トヨタ・カローラアクシオ1.5G(FF/CVT)/カローラフィールダー1.8Sエアロツアラー(FF/CVT)【試乗速報】
変わりたいけど、変われない 2006.10.18 試乗記 トヨタ・カローラアクシオ1.5G(FF/CVT)/カローラフィールダー1.8Sエアロツアラー(FF/CVT) ……205万3800円/255万4650円 1966年の発売以来、全世界で累計3000万台が販売された「カローラ」が一新された。それは新たな時代の大衆車たり得るのかという問いを胸に、新たに「アクシオ」の名を得たセダンとワゴンボディの「フィールダー」に試乗した。変えようがないサイズ
2000年の秋、先代「カローラ」が「ニューセンチュリーバリュー」を掲げてデビューした時、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」との比較で大衆車の定義を考える記事を書いた記憶がある。
新しいカローラをゴルフと比べようという気持ちには、とてもなれそうにない。この6年の間に、何が変わったのだろう。というより、カローラが変わらなかったという事実から考えるべきなのかもしれない。
10代目となるカローラは、1966年のデビュー以来40周年を迎えるのだそうだ。累計販売台数は3000万台とのことで、世界中で売られるベストセラーカーなのである。高級イメージを担うレクサスとは違った意味合いで、トヨタにとって大きな役割が課せられたモデルなのだ。
各国の広いユーザーにアピールする普遍的な価値をキープしながら、新たな方向性を探らなくてはならない。そして、最新のテクノロジーを盛り込むことも求められている。ため息の出そうなくらい、とてつもなく面倒なミッションである。
まず、サイズに関しては変えようがない。日本の5ナンバー枠に収めることは至上命令であり、ゴルフのようにどんどん大きくなっていくことはもはやできなくなっている。
全長、全幅、ホイールベースは、先代モデルと1ミリとて違わない(全高はモデルによって多少違う)。その中で、室内幅を10ミリ、室内長を25ミリ(フィールダーは40ミリ)拡大するという、涙ぐましい努力がなされているのだ。
エンジンは、1.3リッターが消えて1.5リッターと1.8リッターの2本立てとなった。1.8は新開発の2ZR-FEで、Dual VVT-i(吸排気連続可変バルブタイミング機構)を備える。トランスミッションは従来の4ATからCVTとなり(MTモデルも残されている)、低燃費と滑らかな走りを実現させようという最近の傾向に沿っている。
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世界初の機構も
1.5リッターエンジンの「アクシオ1.5G」に乗って、やはり変わっていない、と感じた。もちろん、いろいろな部分に変化はある。見た目だって、一見して立体感が増したことに気づくし、のっぺりとしていた表情には陰影が加わった。室内の設えも上質感が増し、インストゥルメントパネルのデザインはすっきりとして見栄えが良くなった。
エンジン始動は、ステアリングコラムの左にあるボタンを使って行う。アイドリングを始めても、室内にはほとんど振動やノイズは侵入しない。
110psの動力は、さすがに活発とは言いがたい。発進からしばらくは、ノイズの高まりに追いつかない加速に寛容であることが求められる。それでも変速ショックを伴なわずにスピードが増加していく様はエレガントだし、巡航に移れば静かな空間が戻ってくる。
乗り心地は、期待したほどではなかった。路面の乱れを伝える仕草は安っぽいし、腰には角のある衝撃が感じられる。当然のように65タイヤを履いているのだけれど、それはプラスの要素だけではないのかもしれない。
1.8リッターの「フィールダー1.8S」に乗ると、こちらは我慢の必要はなく、むしろ「速い」とすら感じた。
エアロツアラーというスポーティなグレードで、車高が10ミリ低く、フロントスポイラーも装備されている。乗り心地が少し締まっているように感じられたのは、パフォーマンスダンパーが採用されていることが影響しているのだろう。
フィールダーには世界初と豪語するレバー1本で後席をフォールディングして格納する機構が備えられていて、ユーティリティもウリのひとつである。
ミリ波レーダーまで……
デザインも、質感も、パワートレインも、明らかに進化していることがわかった。それでも、なぜか乗った後に変化を実感として持つことが難しいのだ。
それは、カローラというクルマの位置づけが、よくわからなくなっていることに原因があるのかもしれない。実際にこのクルマを買いたいと思う人の顔を、うまく思い浮かべることができないのだ。
サイズも立ち位置も変えられないのがカローラだが、市場はこの6年の間にもずいぶん変化している。トヨタの中でも、「ベルタ」が登場することで、ますますカローラの生存空間を狭めているところがある。
カローラが今回とった戦略は、だからこれまで見てきたところではわからない部分の変化だった。
安全、環境、運転支援の分野で、これまではこのクラスでは考えられなかったほどの充実が図られた。バックモニターがアクシオの全グレードに標準装備され、「レクサスLS460」にも装備された「インテリジェントパーキングアシスト」が取り入れられた(ただし、まだまだ実用には不十分なレベルだった)。ミリ波レーダーを使用したプリクラッシュセーフティシステムまでが選べるようになったのだ。
当然ながら、相応に価格も上昇している。上級グレードにいくつかオプションをつければ、簡単に250万円を超えてしまう。
日本におけるカローラは、誕生の時に担っていた大衆車というカテゴリーからははみ出したのだろう。日本車の生きる道であるハイテク満載のクルマを安価に体験できるということでは、今のところこれ以上のものはない。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=峰昌宏/2006年10月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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