トヨタ・クラウンマジェスタ Aタイプ(FR/6AT)【試乗速報(後編)】
レクサスとは違う高級車の方向性(後編) 2006.08.02 試乗記 トヨタ・クラウンマジェスタ Aタイプ(FR/6AT) ……635万2500円 より、日本車らしいデザインへマイナーチェンジした「クラウンマジェスタ」。しかし姉妹車である「レクサスGS」との差別化は、デザインだけではなく、ドライバーに対するアプローチも大きく違うという。日本的土着性を強めた
今回のマイナーチェンジの主眼は、ヘッドライトやグリル、テールランプなど細部の意匠変更、そして装備の追加である。一見どうってこともない変更だが、このマジェスタというクルマの性格をより強めた。特に外観ではグリルをいわゆる神社仏閣風に改めたことで、日本的土着性を訴える。しかもこれが樹脂製ながら、とても手が込んだ作りで、こうなるとそれはそれで感心してしまう。
室内は例によって上級トヨタ世界。試乗車はベースのAタイプだったこともあって、標準のファブリック内装だったが、その織りの風合いは、日本間のようだし、妙に赤っぽいブラウンのウッドパネルは本木目というよりは塗りのイメージがある。ただしこのベースモデルといえども、装備に関してはユーザーでもすべてを使いこなすのは難しいのではないかと思えるほど満載されていた。
ユーザーの期待するゆっくりとした反応
路上に出たら、「よくできたトヨタ高級車」の走りそのものだった。静かで、あたりは柔らかい、それでいてきちんとしたマナーを保ったままかなりの速度で移動する。機械そのものもさることながら、外部ノイズの遮断がいいし、専用設計のヨコハマタイヤ(DNAデシベル)はマジェスタワールドをまさに下支えする。
飛ばしてもそれなりに応えてくれる。エアサスの設定に関してはトヨタは相当に慣れてきているから、ソフトでありながらも好ましいダンピングを与え、大きな路面のうねりも一発で吸収する。スタビリティも優れている。ただしたとえばGSに比べるなら、ステアリングの応答性がやや期待はずれになる。スローで鈍感というのではなく、なんとなく一呼吸遅れて、ゆっくりと反応する感じで、多分このくらいがこの種のクルマのユーザーが期待する挙動なのだろう。
エンジンは全域にわたるたっぷりしたトルクが大きな魅力で、どんな回転領域からでも右足の動きに即座に応答して、ドライバーが期待するだけの加速で応えてくれる。これには洗練された6段ATが大きく貢献している。
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最後にはドライバーは要らない
ともかくこの種のクルマとしての走る能力に関しては、感動こそないが感心はさせられ、期待を裏切られなかったが、実はこのクルマの価値は純粋なダイナミズムとはちょっと違ったところにある。それはハイテクを駆使したドライバー支援システムだ。VDIMに象徴されるシャシー・コントロールはその代表だし、さらにはレーンキーピング・アシスト、ブレーキ制御つきクルーズコントロール、ナイトビジョンなどによるドライバーアシスト系テクノロジーは年々進歩している。そして車外との通信システムも、このモデルではさらに進化し「G-BOOKアルファ」となった。
ITS(インテリジェント・トランスポーテーション・システム)といえば聞こえがいいが、要するに最終的には全自動自動車への道を、このマジェスタは確実に進んでいるし、それこそトヨタが日本の高級車で目標とする方向の一つである。レクサスは多分、ドライバーを中心に作られた高級車であり続けるだろう。だがマジェスタに代表される旧世代トヨタ高級車は、いずれドライバーすら要らないクルマにしたいのだろうと、マジェスタに乗って理解した。
(文=大川悠/写真=高橋信宏/2006年8月)
・トヨタ・クラウンマジェスタ Aタイプ(FR/6AT)(前編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000018445.html

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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