BMW760Li(6AT)【ブリーフテスト】
BMW760Li(6AT) 2003.03.18 試乗記 ……1580.0万円 総合評価……★★★★★
![]() |
立派な踏み絵
5mを超える堂々たる体躯に、6リッターV12というこれまた立派な心臓をもつ、BMWのトップ・オブ・トップ。ノーマル7シリーズのストレッチ版ではない、という専用ボディがジマン。ボアピッチから見直したブランニュー軽合金12シリンダーは、「4カム4バルブ」「吸排気可変バルブタイミング機構」「可変吸気システム」そして「バルブトロニック」加えて「筒内直噴」と、バイエルン発動機の絢爛たるショールーム。スペックも華々しい6段のオートマチックトランスミッション、ロール、ダンピングともに電子制御されるシャシーと併せ、締まった、アスリートな走りを見せる。ショファードリブンにはもったいない。
室内には、前後とも、手元には円盤状のコントローラーが光る。“7”の先進性をゴリ押しする「iDrive」は、IT時代に生きるエグゼクティブにとっての踏み絵のひとつ。イヤでも褒めなければならないが、無理に踏む必要はない。
![]() |
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2001年9月のフランクフルトショーでお披露目されたBMWの4代目フラッグシップ。わが国へは、翌2002年4月からデリバリーが開始された。
アッパークラスとして異例に斬新なスタイル、「iDrive」に象徴されるハイテク指向で、スリーポインテッドスターとの差別化を強める。“シフト・バイ・ワイヤ”を採る6段ATも新しい。物理的にスタビライザーを操作してロールを抑える「ダイナミックドライブ」、電制ダンパーによるアクティブサスによって、ビーエムの名に恥じない“走り”も確保する。
2003年モデルとして日本に入るのは、3.6リッターV8(272ps)の「735i」、4.4リッターV8(333ps)を搭載する「745i」、そのストレッチバージョン「745Li」、そしてハイエンドたる6.0リッターV12(445ps)モデル「760Li」の4種類。
(グレード概要)
760Liは、2003年1月10日に日本導入が発表され、同年3月からデリバリーが始まったハイエンド7シリーズ。まったく新しい「N」型12気筒を載せる。4カム4バルブのヘッドメカニズムをもち、空気の流入量をバルブの開度でコントロールする「バルブトロニック」エンジンにして、シリンダーに燃料を直接噴射する「ダイレクトインジェクション」ユニットでもあるという、バイエルン発動機のトップモデルにふさわしい心臓をもつ。6段ATを介して後輪を駆動、標準のホイールが18インチ(!)だ。前後のスタビライザーを機械的に制御してロールを抑える「ダイナミック・ドライブ」、電子制御ダンパーを使ったアクティブサス「EDC-C」、アンチスピンデバイス「DSC」、ミリ波レーダーで前車との車間距離を調整しながら走る「アクティブ・クルーズコントロール」など、ハイテク満載。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
センターコントロールシステム「iDrive」を採用。センターコンソール上部のディスプレイとトンネルコンソール上のコントローラーを、あたかもパソコンのディスプレイとマウスのように用いて、「エアコン」「ナビゲーションシステム」「オーディオ」「電話」などを制御する。……といったいかにも“先端”なコンセプトとはうらはらに、また、物理的にスイッチ、ダイヤル類の数が少ないにもかかわらず、インパネまわりはやや煩雑な印象を受ける。これは、ディレクトリー構造にもとづく操作方法の理論とは別に、実際の使い勝手を配慮して、「風量」「エアコンの有無」「キーロック」といった日常よく使う機能を、スイッチ、ダイヤルとして残したため。シフターとオートマチックトランスミッションを電気的につなく“シフト・バイ・ワイヤ”を採ったにもかかわらず、ポジションチェンジのために、単なるボタンの羅列でなく、コラムシフトから生えるATシフター(の痕跡)用のゲートを切ったのも、理論と現実のせめぎあいゆえだろう。誤操作の恐れが少ないパーキングブレーキは単なるボタンだ。
なお、トップ・オブ・トップの760Liは、シート、ドアトリム、アームレスト、インストゥルメントパネルにいたるまで本革を用いたフルレザー仕様。天井内張にはアルカンタラが貼られる。ウォルナットのウッドパネルには、細かい寄せ木細工たる「象嵌仕上げ」が施される。
(前席)……★★★★★
「シートポジション」「角度、」「ヘッドレストの高さ」「座面の長さ」「ランバーサポート」と、考え得る限りの調整機能をもつ贅沢なフロントシート。もちろん、すべて電動だ。シートヒーター、メモリー機能も備える。座り心地はいうことなし。ちなみに、ヘッドレストは凹型に左右が折れ、頭部を支えやすくなる。頭が大きいヒト向け。望む、テンピューロ仕様。
(後席)……★★★★★
カタログ上の定員は5名だが、3人座りといった貧乏臭い使い方は想像しにくい。ノーマルボディ140mm増し、3130mmのロングホイールベースの恩恵で、空間的な不満は皆無。前席同様、多様なポジション調整機能をもつ。次なる目標は、後席フルフラット化か?
さて、7シリーズの「Li」は、リアモニターを標準で装備するため、やはり前席同様、丸いコントローラーが設置される。運転に関係ない「エアコン」「電話」「走行情報」などをコントロールできる。後席用エアコン完備。DVDを見る際は、13コのスピーカーを装備する「HiFiシステム・プロフェッショナル・ロジック7」を活かして、車内シアター化が可能だ。日差し(と人の目)が気になるときは、両サイドに2つずつ、そしてリアガラスに用意されるサンシェードを展開すればいい。
(荷室)……★★★★★
広大なラゲッジルーム。床面最大幅124cm、奥行き84cm、高さ50cm。7シリーズのトランクリッドは、電子オープナーでロックが外れるのみならず、開いたリッドの底面(バンパーと接する面)に設置されたボタンを押せば、自動で閉まる「ソフト・クローズ・トランクリッド」。無粋なショファーが「ドン!」と閉めて後席の乗員を驚かすことは……そもそもないか。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
1987年にデビューした「BMW750iL」用5リッターV12以来、排気量を拡大しながら用いられた「M」型ユニットに変わり、ボアピッチから見直されて開発された新型12気筒。新しいブロックは、アルミニウム/シリコン合金製で、ピストンライナーをもたない。バルブのリフト量で空気の流入量を直接制御する「バルブトロニック」に加え、「ダイレクトインジェクション」ことシリンダー内直接噴射が採用された。世界各地で異なる燃料に対応してエミッションコントロールを安定させるため、直噴ながら、いわゆるリーンバーン(希薄燃焼)ユニットではない。
最高出力445psと最大トルク61.2kgmのアウトプットでもって、2.2トンのボディを停止状態から100km/hまでもっていくのに、5.5秒しか要さないという。一方、カタログ燃費(10・15モード)は6.5km/リッターと、先代より改善した。
粛々と回りながら、しかし常にエンジンのさざめきを感じさせ、スロットルペダルを踏み込めば、一転、快音を発してレブリミットまで登りつめる、爽快かつ高級なフィール。ステアリングホイールを握るすべてのヒトに“12シリンダー”を納得させる。ただ、ぞんざいな扱いにも慇懃に応えるかというとそうでもなくて、街なかでは急に立ち上がった太いトルクが、助手席乗員の頭を揺することもある。内燃機関との丁寧な会話を楽しみたい。
組み合わされるトランスミッションは、ZF製6段AT。「ノーマル」「スポーツ」ほか、ステアリングホイール表裏のボタン(表がダウン、裏がアップ)による「マニュアル」モードも備えるが、通常のシフトプログラムに優れるので、ほぼ必要ない。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★
「EDC-C(エレクトロニック・ダンパー・コントロール)」によって760Liのショックアブソーバーは、路面状況に応じて無段階・連続的にダンピングが調整される。ドライバーは、さらに「コンフォート」と「スポーツ」からモードが選べるが、前者でもそうとう“締まった”足まわりだ。ソフトな、分厚い絨毯を行くがごとき乗り心地をして“高級”ととらえるむきには、少々「ゴツゴツする」と感じられるかもしれない。ハイウェイでも100km/h前後の走行が多いわが国では、スポーティに過ぎる、かも。
ノーマルボディの「E65」とは別に、「E66」とのコードネームを得て独自に開発されたというだけあって、5mを超える全長を感じさせない走り。アッパーサルーンとして、ちょっと信じられない軽快な挙動を見せる。ただし、それはハンドリング面でのハナシ。運転席からの見切りがいまひとつなため、狭い道などでは、さすがに気を遣う。マンション並の価格がまた、慎重さに輪をかける。
(写真=清水健太)
【テストデータ】
報告者:webCG青木禎之
テスト日:2003年3月11日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式: 2003年型
テスト車の走行距離 :1788km
タイヤ :(前)245/50R18 100W/(後)同じ(いずれもMichelin Pilot PRIMACY)
オプション装備 :−−
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態 :市街地(4):高速道路(5):山岳路(1)
テスト距離 :179.8km
使用燃料:41.0リッター
参考燃費:4.4km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。