トヨタ・ハリアーハイブリッド“Lパッケージ”(CVT)【試乗記】
クールなSUVの象徴へ 2005.08.18 試乗記 トヨタ・ハリアーハイブリッド“Lパッケージ”(CVT) ……480万600円 SUV特集最後の一台は、先進的な心臓を抱えた「ハリアーハイブリッド」。走行性能、動力性能においても差別化される、このクルマのイメージは、いかに。北米で火をつけた
改めて言うまでもなく、昨今のSUVブームに火をつけ、そして今も牽引しているのは、プレミアムブランドの輸入SUVの一群だ。そもそもこれらは北米市場をターゲットに開発されたもので、いずれも日本と同じように、滅多に使われることのないオフロード性能よりも、オンロード性能に重点がおかれているのが特徴である。
その北米におけるオンロードSUVブームの発端となったのは「トヨタ・ハリアー」、つまりは「レクサスRX」だったといわれている。そのヒットが開かれた市場の存在を認知させて、北米ではレクサスとライバル関係にある多くのブランドを呼び込んだというわけだ。
そのレクサスRX、あるいは間もなく後を追った「BMW X5」や「メルセデス・ベンツMクラス」を追撃するには、そのオンロード性能の向上こそが一番の手段とばかりに、このセグメントはいずれのモデルもひたすらにパワーを上げ、足を固めてタイヤを太くしてというのを繰り返して今の姿へと至っている。けれども、そうなった今のSUVが、火がつきはじめた頃のようにクールな存在感を保っているかといえば、どうも怪しい。ストレートにいってしまえば、重くてデカいクルマをガソリンを垂れ流してドーンと加速させている姿は、あんまり賢そうには見えないなというムードが漂い始めているという感があるのは否めない。
そんなわけで現に北米市場では、石油市場の高騰という要因もあって、その勢いは鈍り始めているという。しかし、そんな中でほぼ唯一、羨望の眼差しを向けられているといっていいのがRX400h、すなわち日本におけるハリアーハイブリッドだ。
ハイブリッドだけの魅力
クルマの特徴については様々なところで触れられているのでここでは繰り返さないが、要するにパワーとエコを高い次元で両立させているところが、従来のオンロード派カットビ系SUVとの決定的な違いということになる。しかしハリアーハイブリッドには、単に速くて燃費が良いというだけではない独自の魅力が備わっている。それは、まさにトヨタのハイブリッドシステムでなければ実現できない個性的な走行フィーリングだ。
まずはその加速感。絶対的な加速力も凄まじいが、それより圧巻なのは、そこに一切の途切れも無いことだ。ハリアーハイブリッドの「THS-II(トヨタハイブリッドシステムII)」は、CVTを介した272psのエンジンパワーに加え、モーターからはどんな回転数からでも動力が伝達されることで、シームレスな加速を実現する。つまり下から上まで、ずーっと背中をシートバックに押し付けるGがかかり続けるのだ。しかも瞬間的なレスポンスも、電動モーターの効果でトルクの立ち上がりが驚異的に鋭いのである。
前後輪に電動モーターを配した「E-Four」と呼ばれる4WDシステムを活用した、車両姿勢制御システムのVDIMは、ドライバーの操作から挙動変化を先読みして、常に車両を滑らかに安定方向へと導く。ドンッと大きなトルクを発生したと思ったら、ESPがお仕置きのように介入してアクセルを絞り、走りの歓びを削ぐなんてことは、ハリアーハイブリッドではほぼ皆無といっていい。
“エコノミー”だけでなく“エコロジー”
そもそもハリアーにハイブリッドシステムが搭載されたのは、もちろんハイブリッドの普及によって、クルマによる環境破壊を少しでも小さくという、崇高な思いも小さくはないのだろう。ただ少なくともそれと同程度には、モアパワーを叫ぶライバル達との差別化による、ブランド性向上という狙いもあるはずだ。
それは結果的に間違いなく環境負荷を小さくし、また単に速い遅いという軸には留まらない、独自の走りの味わいをも獲得することになった。そして、それらすべてが相まって、ハリアーハイブリッドはとてもクリーンで聡明そうという、いってみればSUVらしからぬ好ましいイメージを振りまく存在となったのだ。
石油価格の高騰は当然対岸の火事などではなく、ここ日本でもガソリン価格の上昇という現象を引き起こしている。“エコノミー”だけでなく“エコロジー”への一般の関心が、これまで以上に高まっているのも事実だ。リアゲートに輝く「HYBRID SYNERGY DRIVE」のバッヂは、今後ますますクールなSUVの象徴として羨望を集めるに違いない。
(文=島下泰久/写真=郡大二郎/2005年8月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。