第15回:「イタリア版 松任谷さん」にも遭遇!色物瞬間芸こそ生きる道?
2007.11.03 マッキナ あらモーダ!第15回:「イタリア版 松任谷さん」にも遭遇!色物瞬間芸こそ生きる道?
伊人自動車マン、東京ショーに現る
今年の東京モーターショーは、「米ビッグ3トップがこぞって欠席」をはじめ、どうも世界に見放されたかのようなニュースが目立った。
たしかに個人的にも、朝イチで行われるはずだったイタリア自動車工業会の記者発表を見ようと6時起きして駆けつけたらキャンセル、という大オチで始まった。
しかしいっぽうで、一般公開の初日にも現れた日産のカルロス・ゴーン社長はじめ、一流自動車マンの数はけっして少なくはなかった。イタリアのクルマ関係者たちともたびたび会った。会場を歩きながら、何度「Buongiorno」を発したことか。
まずは、初代「ランチアY」のスタイリングを手がけたことで知られるエンリコ・フミア氏である。ボクの実測値では、フミア氏はイタリア人のなかで最もつぶさに今回のショーを見ていた。行くところ行くところでインジニエーレ(エンジニアに対する称号)にばったり出くわす。ボクが「いったいあなたは、何人いるんですか?」と言うと、ご本人は笑っていた。
ただし、フミア氏による今回の評価は厳しかった。
「(今回のショーは)見るべきものが少ない。プレスデイ初日は大勢の報道陣が詰め掛けて、とりあえず活気があった。だが今日(プレスデイ2日め)になって落ち着きを取り戻すと、空虚な感じばかりが漂ってしまって……」。
ボクは「たしかに子供の頃は、東京ショーに、もっとパッシオーネやエモツィオーネ(情熱と情感9を感じたっす」と述べたうえで「敢えて今年興味深いメーカーを挙げれば? 」とお願いしてみた。するとフミア氏は「(近年のものも含め)4台を展示したマツダといったところでしょうか」と、ようやく答えた。
ジウジアーロが選んだのは……
「よぉー、コメスタイ(元気か)?」と相変わらず元気だったのは、イタルデザインのスタイリング・ディレクター、ファブリツィオ・ジウジアーロ氏だ。彼を発見したのは、アルファ・ロメオのスタンドだった。関係者に振る舞うエスプレッソの香りに誘われてか、そこはイタリア人自動車関係者の溜り場になっていたのだ。
「今年気になる出品車? 『レクサスLF-Xh』だね」
レクサスが次世代のハイブリッド・スペシャリティーSUVの姿を示唆したものである。メルセデス「CLS」の如く天地を詰めたサイドウィンドウは、担当デザイナーによれば「妖しさ」の演出という。いっぽうで、全体の面構成の緊張感、ランプ類のディテールともにレクサスファミリーであることを漂わせている。長年日本車に不足していたアイデンティティがようやく確立してきたことを、ジウジアーロも察したようだ。
コンパクトでいこう
イタリア公営テレビRAIの自動車番組『TG2 モトーリ』のキャスター、マリア・ライトナー女史も来ていた。いわばイタリアの松任谷さんである。
TG2モトーリは、毎週日曜昼に放映されている。週末ということで、多くのイタリア家庭では親族まで来て賑やかにパスタを頬張っている時間帯だ。今回マリア氏はカメラマンと2人で取材に来ていた。
彼女はF1にも深い造詣があるが、東京ショーのトップ2として選んだのは、「ホンダPUYO」と「日産ピボ2」だった。
「東京ショーは、コンパクトなクルマの新しい試みが面白い」というのがその理由だ。セグメントAからC(アルファ147のクラス)までで販売の6割以上を占めるイタリアならではの観点である。
ついでにいえば、ピボについては第2世代であることを知りながらの選択である。そのコンセプトが彼女の目には今も新鮮に映ったのだろう。
それにしても、日本の自動車雑誌ではとかく「色物瞬間芸」と見られがちな、2台のコンセプトカーをイタリア人がチョイスするとは。
彼女の番組を見た好奇心旺盛なイタリア人から、「お前の国じゃ、プヨプヨしたクルマがあるんだって?」と質問されるのは時間の問題だ。
中国や韓国のモーターショーの注目度が高まる中で、東京ショーのキャラづくりの鍵はこのあたりにあると、ボクは確信した。
ETC君
蛇足ながら色物といえば、ボク大矢アキオのマイ・ベスト・オブ・ショーは、クルマではなくETCのスタンドに差し上げたい。
ETCの文字を目鼻に見立てたハリボテ君である。天才バカボンの「レレレのおじさん」も彷彿とさせる。
同じくETCのキャラクターを務める藤原紀香と同様かそれ以上の効果がありながら、明らかに低予算なところがエラい。
ちなみにこの「ETC君」、常にスーツ姿ではあるものの、午後になると身長が伸びていた。2名シフトで臨んでいるに違いない。あとは新入職員に役を押し付けた「しごき」ではないことを願うばかりである。
惜しいのは、「へのへのもへじ」文化がないイタリア人たちに、このETC君の面白さを説明するのが少々面倒なことだ。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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