにしても、アメリカ的なデザインは指向しているが、それは決して「コルベット」や「カマロ」のようなマッチョぶりを示すわけではない。
さらに印象的だったのは、イベント最後に発表した、シボレーによる7年ぶりのエンジンマニュファクチャラーとしてのインディカーシリーズへの復帰とF1アメリカGP(通称:デトロイトGP)の復活。日本で今さらレースなんていうと笑われそうだが、世界的にはレースは決して滅びた文化ではなく、エコ問題とも折り合いをつけながら続けられている。地域によっては、ヘタにレース離れすると大衆の支持を失いかねないわけで、そこをGMはちゃんとわかっていると思う。
もっと言うとGMは先頃、燃料電池関連の特許総合力ランキングで、ホンダやトヨタを抜いて1位になった。先進分野では抜かりはない。
一部の品質やエコ性能では、日本や韓国メーカ−に負ける部分もあるかもしれないが、こと“自動車産業全体”に目を配るという点ではピカイチなのだ。そこではもしかするとヨーロッパメーカーや、赤丸急上昇中の韓国メーカー以上のものがあるのかもしれない。
一時日本車は確かに性能や品質で世界一になったかもしれない。でも本気になったアメリカは怖い。情報収集力や開発スピード、資本力など、いろんなスケールが日本と違う。
ついつい“木を見て森を見ず”に終わる日本人。個々の製品だけを見て満足し、全体を見ないとなにかを見落としかねない。本当のライバルは韓国ではなく、アメリカであり、もっと言うとアメリカ全体の発想力かもしれない……と思った小沢なのでありましたっ!
(文=小沢コージ/写真=ゼネラルモーターズ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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