フォルクスワーゲン・パサートヴァリアント2.0T/パサート2.0/パサートV6 4モーション【試乗速報(後編)】
プレミアムよりクラスレス(後編) 2006.03.24 試乗記 フォルクスワーゲン・パサートヴァリアント2.0T(FF/6AT)/パサート2.0(FF/6AT)/パサートV6 4モーション(4WD/2ペダル6MT) ……428万2500円/333万7000円/439万円 フォルクスワーゲン「パサート」には、3種のエンジンが用意されている。新開発の狭角10.6度のV6エンジンを搭載するのが、トップモデルのV6 4モーションで、4WDシステムとDSGが組み合わせられている。4気筒NAモデルは319万円
先代「パサート」は最初V6とV5が用意され、W8までがラインナップされたあとで直列4気筒エンジンを搭載したモデルが登場した。もともとライバルに比べて競争力のある価格が付けられていたのだが、さらに廉価だということで大いに人気を博した。実用車として考える限り走りに不足はなかったのだから、意義のある選択肢だった。
新パサートでは、初めから4気筒のNAモデルが用意されている。150psの2リッターエンジンを積み、価格はまたも思い切った設定で、319万円である。安くても、基本的な装備は上級モデルと共通だ。キーユニットを押し込むことでエンジンを始動させる「プレス&ドライブ」と呼ばれるイグニッションシステム、オートホールド機能を持った電動パーキングブレーキなど、上級感をにじませる機構は同じように装備される。
走らせてみても、先代と同様、特に不満は感じない。高速道路の合流で加速する時など、エンジン音の高まりが煩わしく感じられることもあるが、スピードに乗ってしまえば安定感のある走りを享受できる。しかし、それを理解しながらも、どこか物足りなく感じたのも事実である。大きく立派になったボディ、高級感を増したインテリアとのマッチングは、少々バランスを欠くように感じられたのだ。全体的に乗り心地には改善の余地があるように思われたが、特に4気筒モデルは粗い路面で時に安っぽい振動が興を削ぐことがあった。
拡大
|
拡大
|
250ps、4WD、DSG
「V6 4モーション」には、最後に乗ることになった。250psの最高出力を誇るエンジンに4WDシステム、2ペダルMTのDSGを組み合わせた、至れり尽くせりの仕様だ。しかも、ダイナミックコーナリングライトを備えたバイキセノンヘッドライトやレザースポーツシートなどが標準でつく。外装もクロームパーツの量が増えていて、少しばかりゴージャスに見える。それでも450万円を大幅に下回る値段なのだから、実はこれがいちばんお買い得なモデルかもしれない。
試乗を始めてしばらくすると、空から雨が落ちてきた。撮影にはハンディとなるが、4モーションを試すにはありがたい状況である。ハルデックスカップリングを用いた4WDシステムはABSやEPSと連動して前後輪のトルク配分をコントロールするという。次第に雨が激しくなってきた宮崎道は高速コーナーが連続するが、ハイペースで飛ばしてもいささかの不安も感じない。高速移動を常とする人にとっては、この安定感はこの上なくありがたい。
高速を降りて霧島連峰へ向かう山道に入ると、DSGを駆使することになる。パドルは付かないのでフロアのレバーで操作するのだが、相変わらずシフトダウンの気持ちよさは健在である。シフトのクイックなことには感心してしまうし、ATでは得られないダイレクト感がスポーティな気分を盛り上げる。「ジェッタ2.0T」ではクイックさが仇となって発進時にEPSが介入するような粗さを見せることもあったが、さすがに4モーションのおかげで振る舞いはジェントルである。
セダンとワゴンの微妙な差
日本の輸入車ミディアムセダン市場で、これまでパサートは大きな存在感を示してはいなかった。3万台と言われるマーケットの中で、ピーク時でも1817台という実績しか残せていない。しかし、ミディアムワゴンとなると話は違って、アウディ、メルセデス・ベンツ、BMW、ボルボとほぼ拮抗しているのだ。このあたり、セダンとワゴンのユーザー意識に微妙な差があることの反映なのだろう。
新しいパサートが、プレミアム方向に舵を切ったのは間違いない。装備や内装の質感も相応のレベルに達しているし、強力なパワートレインもライバルに十分に対抗できるものだ。しかし、それでも無闇にプレミアムを強調しないところに、フォルクスワーゲンというブランドの姿勢がある。VGJの梅野社長が挨拶の中で、フォルクスワーゲンのクルマはまじめで実質本位であり、「クラスレス」であると話していた。
プレミアム指向が瀰漫する中で、ヒエラルキー意識を利用するほうが販売を伸ばすにはわかりやすいし効果もありそうだ。でも、なんでもプレミアムというのも、そろそろ鼻についてきた。フォルクスワーゲンには、現在の絶妙なブランドイメージを維持してほしいと思う。パサートは確かに高級感を高めたけれど、尊大な印象を与えることはない。価格面も含め、今どき貴重なキャラクターには好感が持てるではないか。
(文=NAVI鈴木真人/写真=高橋信宏/2006年3月)
・フォルクスワーゲン・パサートヴァリアント2.0T/パサート2.0/パサートV6 4モーション【試乗速報(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000017967.html

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。

































