フォルクスワーゲン・パサートヴァリアントV6 4モーション(4WD/2ペダル6MT)【試乗記】
遅れてきた看板モデル 2006.09.21 試乗記 フォルクスワーゲン・パサートヴァリアントV6 4モーション(4WD/2ペダル6MT) ……480万2000円 4月にリリースされた6代目「パサート」シリーズに遅れること3か月、ワゴンたるヴァリアントに「V6 4MOTION」が追加された。期待のトップモデルに試乗。エンジンパワーは申し分ないが、上級車として気になるところがあるという。期待の「V6 4MOTION」
今年4月、日本でも販売が始まった新型パサートに、この7月、待望のモデルが追加された。「パサートヴァリアントV6 4MOTION」−−ワゴンボディに3.2リッターV6の直噴ガソリンエンジン“FSI”を搭載し、2ペダルマニュアルの“DSG”と“4MOTION”と呼ばれるフルタイム4WDシステムを組み合わせたパサートのトップモデルである。実はこのグレード、旧型では最も人気が高く、販売全体の4割を占めていただけに、市場の期待は高いようである。
「3.2リッターV6」「DSG」「4MOTION」などはすでにセダン版で紹介済みなので、さっそく試乗することにしよう。エンジンの始動は、リモコンキーをインパネのスロットに差して、それを押し込むだけ。3.2リッターV6ユニットはすぐに目覚め、静かにアイドリングを始めた。
セレクターレバーをDレンジに引き寄せて、いざ発進。“クリープ”のような動きはあるものの、トルコンに比べると進み出そうとする力はやや弱い。そこでアクセルを踏むと、状況によってはすこしギクシャクすることもあるが、総じてマナーはいい。そして走り出せば、2ペダルマニュアルとしてはもっとも洗練度が高いと評価されるDSGが、素早くスムーズなシフト操作で3.2リッターV6の魅力を引き出してくれる。
みなぎるパワー
エンジンとギアがダイレクトにつながるため、低回転域のトルクが細いエンジンに組み合わせられるとシフトダウンを頻繁におこなう必要に迫られそうだが、幸いこのV6は2000rpm以下から豊かなトルクを発揮し、1740kgの車重に対しても十分な余裕を見せる。2000rpmを超えたあたりからはさらに力強さを増すおかげで、街なかなどではとても扱いやすい。たとえば、アクセルペダルをわずかに踏み増すといった状況ならシフトダウンを必要とせず、そのギアを保ったまま加速を終えてしまう頼もしさだ。
一方、アクセルペダルを一気に踏み込むと、瞬時に低いギアが選ばれ、エンジンはクゥーンという快音を響かせながら、回転を上げていく。カタログを見ると2750rpmで最大トルクの33.1kgmを発揮するというが、体感上は3000rpmを超えたあたりからますます元気になり、4000rpmからはレブリミットの6500rpmまで一気に上りつめるような感触が実にスポーティである。
そして、終始ドライ路面での試乗ではあったが、急加速を試みてもホイールスピンに見舞われなかったのは4MOTIONの恩恵だろう。
成熟にはまだ時間がかかりそうだ
2リッターターボを搭載する「パサート2.0T」/「パサートヴァリアント2.0T」が15mm低い最低地上高のスポーツサスペンションを装着するのに対し、このパサートヴァリアントV6 4MOTIONは標準のサスペンションを採用。おかげで、乗り心地は2.0Tほど硬くはなく、そのしなやかな動きに好感が持てる。反面、235/45R17サイズのタイヤを履くため、荒れた路面だとタイヤがバタつくのが気になった。
ワインディングロードでは、ロールこそ大きめだが、ステアリング操作に対して素直に向きを変える軽快さが感じられた。
ただ、全体的な印象として、このクラスのクルマに求められる“落ち着き”が不足しているような気がした。それはクルマの挙動だけでなく、たとえば、メーターパネルの「PASSAT」のバッジやセンタークラスターのウッドパネルなど、インテリアデザインにも散見された。
ワゴンとしての実力は、すでにレポート済みのパサートヴァリアント2.0Tと同じなのでここでは省くが、トップグレードにふさわしいクルマというには、走りやデザインにさらなる洗練が必要と思われた。そういう意味でパサートはまだまだ発展途上にある。早く本当の実力をわれわれの前に示してほしい。
(文=生方聡/写真=郡大二郎/2006年9月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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