BMW 120i(6AT)【試乗記】
“1”より下に期待して 2005.02.03 試乗記 BMW 120i(6AT) ……461万円 BMWのエントリーグレードたるコンパクトハッチ「1シリーズ」。“1”の数字に、ちょっとした期待を抱いて試乗した『webCG』本諏訪裕幸は、たしかに“駆け抜ける歓び”を実感したのだが……。想像と違った
「期待がはずれた」
BMWの新型「1シリーズ」が発表されたとき、そう思った。
2004年9月に発売された1シリーズは、「誰が見てもBMW」というルックス&スペックを持つ、BMWのボトムレンジを担うモデル。50:50の前後重量配分、FRレイアウトなど、BMW車には必ず目にするワードはもちろん、BMWらしい技術が惜しみなく使われている。すなわち、吸気量を制御するバルブトロニックや、バルブタイミングコントロールのダブルVANOS、可変インテークマニフォルドを持つ共鳴過給吸気システムをエンジンに投入(120i)。さらには、ステップロトニック付きの6段ATや、前ダブルジョイントストラット/後5リンクのサスペンションを持つ新開発のプラットフォームが奢られる。
「上級サルーンがすばらしいのは当たり前。コンパクトカーにこそ注目せよ」と教わったリポーターは、1シリーズにここまでの技術を注ぎこむ、BMWの意気込みに敬服した。
つまり期待はずれだったのは、クルマの性能のことではないのだ。120iの価格は366万5000円。「アウディA3 FSI Sport(347万円)」よりまだ高く、「ゴルフGT(299万2500円)」より50万円、「フォード・フォーカストレンド(265万6500円)よりおよそ100万円高いというプライスタグを付ける。試乗車はさらにオプションを装着し、461万円と、コンパクトカーとは思えない価格になった。
そろそろ市場に出まわる予定の、同2リッターの118i(129ps/18.4kgm)、と1.6リッターの116i(115ps/15.3kgm)でさえ、それぞれ324万5000円と288万8000円。プレミアムな価格に私は肩を落とした。
高級車に乗っている
深くえぐれた、ダイナミックな造形を持つサイドパネルを伺いながらドアを開ける。斜めにズバッとこれまた大胆にレイアウトされたグリップを握り、ドアを閉めると外の喧騒とは無縁の世界。BMWの室内密閉性はあいかわらず高く、プレミアムカーには欠かせない要素となる静けさがもたらされる。
シートに腰を下ろすと、髪の毛が天井に触る。ルーフラインを低くとったため、室内高もあわせて低くなり、身長176cmのリポーターが前席に座ると頭上が気になってしまう。上下はもちろん、前後に大きく動くステアリングで、スポーティなドライブも楽なドライブにも適した運転姿勢をとることができる。オプションで用意されるシートヒーターはお勧めだ。座面だけでなく背中まで温かくなり、冬にエアコンを付けなくても快適。喉を痛めやすいリポーターにはもってこいの装備である。
ステアリング、ペダル、セレクターレバー。すべての感触が重い。スポーティかつ、高級に感じる適度な重さである。シルバーのパーツを巧みに使ったインパネや、左右非対称のコンソール部分も魅力的で、現行3シリーズより質感は高級感にあふれている、と思った。
多少頭上の狭さが気になるものの、シートに着席するだけで「高級車に乗っている」という空気に包まれる、1シリーズ。ショールームで腰掛けるだけでも体感できるので、是非試して欲しい。
ボディカラーにはダークな色を中心に、11の色を用意。さらに11パターンの内装色を組みあわすことができる。BMWが推奨しないという、アンマッチの色合わせも選択できるそうだ。
プレミアムはいらない
走り出すと気がつくのは足まわりの硬さ。試乗車はオプションとなる17インチランフラットタイヤを装着しており、さらにノーマルより15mm車高を低くするスポーツサスペンションが装着されていた。16インチ+ノーマルサスペンションで不満がない人は、そのままの方がいいだろうと想像する。
高速道路では一転、その硬さは気にならなくなる。150ps/6200rpmのエンジンパワーは、豪快な加速を見せることはないが、6段ATのスムーズなシフトアップで、じゅうぶん早く希望の速度に到達する。エンジン音、排気音ともにスポーティモデルを強調した大げさなものではなく、ジェントル。移動中はオーディオを存分に楽しむことができる。なお、オプションとなるプロフェッショナルHiFiスピーカーシステムが奏でる音は独特で、ミニバンなどの大きな空間にいるかのような音響を演出していた。
山道では、予想に反さない素直なライントレースができる。やはりFRというレイアウトがもたらす恩恵が大きかった。FRを採用する多くの高級サルーン同様に、上質なステアリングフィールをもたらし、同セグメント他車では決して味わえないものを与えてくれる。ロール量は少な目。スパッと切れ込むコーナリングでも、スタビリティの高いリアサスペンションがふんばってくれる。路面への追従性が良く、凹凸などを敏感にステアリングへ伝えてくれるのも、運転を楽しむドライバーには格好だ。
1シリーズの性能は、期待以上のものだった。が、それでも私は「駆け抜ける歓びに、プレミアムはいらない!」と心で叫んでいた。価格がひっかかっている。
ここしばらく7、6、5、3というシリーズで落ち着いていたラインナップ。その下の数字を待ち望んでいた庶民にとっては、痛いプライスだ。まあだからこそ“プレミアム”なわけではあるが。
“1”を使ってしまったからには、その下に期待を持つこともできない。やはりプレミアムブランドであるBMWには、ボトムレンジでも手が届かないのか……。どうしても“1”の下が欲しい。
しかし、「Z3」よりベラボーに高い「Z1」なんてクルマもあったっけ。そんなわけで“2”あたりに、まだお安いモデルが出るのでは……と、どんでん返しに期待する自分がいる。
(文=webCG本諏訪裕幸/写真=荒川正幸/2005年1月)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

本諏訪 裕幸
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。