第9回:8月9日「カルディナをシベリア鉄道で運ぶ」
2007.05.12 「ユーラシア電送日記」再録第9回:8月9日「カルディナをシベリア鉄道で運ぶ」
『10年10万キロストーリー4』刊行記念!
ユーラシア大陸横断を目指す自動車ジャーナリストの金子浩久。愛車「カルディナ」をいたわって、しばしシベリア鉄道に載せることに。
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ジャパニーズ・モバイラー
今日は、初めてのゆっくりとしたスタートで、朝9時に街の入り口にあるカフェで朝食。パンとボルシチとサラダと紅茶。
食後、郵便局に行って、自分のパソコンでインターネットに接続。ノートパソコンというものがまだあまり普及していないらしく、郵便局に設置してあるパソコンを使わないでインターネットというものにアクセスできることを初めて知った模様。
「こちらのパソコンに接続している、この電話線をちょっとの間だけ外して、僕のパソコンに接続させて下さい。ウラジオストクのこの局番に市外通話するのと同じことですから」
説明してもピンとこないらしいが、気のいいオバちゃん職員たちは不思議そうに眺めるだけだ。21分54秒使ったので、市外通話料金表を見て、22.5(約90円)ルーブル請求される。
自身のメールチェックの後、田丸さんとイーゴリさんに代わって、彼らはHotmail経由でメールをチェック。
やっぱり違法!?
われわれのクルマとわれわれ自身を、シベリア鉄道のコンテナに載せるのだが、コンテナ内にはトイレと簡単なガスレンジの他には何もない。そこで、目的地到着までの「夕食」「朝食」「昼食」の食材と水、酒などをスーパーで購入し、鉄道のランプへ。コンテナに載せるのを待つのは、古いラーダの初老夫妻、カローラをトラックに運んでオムスクまで帰るジャイアンツの高橋由伸に似た若者、社長のクラウン、そしてわがカルディナ。
ランプというのは、クルマを乗せるいわばホームの役割をするもので、まず、空のプラットフォームを2台のコンテナの間につなぐ。プラットフォームとランプの隙間に鉄板を敷き、その上を斜めに横切ってプラットフォームにクルマを乗せ、そのまま前後のコンテナのどちらかに収める。
自分のクルマがコンテナの中に収まって、ランプに立つと身のまわりに何もなくなってしまい、いきなり身軽になる感じが妙で面白い。見たことのない光景が、繰り広げられている。定刻より小1時間ほど前にランプを離れ、スイッチバックしながらスコヴォロジノ駅へ行き、シベリア鉄道の“本来の”列車につなげる。
コンテナ内に小さな電灯は何個か灯っているが、暗く蒸し暑い。そして、たくさんの蠅。アメリカのラッパー「エミネム」にちょっと似た車掌役の男が、口うるさく横の扉は開けるなと繰り返す。
「コンテナに人を乗せることがバレるとマズいから、絶対に開けるな!」
やっぱり、違法営業だったんだ。暗く蒸し暑いのと併せて、まるで密航者の気分だ。数年前に、中国から日本に船のコンテナに収まった密入国者が酸欠で数10人も死亡した事件を思い出した。とにかく、換気、換気。
コンテナの中
日没は午後10時すぎなので、発車してもガラスと金網越しに車外の様子はよく見える。これまでと同じような、森林と川と湿地帯が連続し、時々、小さな集落の前を通る。列車に乗っていなかったら通ったはずの道も、列のすぐ横を並行したり、離れたり。ギャップが大きくなっており、雨水が“川”を形成して、進路を遮断している。わがカルディナでその部分だけを通過することはできるだろうが、連続した800kmは無理だ。クルマも、人間も保たない。
スーパーで買ったパンを切り、魚のパテの缶詰、チーズ、韓国製カップラーメンとビールで夕食。優雅に聞こえるかもしれないが、その逆で、コンテナ内は、クルマの一方の脇に人がひとり通れるだけのスペースしかないから、ボンネットの上や、“高橋由伸”のトラックの荷台に皿や缶を置いて、立ち食い。後ろから、誰かが通ろうとすれば、全員がパンやラーメンカップを手にしながら“大の字”のかたちで壁にへばりつき、通してあげなければならない。
3人一斉にカルディナの中で眠りに就くのは、ただでさえ窮屈なところをさらに窮屈な気分にさせられるので、田丸さんとイーゴリさんが寝込んでから、ソッとクルマに入ることにする。
その間、デッキの椅子に座って自分のコンピュータをいじっていると、“エミネム”と社長の娘がやってきた。娘は、最初から用もないのにコンテナ内を行ったり来たり。親の言うことにも、生返事ばかりの生意気盛りの10歳ぐらい。エミネムはちょっと見いい男だが、とにかくやかましい。
そんな表情とは打って変わって、ふたりとも、眼をキラキラさせてパソコンを覗き込んでくる。日本語を見せ続けるのも野暮なので、デジカメ画像にかえる。アフリカの動物や、日本グランプリの決勝スタートの動画や画像などよりも、ふたりが眼を見張っていたのは、ニューヨークの街だった。
「もっと見せて!」
バッテリーが切れてしまったので、すでにふたりが眠っているカルディナに戻って助手席で寝た。
(文=金子浩久/写真=田丸瑞穂/2003年8月初出)

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