メルセデス・ベンツA170(FF/CVT)【試乗記】
堂々と「メルセデス」 2005.04.01 試乗記 メルセデス・ベンツA170(FF/CVT) ……262万5000円 メルセデスのエントリー車「Aクラス」がデビュー以来7年を経てフルモデルチェンジを受けた。「コンパクトクラスに革命をもたらした」と謳う初代のコンセプトは、どのように進化を遂げたのか。NAVI編集委員鈴木真人が検証する。235ミリ伸びた全長
もしかすると、初代Aクラスに乗っていた人は、大きな声で「私はメルセデスに乗っています」とは言いにくかったのかもしれない。1997年に登場し、翌98年から日本で販売された「A160」は、どうもはじめのうち評判が芳しくなかった。スタイリング、ドライビングポジション、インテリア、ハンドリングなどすべての面で「メルセデスらしくない」との声が多かったのだ。だから、なんとなく「Cクラス」などほかのメルセデス各車とは別物という雰囲気ができあがってしまっていた。
もちろん、新たにコンパクトクラスに進出したのだから、勝手の違う部分があったのは当然だ。そして、「サンドイッチ構造」に代表される新技術の意欲的な採用も行っていたのに、それまで「らしくない」といわれてしまったのは不幸なことだったように思う。
でも、新しいAクラスなら、堂々とメルセデスを名乗って気恥ずかしさを覚えることはないだろう。パッと見でも、メルセデス感が横溢している。思いっきりオーバーにほめれば、側面のラインはCLSのと同様のものに見える。ただし、チョロQ化されてはいるけれど。初代の特異なスタイリングからすると、ずっと「普通の」形になったようだ。ある種の「寸詰まり感」があった初代に比べ、ディメンションで最も変わったのは全長だ。235ミリも伸びて3850ミリになった。全幅、全高もそれぞれ45ミリ、20ミリと少しずつ伸びてはいるが、比べ物にならない数字である。
先日発表された新しい「ヴィッツ」も、同様に全長が大幅に延長されていた。クラスは違うが、両車とも「ユーザーからの要求」が大きく作用したものと思われる。「小さいことの価値」よりも、やはり「ユーティリティの充実」のほうが商品としてはアピールしやすいのはよくわかる。ちょっと残念な気もするけれど。
初採用のCVT
「サンドイッチ構造」は受け継がれた。これをなくしては何のためにAクラスを作ったかわからなくなってしまうから、意地でもやめられないところだ。ただ、初代で大きくアピールされていた「燃料電池車化への対応」については、まだ明確なロードマップがあるわけではないようだ。
新たに取り入れられたテクノロジーとしては、メルセデスとしては初採用となるCVTが挙げられる。「AUTOTRONIC」と名付けられたこのトランスミッションは7段のマニュアルモードを備え、通常の「S」とマイルドな「C」の二つのモードを持つ。また、リアサスペンションはトレーリングアーム式に代わり、円弧を描くアーチ状のアクスルと、2本のリンクで後輪の位置を決める、新開発の「スフェリカル・パラボリック・スプリングアクスル」を採用。フロントには「可変制御ダンパー」を備え、操縦性や安定性、快適性を向上させた。
コーナーでの不安感が解消
今回試乗したのは、最もベーシックな「A170」。上級グレードの「A170 ELEGANCE」、「A200 ELEGANCE」ではセンターコンソールやサイドパネルにウッドが使われるが、それがなくても質感に不満はない。ファブリックシートも主張しすぎない意匠で好ましく思えた。後席に男女二人を乗せる機会があったが、少々座面が浅いという指摘があったほかはおおむね好評だった。
運転席の満足度も間違いなく向上している。まず、「腰高感」が薄れたことで、コーナーでの不安感が解消されたことが大きい。また、CVTの完成度がドライビングの印象を良いものにしている。1.7リッターというキャパシティであるから、発進ではもたつきがないとはいえない。しかし、日常のスピード域での滑らかな加速と素直なハンドリングは、この種のクルマにふさわしい出来映えだと思った。多少不満があるとすれば、路面が悪いところでの乗り心地だが、それも許容範囲である。
実用車としての能力、メルセデスという信頼性という意味で、新しいAクラスは今までよりも多くの人に受け入れられる資質を備えている。「コンセプト」への傾倒でクルマを選ぶ向きは物足りなく思うかもしれないが、これはたしかに商品としての「進化」なのだ。
(文=NAVI鈴木真人/写真=高橋信宏/2005年3月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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