スバルR1S (FF/CVT)【試乗記】
たまにはこんな型破りもイイ 2006.02.16 試乗記 スバルR1S (FF/CVT) ……153万3000円 2+2の軽「スバルR1」にスーパーチャージャー搭載の新グレード「S」が追加された。64psのパワフルなスポーティ軽の走りとは。3285!?
この4ケタの数字は何を意味するのか? 正解はR1の全長である。ご存じのように軽自動車のサイズ枠は全長:3400mm、全幅:1480mm、ついでに全高:2000mmで、ほとんどの軽自動車は枠ぎりぎり、全長3395mm×全幅1475mmというのが常識だ。
ところがR1は、世間の軽自動車よりも110mmも短い。これを“もったいない”と思うか“エライ!”と思うかは自由だが、「2人乗りのパーソナルカーとして機能を凝縮し、可能な限り小さいサイズにパッケージングしました」(R1広報資料より)という考え方を私はエライと思うし、カッコイイと思う。3285mmで済むものを、わざわざ3395mmに延ばしてしまうほうがよほどカッコ悪いよ。
そのぶん後席はいわゆる“プラス2”で、大人が長時間座る場所ではないが、「ないよりマシでしょ」と割り切ってしまうところがまた潔い。かといって小さいだけが取り柄というわけではなく、たとえば試乗車の室内を覗くと、赤のレザーと黒のアルカンターラのコンビシートや、同じカラーコーディネートのダッシュボードが、ドライバーの目を楽しませてくれる凝りようだ。オプションを含めた価格は150万円オーバーと破格だが、こんな型破りの軽があってもいいじゃないか、と思わせてくれるのがR1なのだ。
スーパーチャージャーで怖いものなし
そんな軽自動車の異端児、スバルR1に、昨年11月追加されたのがこの「S」。最高出力64ps、最大トルク10.5kgmを発揮するスーパーチャージャー付直列4気筒DOHCエンジンを搭載して、シリーズ中トップの性能を誇る最強グレードだ。組み合わされるトランスミッションはCVTだが、他のグレードと異なりSにはマニュアルシフトが可能な7段“スポーツシフト”を採用して、スポーティさをアピールしている。
さっそく件のフロントシートに身を委ねると、サイズは大きすぎず小さすぎずで、腰のあたりのサポートも良好だ。同じツートーンのステアリングホイールの先には、中央に大きな速度計、その左右に小さな燃料計と回転計を備えたシンプルなメーターパネルが見える。イグニッションキーを捻ると速度計の針がフルスケールの140km/hまで振れて再び0km/hまで戻る“儀式”。さらにキーを回せばエンジンが目覚める。
比較的高い位置にあるシフトレバーを手前の「D」まで引き寄せていざ発進。自然吸気のR1「R」でも出足がもたつくことはなかったが、このR1 Sもまた発進には余裕がある。そして走り始めると、660ccとは思えない豊かな低中速トルクを発揮するスーパーチャージャー付エンジンと自在にギア比を変えるCVTのおかげで、ストレスを感じることなく街中の流れに乗ることが可能だ。
もちろん、このエンジンが得意とするのは低中回転域だけではない。アクセルペダルを深く踏み込んでやれば、トルクがピークを迎える3200rpmを超えてもなお活発な印象は続き、回転計の針はさらに上を目指していく。5000rpmあたりからは多少苦しげな音が聞こえてくるが7000rpmくらいまでは十分に力強い。
一方、このパフォーマンスと引き替えにガマンしなければならいのがエンジンのノイズ。アクセル一定で巡航しているときはまだいいが、加速中はブウォーという音が目立ち、スピードが上がると155/60R15のポテンザRE080が発するロードノイズも無視できなくなるのだ。
高速道路でもロードノイズが耳障りだが、ホイールベースが短い割にはピッチングなどの無粋な動きはよく抑えられていて、直進安定性も高いレベルだ。やや硬めのサスペンションは路面の荒れを拾いがちだが、そのぶんしっかりとした乗り心地をもたらし、軽自動車とは思えない頼もしさが感じられた。
![]() |
ライバルはスマート・フォーツー!?
この感じ、何かに似ていると考えていたら、スマート・フォーツーを思い出した。スマート・フォーツーのほうが尖っているが、サイズといい、デザインといい、乗り心地といい、エンジンといい、割り切りの良さが魅力という共通点をこの2台は持っているのだ。
スマートに比べるとR1 Sははるかに受け入れられやすいクルマに仕上がっているが、それだけにスマートほど強いインパクトが感じられないのが残念なところ。だからR1 Sにはもっともっと主張してほしい。たとえばカブリオレや、よりスポーティなモデルをラインアップして目立ってほしい。R1なら絶対似合うと思うな。
(文=生方聡/写真=郡大二郎/2006年2月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。