ホンダ・インスパイア 35TL(FF/5AT)/35iL(FF/5AT)【試乗速報】
誇れる仕上がり 2008.01.29 試乗記 ホンダ・インスパイア 35TL(FF/5AT)/35iL(FF/5AT)……363万6000円/412万2000円
ホンダのセダン「インスパイア」に5代目が登場。車体、エンジンとも拡大して乗り味はどう変わったのか? その実力を試した。
ホンダらしい
「インスパイア」は、北米向けアコードとして開発された、ホンダの上級セダンである。ホンダらしい技術的特徴として、3.5リッターV6エンジンは、走行負荷によって6気筒、4気筒、3気筒と変化する「可変シリンダーシステム」を採る。
また、北米を意識させられる点は、このクラスで唯一レギュラーガスが指定されていることだ。日本と違い、良質なハイオクガスがどこでも安定供給されるとは限らない北米でも、経済的な燃費と280psの高性能が約束される設定である。もちろんわが国でも、価格の安いレギュラーガスは経済性に貢献するが、ハイオクを使った場合、さらに“走り代”が伸びるかどうか興味深いところだ。
85mm延びて5mを若干切る程度の長く大きな車体は、前後を絞り込みコーナー部分を削ぎ落としたデザインにより、数値ほど大きく見せないことに成功している。また走り出せば、フルロック2回転半の可変ギアレシオ(VGR)によるステアリングと相まって、車体の動き出しは縦方向も横方向もなかなか軽快である。
VGRはアメリカ流の設定で、切りはじめの中央部はユックリ目で、舵角を増すに従い鋭く切れ角を増すタイプ。操舵感は自然であり挙動も洗練されている。エンジンの気筒数可変も、作動感を気づかせないほどスムーズに移行するもので、ホンダの製品としての、機械加工物の高精度ぶりを見せつける。
ロール感が絶妙
そんな好印象の中でも、今回の改良で一番目につくのはサスペンションのジオメトリー変更だ。重心高を下げることはこれまでにも試みられてきたが、ロールセンター高を上げる試みは、ホンダとして公式に数値まで公表されたのは、私が知る限り初めてのことである。
前は58mmから68mmへ、後は135mmから143mmへと高くされた。実際には2代目「オデッセイ」や「シビック」をはじめ、最近のホンダ車は徐々にフツウになってきているが、以前のホンダ車は“犬の散歩”的に下方で爪先立ったロール感となり、ロールセンターが低く設定されていたために、重心高の低さが感じられなかった。
今度のインスパイアのロール感は実にいい。VGRの設定とあいまって安心して切り込める。切り始めに過敏な横Gを感じないし、外輪グリップへの信頼感が大きく増した。トレッドを1555mmから1580mmに広げたおかげだろう、安心感すらある。ジオメトリーでロールに対抗しているので、バネ系を固め過ぎることがなくなり、乗り心地も大幅に改善された。
走行安定性が大幅に増した関係で、相対的に速度感も鈍くなっているが、大きなボディを感じさせない素早い加速も印象的だ。
5ATはさほどクロースしたレシオではないが、エンジンが綺麗に吹けあがって、スムーズに次のギアに繋がる。その低い回転域になってもトルクの落ち込みが少ないせいか、グイグイ加速を続ける。そのボディは、サイズの割りに軽く仕上がっている。1.6トンの車両重量は、このクラスで誇れる数字であるし、運動性能だけでなく経済性にも寄与する。
納得の広々感
室内もトランクも文句なく広い。特に後席は広々と感じられ、前席背中のコーナー部分を丸く処理したあたりも視覚的に効いている。
最近のクルマは側面衝突対策のせいか、左右シートをセンター寄りに設置する傾向があり、ドアまでが遠く隣との肩が近く感じられるクルマが多い。インスパイアはセンターコンソールの幅が広めに採ってあり、ここでも広々感は演出されている。
ワンボックス車やSUVの高い視界もいいが、セダンの後席も落ちついた雰囲気があり、低く座るゆえの乗せられている安心感では勝る。
さて、外観デザインから受ける印象は大きく変わり、若向きで攻撃的な感覚となった。この辺もアメリカ人向けに考えられた結果なのだろう。最近のホンダ・デザインの流れからすると、活気や強さは感じられるけれども、荒っぽく、ややトゲトゲしさも感じされる。
セダン離れが進む日本市場とは異なりまだまだ人気が高いアメリカ市場に鑑みるのは、メーカーとしての復権希望でもあるのだろう。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
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