ダイハツ・ソニカRS(FF/CVT)/ソニカRS リミテッド(FF/CVT)【試乗記】
「フリースタイル」のためにバランスを 2006.06.30 試乗記 ダイハツ・ソニカRS(FF/CVT)/ソニカRS リミテッド(FF/CVT) ……138万6000円/145万9500円 ハイトワゴンを多く抱えて販売好調な余裕の現れか、それともさらなる市場の獲得に向けたシビアな戦略なのか。ダイハツが「走りの質感を徹底的に追及した」と謳う新軽自動車「ソニカ」の実力とコンセプトを検証する。市場はあるの、ないの?
「走りの軽」を標榜する「ソニカ」の想定する対抗馬は、「三菱i」と「スバルR2」ということになるらしい。軽自動車のマーケットが広がる中、「クルマ本来の魅力である走り」への期待が高まっている、という分析がそのベースにある。そうなのかもしれない。しかし、不思議な気分である。つい先日、走りとデザインを重視して開発した「R1/R2」の不振への反省から生まれた「ステラ」に乗ってきたばかりだからだ。こうしたニッチの市場は豊かなものではない、とスバルが判断したのに対し、いやそんなことはない、というのがダイハツの考えであるようなのだ。
ダイハツには、売れ筋のハイトワゴンのジャンルに「ムーヴ」「タント」「ムーヴ・ラテ」と強力なタマをそろえていて、ラインナップ拡充を図るだけの余裕があるともいえる。広さばかりを求めるのではないユーザー層として設定したのは、「フリースタイルカップル」と名付けられた人々だ。要するに、まだ子供のいない若い夫婦ということになるのだろう。ずいぶん昔に流行ったDINKS(ダブル・インカム・ノー・キッズ)という言葉を思い出す。彼らの欲望を喚起するには、デザイン、走り、ユーティリティの水準と価格がうまくバランスしているかどうかがカギになるはずだ。
一見して、ソニカは車高の低さが印象的だ。最近の軽自動車は車高が高いことがデフォルトという感があったから、妙に新鮮である。軽なのにワイド&ローと錯覚させられるのは、ボディサイドに設けられたサーフボード型のウィンドウの効果によるものが大きい。後端の直立した台形フォルムとあいまって「ホンダ・ストリーム」をちょっと思い起こさせてしまうのは、致し方ないか。リアコンビネーションランプの意匠も、最初に登場した際には「アルファ156」との近似性をさかんに言い立てられていたが、すっかりダイハツの特徴として認知されたことでもある。
新開発のエンジンとCVT
見た目がこれだけ低いと、居住性が心配になる。しかし、座ってみると意外に広いのだ。着座位置の低さが効いているのだと思われる。ヒップポイント高は「ムーヴ」などと比べて8センチほど低くなっているというから、かなり高さを稼いでいる。ダッシュボード上面の奥行きを長くとっていることも、視覚的に広さを感じさせることに成功した要因だ。2440ミリのホイールベースのおかげで、後席にも十分なスペースを確保している。R2がデザイン優先のあまりどうしても狭さを感じさせてしまったのに比べると、後発だけあってうまく妥協点を見つけている。
搭載されるエンジンは、すべて新開発のターボチャージャー付き直列3気筒だ。NA版は「エッセ」でお目見えしていたが、ターボ付きの採用はこれが初めてとなる。組み合わされるトランスミッションはCVTのみで、これが低燃費の実現に貢献したという。10・15モードではリッターあたり23.0kmとなっていて、これは軽ターボ車ではナンバーワンの数値だ。走りはいいけど燃費は我慢して、というのは今では通用しない。ここでも、バランス感覚が貫かれている。
「爽快ツアラー」を名乗るだけあって、パワートレインの力強さは確かなものだ。ターボの立ち上がりはスムーズで、発進からストレスなく加速していく。ターボエンジンの軽自動車の速さにはすでに慣れっこになっているが、この滑らかさとレスポンスのよさはかなりレベルが高い。世界初の「3軸構造」を謳うCVTのプログラムの出来が良く、これが走りと低燃費の両立に寄与しているのだろう。ただし、3000回転を超えたあたりで、タービンとCVTから発生する高周波のノイズが高まってくる。この喧噪はさすがに耳障りに思う人もいるはずだ。
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低重心ゆえの楽しさ
ちょっとしたワインディングロードを走ってみて、コーナーでのしっかりした振る舞いも確認できた。まず、ブレーキに安心感がある。カッチリした踏みごたえがあって、下り坂でも減速時に不安にならない。ハンドリングは機敏とまではいえないが、さすがにハイトワゴンとはひと味もふた味も違うシュアな動きを堪能できる。背の高いクルマもずいぶん進歩して、以前に比べれば普通に運転できるようになったのだが、やはり低重心のクルマはそれだけで運転の楽しさが違うのだ。
本当によくできていると思うのだが、絶賛を躊躇してしまうのには理由がある。ソニカに乗る前に、試乗会場に用意されていた「コペン・アルティメット・エディション」に乗ったのだ。もともと走りの評価の高いコペンだが、これはビルシュタインのダンパーを組み込んでさらにブラッシュアップされている。4気筒エンジンのフィールのよさも加わって、完全に軽自動車の枠を超えた仕上がりなのだ。価格も189万円という代物なので比較するべきではないのだが、どうにもその気持ちよさが頭から離れないのだった。
とはいっても、ソニカが目論んだテーマは、十分に達成できているのだと思う。適度なデザイン性をまとい、走りの質感を向上させ、車内空間を不満のない程度に確保する。ひとつの部分に偏らない、バランスのとれた仕上がりなのだ。軽自動車の世界ではこのところ広さを最優先にすることが当たり前のようになっていたけれど、本来ならばこのソニカのようなバランス感覚が普通なのかもしれない。とはいえ、広さや走りに特化したモデルが存在する中では、うっかりするとそれは中途半端という意味にとられる恐れもある。
今回乗った最上級グレードのRS リミテッドには、MOMO製の革巻きステアリングホイールがつき、7段のアクティブシフトが装備されてスポーティな走りを楽しめる。RSでもディスチャージヘッドランプやマルチインフォメーションディスプレイ、オートエアコンが標準となる。装備面では、もはや足りないものはほとんどないのだ。だから、競合車としては他の軽自動車だけではなく、リッターカーなどもあがってくることになるだろう。同じダイハツの「ブーン」と価格面でもかぶっている。税金を勘定に入れればソニカの優位は明らかで、軽自動車にアレルギーのない「フリースタイル」な人々には、魅力的な存在となるはずだ。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=荒川正幸/2006年6月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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