トヨタ・ハリアー(CVT)/クルーガー・ハイブリッド(CVT)【試乗速報(前編)】
200kWの快楽と責任(前編) 2005.03.30 試乗記 トヨタ・ハリアー(CVT)/クルーガー・ハイブリッド(CVT) ……501万600円/436万8000円 名実ともに、ハイブリッドでアドバンテージを獲ったトヨタ。SUV「ハリアー/クルーガー」に追加されたハイブリッド版を、『webCG』大川悠は“豪快、無敵のSUV”と評した。“SUVハイブリッド”の意味
トヨタはこれで、完全にハイブリッドに関しては世界中の他メーカーを突き放した。と、同時に、ハイブリッドのリーダーとして今後どのように戦略を進めていくか、大きな責任も課せられることになった。
ハリアー/クルーガー・ハイブリッドを箱根で乗って考えたことをまとめるとこうなる。
2世代にわたる「プリウス」で、中型乗用車のハイブリッドコンセプトを確立し、「エスティマ/アルファードハイブリッド」でミニバンの可能性を提案してきたトヨタが、次に問うたハイブリッドがSUV。「ハリアー/クルーガー」をベースとしたモデルである。
SUVをベースにした理由はいくつもある。ともかくSUVにおいて最大の弱点になる燃費(とCO2排出)を改善することにより、より商品価値を上げるだけでなく、社会的イメージ、企業イメージも向上できること。スペース的に余裕があるSUVは、プリウスのように専用ボディ設計をしなくても、大改造なしにプラットフォームが流用できること。4WDシステムにおいても新しい試みができること。そして出力やトルクなど、パワーユニットの性格を、燃費を目指しつつ、ノーマル版より高性能にすることで、ハイブリッドとしての新しい価値を呈示することができる……などなどだ。
新型ハイブリッドシステム「THS II E-Four」
このために開発されたハイブリッドシステムは「THS II E-Four」と呼ばれるもの。2代目プリウスの「THS II」に、エスティマ・ハイブリッドのE-Fourを組み付け、さらに新技術を加えたものだ。エンジンは、プリウスはもちろん、これまでのハリアー/クルーガーより大排気量の3.3リッターV6(211ps)。これに組まれるフロントモーターは、THS II以来の可変電圧システムをさらに強化して650Vまで得たうえ、リダクションギアが組み込まれて123kW(167ps)を発生する。リアも同様に650V電圧で駆動する、50kW(68ps)モーターが装着される。リアシート下にマウントされたバッテリーはニッケル水素だが、水素槽は樹脂モジュールから、金属製のいわゆるメタルハイドライドとなったために、小型化と高性能化を両立した。
システムの動作モードを簡単に説明すれば、アイドリング時はエンジン停止。発進直後だけ前後のモーターで四駆となる。低速走行では前モーターのみ、通常走行は前モーターとエンジン、四駆時や全加速時は前後モーターとエンジンによって駆動。そして減速、制動時に回生ブレーキがバッテリーをチャージする。
豪快、無敵のSUV
というような技術解説をはじめると長くなるから、ともかくハリアーに乗って走り出そう。
3.3リッターというノーマルより大きな排気量(ただし、アメリカ版ハリアーたる「レクサスRX」にはすでに設定されている)、そして高電圧とリダクションギアで強化されたモーター(しかも電気だから立ち上がりに最大トルクを発生する)からして、ドッカーンとけ飛ばされるような発進を見せるかと思ったら、最初は予想外に穏やかだった。実はこれ、意図的に演出されたものだという。
その代わり、40km/hぐらいから上になると素晴らしい加速を示し始め、ノーマルエンジンのクルマとはまったく違った世界を見せる。80〜100km/hぐらいの中間加速は「ポルシェ・カイエン」を凌ぐという説明通り、まさに豪快で敵なしのSUV。エンジンを高らかに回転させ、前後のモーターを目一杯回して、重いボディを強引に引っ張る。
目前にはタコメーターに代わってkWで表示されるパワーメーターがあるが、「200kW」と描かれた頂点を目指すように飛ばすと、これまでのクルマでは得られない新しい快楽すら感じられるほどだ。
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ハイブリッドの問題点
といっても、当然のことながら、エネルギーは使う。エンジン、前後モーターの全動力源がフルに働くのは、4WD時と全力走行時といわれるが、たとえば芦ノ湖スカイラインを適度な速度で駆け上がっている間は、ほとんど常時、リアのモーターも回っているのが示されていた。
ということは、こういう状態では当然、燃費はけっして良くないし、バッテリーの負担も大きい。実際に箱根峠側からスカイラインに入って登坂を続けると、瞬間燃費数値は1〜2km/リッター台でめまぐるしく変化する。三国峠でクルマを停めて確認すると、バッテリー残量はディスプレイ上では15%近くにまで減っていたし、そこからアイドリングだけで30%ぐらいにまで充電するのに10分ほどかかった。
エネルギー保存の法則ではないけれど、働けば働いた分だけ必要なエネルギーは消費されるということだ。通常のハリアーで同じ運転すればもっと燃費は悪いだろうという見方もできるが、実は通常のハリアーではこれだけ速く走れないし、こんなに重くもない(ハイブリッドは約150kg増)から比較はできない。
それに理屈の上では、上り坂と同じだけ下り坂はある(一方通行を計算しなければ)。場合によってガソリン消費はゼロなのだから、どこかで釣り合いが取れることになる。
下りといえば、ブレーキの容量不足は気になった。簡単に言うと、重いこともあってフェードすることがあるのだ。これは実はハイブリッドの一つの課題なのだと、後でエンジニアの方に教えていただいた。回生ブレーキを効率的にすることと、ブレーキキャパシティを充分に取ることは、ときに背反関係になるという。さらにフルに電気のパワーを使った後バッテリーは高熱になり、チャージ効率も落ちるのだという。
「ハイブリッドというのは、まだまだ先が長いですね。問題点を解決し、より改善していけばいくほど、またパワーと燃費を求めれば求めるほど、また別の問題が出てくるんです」と聞かされた。(後編に続く)
(文=webCG大川悠/写真=高橋信宏/2005年3月)
・トヨタ・ハリアー/クルーガー・ハイブリッド(後編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000016538.html

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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