フォルクスワーゲン・ポロGTI 5ドア(FF/5MT)【試乗速報】
これぞ、ポロの本当の魅力 2005.12.21 試乗記 フォルクスワーゲン・ポロGTI 5ドア(FF/5MT) ……249万9000円 第39回東京モーターショーがワールドプレミアだった「ポロGTI」が、ヨーロッパに先駆けて日本で発売された。フォルクスワーゲンが手がける「ホットハッチ」は、若々しい魅力に溢れていた。ホットハッチが人気?
ちょっと信じがたいのだけれど、ホットハッチが人気なのだという。スモールコンパクトのセグメントの中で、2002年に5%だったホットハッチのシェアが、2004年は9%にまで広がったそうだ。小さいボディに元気なエンジン、という組み合わせはクルマ好き御用達というイメージがあるだけに、喜ばしいことではないか。
環境問題、ロハス志向と、スモールカーに光が当たる条件が整っている中、「ポロ」は2002年の5月から4代目が日本に導入された。先代から引き続き輸入車のスモールコンパクトでは売り上げ1位を保っていたが、2004年は「MINI」に抜かれたものの、2005年は首位奪還が予想される。小さなクルマを作らせればピカイチの技を持っているというイメージは、やはり根強くフォルクスワーゲンのブランドに染み付いている。そして実際に、長年蓄積されてきたノウハウはダテではなくて、ポロは実用車としてとても優秀なクルマであることは間違いない。
ただ、ポロの本当のよさが伝わっていたかというと、疑問がある。日本で販売されていたポロは1.4リッターエンジンに4段ATという組み合わせのみだったのだが、本国ではエンジンバリエーションも豊富にあるし、何よりマニュアルトランスミッションという選択肢がある。1.2リッターの3気筒エンジンでも、5段MTとの組み合わせならなかなか活発に走るのだ。日本の市場を考えると仕方がないのだが、最良のモデルに触れることができないというのはもどかしい限りである。
精悍な顔、軽みのインテリア
スポーツモデルの「ポロGTI」は、もちろんマニュアルトランスミッションを備えている。そして、150psを放つ1.8リッターターボエンジンを搭載しているのだから、その走りに期待してしまうのは当然だろう。0-100km/hが8.2秒、最高速が216km/hという数字も、心を躍らせる。10月に行われた東京モーターショーでワールドデビューを果たしたモデルが、ヨーロッパに先駆けて日本で発売されるというのも、なんとなくうれしい。日本において、GTIというブランドの人気は揺るぎないものなのだ。
9月にマイナーチェンジを受けて顔つきが勇ましくなったポロだが、GTIはさらに雄々しい表情を持っている。「ゴルフGTI」と同様に、ブラックアウトされて一体化されたフロントグリルが精悍な面持ちだ。しかし、インテリアを見ると、一転して軽みを感じさせる造作となっている。スポーツシートは黒に白と赤のラインをあしらったチェック柄で、軽快な印象。スポーツモデルにありがちな戦闘的な意匠とはせず、生真面目な少年を思わせる英国風のデザインになっている。シートベルトに赤の縁取りが施すという小技が使われているのも好印象だ。通常モデルのポロの地味な内装と比べ、はるかに気分を高揚させてくれる。嫌らしい上昇志向、金持ち志向がないところがさわやかだ。
身が軽くなったよう
エンジンを始動させると、ステアリングホイールやシフトレバーに細かい振動が伝わってくる。嫌なものではなく、むしろエンジンの息吹を感じさせるという意味で好ましい。短めのシフトレバーを1速に入れ、右足にそっと力を込めると回転計の針はあっという間にリミットに達した。たちどころに3速まで入り、爽快な加速を楽しめる。なんだか、身が軽くなったようだ。車重は1210kgもあるのに、1トンを下回るぐらいに感じられる。
ロードホールディングのよさも、たいしたものだ。地面にしっかり張り付いている感覚がもたらされるから、コーナーでの安心感が際立つ。基本的に安定方向に躾けられており、簡単には危ない状況は訪れない。軽やかさを楽しんでいると、気分が若々しい高揚に満ちてくる。乱暴で荒々しい若さではなく、あくまで端整で健全な青年というイメージだ。
ゴルフGTIには「いいもの感」が溢れていて、プライドを持って乗ることができる。でも、「回春効果」が欲しいのなら、ポロGTIがぴったりだ。NVH対策に完璧が目指されているとは言えず、インテリアに上質感がみなぎっているわけでもない。でも、クルマの楽しさはダイレクトに伝わってくる。乗り心地も悪くなく、リアシートは分割可倒式で荷物も積めるから実用性だって文句ない。年相応に落ち着きはらった貫禄を身につけたいのなら興味はなかろうが、いつまでも若気の至りというオヤジも、素敵ではないか。
(文=NAVI鈴木真人/写真=清水健太、フォルクスワーゲン/2005年12月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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