ポルシェ・ケイマン(MR/6MT)【短評(前編)】
点と線(前編) 2007.02.24 試乗記 ポルシェ・ケイマン(MR/6MT)……777.0万円
「フラット6」「ミドシップ」「クローズドボディ」を特徴に、ポルシェファミリーの一翼をになう「ケイマン」シリーズ。
より小さな排気量で登場した、最新モデルの魅力を探る。
「ポルシェ=911」なのか?
フラット6エンジンをミドシップマウントしたオープン2シーター、「ポルシェ・ボクスター」。そのクーペバージョンとあらば、多くのポルシェ好きの興味をひくのは当然だ。
「ケイマン」はそういう成り立ちで生まれ、まず高性能版の「S」から送り出された。一般的にクーペはオープンより安価なのに、ケイマンSはボクスターSより高かった。それを正当化するために、スポーツマインドをアピールする作戦に出たようだ。
Sを先に出したのはそのためだろうし、3.4リッターという排気量は当時のボクスターSの3.2リッターを上回り、「911」の3.6リッターとの中間だった。
ケイマンSは911より100kgほど軽い。おまけにリアエンジン2+2の911に対しミドシップ2シーターで重量バランスが上。となるとどうしても、911と比べたくなる。一部の記事は、その点に話題を向けていた。結果はそろいもそろって、911の勝ちだった。「911のほうがポルシェらしい」という理由がほとんどだった。
これじゃポルシェがかわいそうだ、と思った。911基準で評価を下されている感じだからだ。
ポルシェがクルマ造りを始めて来年で60年。911はその3分の2以上にあたる43年を生きてきた。ポルシェ=911となるのも無理はない。でもこれでは、ポルシェがどんなにいいクルマを出しても、正当にジャッジされないような気がした。
いや実際に、そういうことはあった。たとえば「924」「944」「968」といった水冷直列4気筒フロントエンジンのモデルたち。10年以上作られた車種もあったが、成功を収めたとはいえない。後継車が育たなかったことが、それを証明している。
その原因の一端が、ニューモデルが出るとかならず911との比較を行い、「やっぱり911はいい」という結論を出してきたわれわれ自動車ジャーナリズムにもあるのではないかと、自戒を込めて振り返るのである。
拡大
|
ベーシック・イズ・ベター
3.4リッターのケイマンSと比較して、こちらは2.7リッターを積む。
そもそも911は、これ以上のキャパシティアップがむずかしい状況にきている。フラット6を4リッター以上にしたり、シリンダー数を8つに増やしたりすることは考えにくい。だからこそ、ポルシェとしては少しでも911の負担を軽くし、それ以外のファミリーに育ってほしいと願っているはず。その意味でも今回乗ったベーシックなケイマンは、大事なモデルといえる。
取材したケイマンは、オプションの6段MT(本来は5段)とPASM(可変ショックアブソーバー)からなるスポーツパッケージ、19インチ(標準は17インチ)ホイール、レザースポーツシート、ショートシフター、スポーツクロノパッケージなどがついて、オプションだけで144万円におよぶ。
最後のスポーツクロノパッケージとは、スロットルやレブリミット、ダンピング、ティプトロニックのシフトタイミングを変えるスポーツモードをスイッチで選べ、インパネ中央にストップウォッチが装着されるというものだ。
このケイマンを試乗したあと、ほぼノーマルのケイマンSにも乗った。結論を先に書いてしまうと、ベーシックなほうがいい。性能的にこれでじゅうぶんという気持ちもあるが、911とは違う、ケイマンならではの個性がより明確に表現できているからだ。
エクステリアにおけるSとの違いは、フロントのリップスポイラーがシルバーから黒、ディスクブレーキのキャリパーが赤から黒、マフラーが丸型デュアルから角型シングルに変わることなど。インテリアにおける差はもっと少なく、メーターがホワイトからブラックになるぐらい。
価格差をうめる実用性
ドライビングポジションは理想的。さすがポルシェだ。レザースポーツシートは、タイトなサポート感が心地いい。センターにタコメーターを置き、スピードメーターをその左のほか、タコメーターの下にデジタルで表示するので、視線移動が最小限ですむ。スポーツカーにふさわしいレイアウトだ。
カップホルダーが助手席側のグローブボックスの上に要領よく格納されるなど、細かい部分までデザインが行き届いているのは、さすがジャーマンスポーツである。
2つのシートの後方は、ボクスターがソフトトップの格納場所になるのに対し、ケイマンではエンジンルームが台地のように存在し、後方にラゲッジスペースが続く。さらにミドシップなので、フロントにもラゲッジスペースを持つ。
荷室容量は前後合わせて410リッターで、ボクスターを130リッターも上回る。リア側がちょうど2倍になった勘定になるからだ。“台地”の上にもコートぐらいなら投げておける空間を持つ。日本でラゲッジスペースのモノサシ代わりになっているゴルフバッグも、縦に2つ並べて収納できるという。スポーツワゴンと呼びたくなるほど便利なスポーツカーである。
ボクスターより50万円ほど高い価格も、この実用性を考えれば納得できるというものだ。(後編につづく)
(文=森口将之/写真=高橋信宏、ポルシェ・ジャパン/2007年2月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。
































