トヨタ・ラッシュのライバル車はコレ【ライバル車はコレ】
コンパクトカー対決 2006.06.06 試乗記 トヨタ・ラッシュの「ライバル車はコレ」 トヨタとダイハツが共同開発したコンパクトSUV「トヨタ・ラッシュ」。高いアイポイントとワイドな視界をウリとする、街乗りヨンクを、2台のコンパクトカーと比較する。トヨタ・ラッシュ(1.5リッター/159万6000円〜195万3000円)
■実は本格派の戦略車
末っ子モデルのパッソの場合と同様、「ダイハツとの共同開発」という生い立ちを持つのがラッシュ。バッジ違いのダイハツバージョンと共に紹介される場合、“パッソ/ブーン”(トヨタ/ダイハツ)とは逆に“ビーゴ/ラッシュ”(ダイハツ/トヨタ)と、ダイハツが先に表記されるのは、「今回はダイハツ開発/生産のモデルをトヨタにOEM供給するという形態となるため」との理由からだ。
そんなわけで、試乗会の場に車両説明にやってきていたのも、大半はダイハツのエンジニア氏たち。わかりやすく表現すれば「これまでのダイハツ・テリオスのフルモデルチェンジのトヨタ版」がラッシュということだ。
3000台という月間生産台数のうち、「半分近くは欧州地区での販売を予定」する、ラッシュは欧州戦略車でもある。ビルトイン・ラダーフレーム式のモノコックボディに、ロック機構付きのセンターデフを備える本格的なフルタイム方式の4WDシャシー。低ミューの下り急坂でもタイヤ・ロックを防ぎながら、5km/hというターゲットスピードで車速を自動コントロールする「DAC(ダウンヒル・アシスト・コントロール)」を設定するなど、「街乗りSUV」っぽい見かけのわりに(?)ヘビーデューティな内容を備える。それも、販売戦略と密接な関係があるのかもしれない。
一方、SUVの本格派キャラクターの持ち主でありながら、日本での売り文句はなぜか「見晴らしの良いコンパクト」という点にのみフォーカスされた。うかつに“クロカンらしさ”などをアピールしてしまうと、今のこの国のユーザーに対しては逆にマイナスの影響を与えかねないという判断なのか……。ちょっともったいない気がする。
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【ライバル車 その1】日産ティーダ(1.5リッター/145万9500円〜179万5500円)
■乗用&常用にアドバンテージ
ラインナップに名を連ねる低価格、お手頃グレードの2WD(しかもFR!)モデルを含めると、ラッシュの価格帯は160万円弱〜195万円プラスまで。これに合わせて周辺モデルを探すと、ズバリ「ライバル!」とまではいかずとも、いくつかの車種名をリストアップすることができる。
たとえば150万円弱〜190万円強までという価格幅を持つ「日産ティーダ」もそのひとつだ。
自ら「上質なコンパクトカー」を謳うティーダは、2BOXハッチバックのボディフォルムやスタイリングに色濃い個性が溢れるというものではないものの、インテリアの仕上げはたしかに、一般的なコンパクトカーたちよりもモダーンな雰囲気が濃厚だ。シートやトリム類の色使いやその触感も、「ラッシュのそれよりは1クラス上」な実感が得られる。“見晴らしの良さ”に対する裏返しとして、ラッシュはフロア位置が高く乗降性が必ずしも優れているとは言えない。それに較べて日常的な乗降性能、扱いやすさはティーダのほうが上だ。
ラインナップ中、最高の価格を与えられた「18G」は、1.8リッターエンジンにCVTを組み合わせたパワーパックを備える。サイズや車重を考えれば当然ながら絶対的な加速感など動力性能は高く、フィーリングの上質さもラッシュのそれを大きく凌駕する。そもそもラッシュの心臓は、初代ヴィッツ用に開発された1リッターエンジンのスケールアップ版で、極端なロングストローク設計ゆえに特に高回転域が苦しげだ。しかも、ティーダと同等の重量を駆動すべく、駆動系が比較的ローギアードに設定されたため「ちょっとかったるい」というウイークポイントが目立ちやすい。
一方、ティーダにも及ばない領域はある。4WD仕様を選択したとしてもティーダの踏破性がラッシュのそれに遠く及ばないのは、先に述べた理由から自明だ。特に雪道などは、少しでも轍が深くなると、たとえ駆動力にゆとりがあっても地上高の低い“乗用車”ではたちまち走行不能となる。その点、ラッシュの200mmという最低地上高は大きな武器になるワケだ。
ただ何故かラッシュの場合、こうした点は一切宣伝が行われていないのだけれど……。
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【ライバル車 その2】トヨタ・ラクティス(1.5リッター/151万2000円〜186万9000円)
■得るために、失ったモノもある
全長と全幅はラッシュとほぼ同様。ホイールベースも30mmしか異ならない……と意外なる“接近戦”を演じるのは、トヨタのコンパクトカー。ラッシュよりもわずか3か月ほど早い2005年10月にリリースされた、日本市場専用モデルである「トヨタ・ラクティス」だ。
ラッシュ同様のブランニューモデルにもかかわらず、デビュー後たちまちにして「日本を代表するベストセラーカー」の仲間入りを果たしたこのモデル。しかし、前述のように数字上では似通った部分があっても、あくまでFFコンパクトカーとして一般的なレイアウトとハードウェアを採用する。急なスラント角を持った極端に短いノーズの採用によるモノフォルム風のキャビンは、ラッシュのそれよりもはるかに広い空間を備えることを、エクステリアデザインからアピールする。
実際、乗り込んでみればその広々感がラッシュよりもずっと強いことが即座に体感できる。ルーフ高さはラッシュよりも65mm低い「だけ」なのに、地上からのヒップポイントはラッシュのそれよりも110mm「も」低い。すなわち、そのぶんヘッドスペースに余裕が大きいことも、広々感の演出にもちろん効いているはずだ。
しかし、広々感と引き替えに失ったものもある。昨今の日本のユーザー受けをする印象を演じたいがためか、ウインドシールド位置が無理矢理に“前出し”され、ダッシュボードがエンジンルーム前半におおい被り、異常なほど大ボリュームに感じられる。また、ステアリングポストが妙に低い位置から生えているおかげで、ドライビングポジションは少々“バス風”、一歩譲っても“一昔前のミニバン風”となり、しっくりこない。Aピラー基部がかなり幅広いのでその部分の死角の大きさも気になる。言葉を悪くすると「カッコを気にする日本のユーザーに媚びた結果、ある面、使い辛いデザインが目立つ」のが、このモデルの特徴でもあるのだ。
こうした観点で両車を較べると、ラッシュのデザイン&レイアウトには、質実剛健の使いやすさが追求されている印象だ。やっぱりそれは欧州市場を重視したゆえ!? ……なんて言ったら、それは言い過ぎかな。
(文=河村康彦/写真=広報写真/2006年6月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。