BMW7シリーズ(試乗篇)【試乗記】
フラットライドとはまさにコレ 2003.01.04 試乗記 BMW7シリーズ(試乗篇) 新型BMW7シリーズ、前回の技術説明会レポートに続き、今回はイタリアの観光地「フィウッジオ(Fiuggio)」にて、清水和夫がニューBMW7シリーズに乗った。電子装備満載、ハイテクサルーンの実力はいかに。会員コンテンツ「Contributions」より再録。指一本でパーキングブレーキ
ニューBMW7シリーズは前モデルに比べ、ボディサイズがひとまわり大きく、全長×全幅×全高=5029×1902×1492mm。バルブトロニック搭載のエンジンや、新開発の6段ATをシフトバイワイヤー機構を盛り込んだなど、電子制御を満載した新型フラッグシップである。
「今度の7シリーズはご存じのようにハイテク満載ですが、この革新的な技術は7シリーズだけでなく、今後のすべてのBMWにとって重要な先進技術なのです」と技術部門を統括するボードメンバーは述べる。
デザインは「アスレチックデザイン」と呼ばれるもので、プロポーションだけで7シリーズとわかる。ホイールベースが60mm伸ばされたおかげで、従来モデルに比べてフロントシート後部のニースペースが42mm、肘幅は16mm広く、さらにヘッドルームは10mm高くなり、後席の居住性が高まった。
ラゲッジスペースも大きくなった。チーフデザイナーは日本人の私を見つけると「今回はゴルフバッグが3つは入りますから」と自慢げに述べた。旧モデルはゴルフバッグが入らないと、日米のユーザーから多くのクレームがあったようだ。
ハイテクを駆使したユニークな仕掛けは、ドライビングに関する操作がすべてステアリングまわりに集約されたことだ。エンジニアはF1のコクピットをイメージしたと述べた。
たとえばシフトレバーは右指が担当するし、パーキングブレーキは左手でスイッチを押せばいい。もちろんエンジンスタートはボタン方式でも可能となった。ユニークなのは交差点で一時停止したらブレーキペダルから足を離せることだ。これはオートパーキング機構が自動的にブレーキ圧を加えるからである。再びスタートするときはアクセルを踏めばいい。
さらにエアコン、ナビオーディオ、サスペンションの切り替えモードスイッチなどのコントロールは、フロアコンソール上の大きな"マウス"でこと足りる。まるでパソコンを扱うような感覚だ。適度に反力が与えられており、慣れれば手の感覚で好きな情報にアクセスできそうだ。
低負荷時の燃費向上
エンジンはBMWがもっともこだわる技術である。今回は新開発の6段ATを組み合わせるだけではなく、バルブトロニックと呼ばれるスロットルレスの技術を新開発4.4リッターV8(333ps/6100rpm、45.9kgm/3800rpm)に投入した。
これはすでに3シリーズなどの4気筒エンジンで採用されている技術。シリンダー内部へ送る混合気の量を調節するバタフライスロットルを廃し、バルブリフト量を変化させることで代用したシステムである。特に低負荷時のポンピングロスが減少したおかげで、EUのテストサイクルデータでは、低速で走行することの多い市街地において、前モデルの4.4リッターV8(286ps/5400rpm、44.9kgm/3600rpm)より、燃費が14.4%向上したという。カタログ値では、市街地においてリッター6.5kmが謳われる。
それに加えて、吸排気バルブタイミングを変化させる「ダブルVANOS」と、インテークマニフォルドの長さを変化させる機構を搭載したこの新しいV8のおかげで、0-100km/hは740iの7秒から、6.3秒と0.7秒向上した。この値は偶然にもメルセデスの新型SLと同じパフォーマンスである。
トランスミッションは、新開発6段ATが組み合わされる。シフトバイワイヤー採用によって、ステアリングホイールに付いたスイッチからすべての機能を操作することが可能になった。またセレクターレバーとトランスミッションの間に、機械的な接続がないため、物理的な音や振動がボディへ伝わることがない。
200km/hで新聞が読める!?
新型7シリーズは「乗り心地とダイナミクス」を大幅に向上させた。サスペンション形式は従来と同じ、フロントがダブルジョイント・スプリングストラット、リアがインテグラルアーム式であるが、旋回時のロールだけを規制するアクティブサスペンションを開発した。
これは前後のスタビライザーをアクティブに可変制御するもので、BMWは「アンチロール・スタビライジング・システム」と呼んでいる。
速度に応じて前後のロール剛性配分を変える。より高速になるとフロントのロール剛性を高めてよりアンダーステアに振り、安定性を高めるのだ。さらにコーナーリングでは、横Gが3m/sec2まではボディロールを100%抑制、6m/sec2までは80%以上を抑制し、横Gが限界に近づくと車両の傾向をアンダーステアに変化させ、ドライバーに警告を発する。
「200km/hでコーナーリングしても後席で新聞が読める」とエンジニアは冗談を言うが、完全なフラットライドでスポーティなハンドリングゆえ、7シリーズはM5のようにスポーティに走れるのだ。
さらに、路面状況や車両の走行状態に応じて、ダンパー減衰効果を電子制御する可変ダンパー「EDC-C」、来年春に登場するリヤのエア・サスペンションなど、盛りたくさんの電子技術が織り込まれる。新型7シリーズは最高の乗り心地を提供するために様々なデジタル技術を提供することになった。BMWがこんなにもハイテクが好きなメーカーだったのか、と驚かされた。
そういえば、この種のハイテクサスペンションは10年前は日本メーカーのお家芸であった。トヨタも日産もアクティブサスペンションをもっていたが、結局満足のいく性能が得られず、コストの壁にも突き当たり、ほとんど諦めてしまったのだ。これでは基本性能でもハイテクでも、日本はドイツの軍門にくだろうとしているのではないか。誰にも聞こえない小さな声で「あの〜日本メーカーも昔はアクティブサスペンションを持っていたのですが……」とつぶやいた。
インプレッションの詳細は、『NAVI』2001年12月号を見てもらいたい。いままでの7シリーズを大幅に上まわる乗り心地と安定性が実現していたことは確約できる。フラットライドとはまさにこのことを言うのだと思った。
(文=清水和夫/写真=ビー・エム・ダブリュー(株)/2001年10月24日)

清水 和夫
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