スバル・レガシィシリーズ【試乗記】
看板もすごいが、中身はもっと 2006.06.09 試乗記 スバル・レガシィシリーズ 「SI-DRIVE」を引っさげて、華々しく登場した新「レガシィ」。スバルらしからぬ派手な演出だが、改良点はそれだけではなかった。いつも通り、地道な技術開発が目立たぬところで進行していたのである。
![]() |
![]() |
エコよりインテリジェント
今回のマイナーチェンジの目玉が新採用の「SI-DRIVE」であることは、疑いようがない。「スポーツ」「スポーツ#(シャープ)」「インテリジェント」(以下文中「S」「S#」「I」)の3つの走行モードを切り替える機構で、テレビCMでも誇らしげにアピールしている。地味、質実などと評されることの多いスバル車だが、ようやく派手な演出法を覚えてきたようだ。まことに喜ばしい。しかし、それは見かけだけのことであることを、あとで知ることになったのだが。
とは言え、まずはSI-DRIVEを試してみることにした。装着されているのは、AT、MTにかかわらず、2リッターターボと3リッターエンジンを搭載しているモデルである。エンジンを始動させると、メーターパネル内のSI-DRIVEインジケーションが光り、存在を主張する。センターコンソール上にあるセレクターでモードを切り替えるようになっていて、左へ回すと「S」、右に回すと「S#」、押すと「I」が選択される。ステアリングホイールにもスイッチがあり、これを押すことにより、「S」か「S#」と「I」の切り替えができる。つまり、「I」が基本のモードと位置づけられているわけだ。
SI-DRIVEが「SUBARU Intelligent Drive」を意味することにも表れているように、インテリジェントであることが、このシステムの目指すところなのだ。あえて「エコ」という言葉を使わないところに、こだわりがあるらしい。スムーズな運転のためのモードであるという「I」はトルクを2リッターNAレベルに抑えていて、結果としては燃費に好影響をもたらす。しかし、それはあくまで結果であって目的ではないという考え方なのだろう。
試乗地が磐梯山で山道ばかりを走っていたのだが、2リッターNAエンジンのB4 2.0Rに乗っていても我慢を強いられるようなことはなかったのだ。だから、「I」モードがインテリジェントな選択であるというのは、もっともなことかもしれない。
![]() |
![]() |
SI-DRIVEの扱いが軽い?
しかし、人はいつもインテリジェントではいられないもので、磐梯吾妻スカイラインの浄土平あたりの雄大な風景の中を縫うように走る道では、俄然アグレッシブな走りを楽しみたくなってくる。B4 2.0GTのセレクターを右に回して「S#」を選び、コーナーの立ち上がりでアクセルを踏み込むと、それまでとはまったく別世界のパワーの盛り上がりが感じられる。「I」モードでは加速するのに右足を床近くまで踏み込まなければならなかったのだが、ごく浅くペダルを押すだけで急激にパワーが高まってくるのだ。
逆の方法も試してみた。上り坂でギアを固定したままアクセル開度を一定に保ったまま、モードを変えてみるのだ。「I」モードでは少々苦しいかなと感じていた坂でも、「S#」に切り替えた途端にエンジンの回転数が上がってトルクが増大し、加速を始める。日常の走行では、このような実用的な使い方も有効な場面があるだろう。B4 2.0GTはATだったが、あとでツーリングワゴンのMTモデルに乗ってみても、同様な印象を持った。日本車の中で群を抜いて高いMT率を誇るスバルだが、SI-DRIVEはMT派にも福音となるはずだ。
そんなわけでSI-DRIVEは概して好印象だったわけだが、あとでプレスインフォメーションのデータを見ていて思わず苦笑してしまった。改良点を列挙する中で、最初にエクステリア、インテリアのデザインに触れられているのは当然としても、目玉であるはずのSI-DRIVEはその次にも出てこない。パワーユニット、ボディ/シャシーの説明があって、ようやく5番目にほんの少し記述があるだけなのだ。SI-DRIVEのあとにはエアコンやオーディオ、カップホルダーについての項目があるだけで、ずいぶん軽い扱いではないか。
![]() |
![]() |
![]() |
掛け値なく、ビッグマイナー
エンジニアの方と話をしたら、その理由はよくわかった。熱心に説明されたのは、まずはシャシーに関する改良点についてだった。フロントサスペンションの取り付け部の剛性を向上させたことにより、操縦安定性と乗り心地がともに大幅に改良されたと力説された。そういえば、Spec.Bでも不当に硬い乗り心地に苦しむことはなかったのは確かだ。また、エンジンに関してもターボの形状変更や吸排気系、バルブタイミングの変更などによって出力向上と排出ガス低減を実現しているという。スバルらしい地道な改良が、やはり行われていたのである。
2003年に現行のレガシィがデビューした時、その劇的な洗練が高い評価を得たものの、弱点としては硬い乗り心地と排出ガスのクリーン度が指摘されていた。今回のマイナーチェンジで、そういったネガを着実につぶしてきたのだ。立派である。誇らしげな気持ちは、プレスリリースの項目の順位に如実に表れていたわけだ。
以前はそこで満足してしまったに違いないスバルであるが、今回はそれに加えて大向こう受けしそうなSI-DRIVEという飛び道具を用意したことは喜ばしい。優れた技術やたゆまぬ努力も、それが伝わらないことには販売成績という結果にはつながらない。そして、SI-DRIVEは派手な看板であるだけでなく、実質も持っている。ビッグマイナーチェンジという表現が、掛け値なく当てはまると思う。
B4、ツーリングワゴンともに、水平対向エンジン+4WDという組み合わせによる安定感を改めて実感させられた。ワインディングロードで、安心感とエキサイティングな気分とを両立させてくれる独特な走り味である。この2モデルと比べると、アウトバックはどうしたって分が悪い。やはりコーナリングでのすわりの悪さは否定しがたいのだ。ただ、水平対向エンジン+4WDのメリットをそこそこに享受しながら立体駐車場にも入るサイズであり、実用性もしっかり充実させているという意味ではよいバランスなのだともいえる。ある意味、とても「インテリジェント」な選択なのかもしれない。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=郡大二郎/2006年6月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
NEW
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
NEW
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。 -
第83回:ステランティスの3兄弟を総括する(その1) ―「ジュニア」に託されたアルファ・ロメオ再興の夢―
2025.9.3カーデザイン曼荼羅ステランティスが起死回生を期して発表した、コンパクトSUV 3兄弟。なかでもクルマ好きの注目を集めているのが「アルファ・ロメオ・ジュニア」だ。そのデザインは、名門アルファの再興という重責に応えられるものなのか? 有識者と考えてみた。