スズキSX4セダン 1.5G(FF/4AT)【試乗記】
子供が巣立ったら 2007.08.07 試乗記 スズキSX4セダン1.5G(FF/4AT)……165万9000円
5ドアのクロスオーバー「SX4」に、トランクを追加したセダンバージョンが誕生。1.5リッターを積む、ノッチバックモデルに試乗した。
ノッチバック149万1000円から
プレス試乗会の会場となったホテルの前に「スズキSX4セダン」が並んでいるのを見て、アララ……と思った。
ずいぶんとまぁ、地味になったこと。
すぐ隣に、比較試乗車としてハッチバックの「SX4」が置かれていたから、なおさらそう感じた。
2004年に「スイフト」発売されてからこっち、「スズキ車のデザインが一皮むけた」と感じているヒトは多いだろう。続いて登場した“クロスオーバー”を謳う「SX4」もまた、なんとも若やいだ、フレッシュな5ドアモデルだった。そのノッチバック版と聞いて、勇んでやってきたのだが……。
2007年7月24日から販売が開始されたSX4セダンは、1.5リッター(110ps、14.6kgm)と4段ATを組み合わせた、コンベンショナルなFF(前輪駆動)モデルである。当面、4WDは用意されない。装備の違いで、2グレードが設定される。
1.5F:149万1000円
1.5G:165万9000円
たとえば、「日産ティーダラティオ」は132万3000〜180万8100円(1.5リッター)、「ホンダ・フィットアリア」が142万8000〜171万1500円である。スズキSX4セダンの価格は、なかなか魅力的だ。
意外な活躍?
廉価なコンパクトセダン「ホンダ・フィットアリア」はタイからの輸入車だが、「スズキSX4セダン」は国内で生産される。ちなみにSX4という名のクルマは、ハンガリー、インド、中国でもつくられる。インドでSX4というと、むしろノッチバック版を指すという。
SX4セダンは、前席と後席をわけるBピラーから後ろが、ハッチバックのSX4と異なる。なだらかに落ちるルーフラインを見てやや心配になり、まずはリアシートに座ってみると、やはり居住性はあまりよろしくない。
法規上は3人がけだが、実質2人用。ヘッドクリアランスに余裕がなく、ボディサイズの制約か、天井ももう一息後方にのびていてほしいところだ。ひんぱんに4人乗る予定があるヒトは、むしろルーフラインが水平に近い5ドアモデルのほうがいいかもしれない。
一方、トランクは大きくて、515リッター(VDA法)の容量を誇る。そのうえ後席背もたれを倒して荷室を拡大できるから、SX4セダン、貨物車として意外な活躍を見せるかも。トランクとキャビンをわける部分には、新たにボディ剛性確保のための補強材がわたされた。
ミニバンの後
スズキSX4セダンの室内は、グレーが支配する地味なもの。以前はベロア調の、妙に洒落たシート地でセンスのよさを見せることもあったスズキだが、今回は、シートもまた地味。
着座位置は高めで、サイドウィンドウの下端が低いので、前方左右とずいぶん開放感がある。外からは、運転者の座高が高く見えるという欠点はあるものの(!?)、取り回しの面では楽だ。
タイヤがハッチバックのSX4より控えめな「195/65R15」になっていることもあり、ハンドルは軽め。足まわりも、和製セダンらしい柔らかさ。街なかを淡々と走るにはいいだろう。
短い試乗を終えて、エンジニアの方々と話す機会が得られた。個人的に、先代にあたる「エリオセダン」を憎からず思っていたので「エリオセダンはどのような人が買っていたんでしょう?」とうかがうと、「あまり数が出なかったので、データがありません」とのこと。アララ……。
スイフト、SX4と比較して、SX4セダンは「国内での使用に特化したクルマとして売っていきたい」とおっしゃる(前述の通り、インドでも生産・販売はしている)。
SX4セダンの“ウリ”をうかがったところ、「サイドエアバッグ」「ESP」「ディスチャージヘドランプ」「フォグランプ」「オートエアコン」「8スピーカー」などを標準で備えた1.5Gが、「お買い得です!」とのこと。
車体色は、白、黒、紺、銀、灰色の5種類。「ボディカラーがあまりに地味なんじゃないでしょうか」と外野の気楽さで言うと、「SX4でも、オレンジ色をカタログで見てディーラーにいらしゃっても、実際に買われるのは、やはりシルバーとかですので」と、厳しい現実が提示された。
小柄なノッチバックモデルのターゲットユーザーは、「ミニバンの時期を過ぎ、子供が手離れしたご夫婦」だそう。最近よく聞く、マーケティング用語でいうところの“エンプティ・ネスティ”の皆さまである。
若者がフロントもリアシートも埋めて、ワイワイと乗るSX4。ご年輩のカップルが前席で肩寄せ合い、穏やかに運転するSX4セダン。リポーターの貧困な想像力ゆえか、描かれる姿が、どうも、地味に、地味に、地味に……、とむかうきらいがあるようで。
(文=webCGアオキ/写真=峰昌宏)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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