ポルシェ・ボクスター(5MT)/ボクスターS(6MT)【海外試乗記】
兄貴似、もしくは兄貴以上 2004.11.13 試乗記 ポルシェ・ボクスター(5MT)/ボクスターS(6MT) 911に続き、弟分「ボクスター」もフルモデルチェンジを受け、986から987へと進化した。新型911に似るフロントマスクを得たニューボクスターの中身はどうなのか? 自動車ジャーナリスト河村康彦がインプレッション。
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よりポルシェらしく
開発コードネーム「987」、すなわち、噂の新型ボクスターがついにリリースされた。本国ドイツで2004年11月27日からデリバリーが始まるこのモデルも、先般デビューした新型「911」(997)に習って(?)、ベースとなる「ボクスター」と、ハイパフォーマンスバージョン「ボクスターS」の2種類が用意される。ちなみに、2人分のシート背後に搭載されるフラット6エンジンの排気量は、前者が2.7リッター、後者が3.2リッターで従来型(986)と同じ。ただし吸排気系のリファインなどにより、最高出力はそれぞれ12psと20psアップとなる、240psと280psを発生する。
新型ボクスターのエクステリアデザインのポイントは、フロントマスクに集約されそうだ。“涙目”から“卵型”になったヘッドライトをはじめ、新造形のエアインテーク類を採用して大きくイメージを変えた。クリアランスライトとフォグライトをヘッドライトユニットから分離し、グンと大型化したインテーク部分に配した新型ボクスターのマスクは、よりポルシェらしさを増した印象だ。
ただ、見方を変えると、兄貴分である911の方向に若干擦り寄った傾向ともとれる。兄貴そっくりな弟に違和感を抱いていた人は、「『ボクスターは“涙目”』というアイデンディティができかけたのに……」と思うことだろう。このあたりは人によって意見が分かれそうだ。
フロントマスク以外のルックスは、従来型を踏襲する。特にリアビューなど、「もうすこし新鮮なイメージをアピールしてもよかったのに……」と思うくらいだ。もっともこの件について、ポルシェ開発陣の見解は「911は40年以上の歳月をかけて、現在の圧倒的なブランド性を築いてきた。対してボクスターはまだ8年。われわれはこのクルマに、まだまだ“イメージ強化”を図る必要がある」というものだが……。
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スバラシイ!
ニューボクスターで走り始めると、やはりというべきか、予想通りにスバラシイ! デビューしたてにもかかわらず高い熟成度すら感じたのは、「部品点数にして50〜55%を、997と共有」。
ボクスターとボクスターSを比べると、絶対的な動力性能で上を行くのは、当然ながら40psのアドバンテージをもつ“S”。だが、今回より感心させられたのは、2.7リッターエンジンを積む“素のボクスター”だった。特に、ティプトロニックとの組み合わせは、同じトランスミッションを積む“S”と較べて、加速力の違いが気にならないほどである。デビュー当初、低速トルクが細く発進が難しいと言われた初代オーナーとしては、ちょっと複雑な心境でもあるが……。
987型ボクスターの国際試乗会は、かつて996型タルガのイベントを開催した、オーストリア南部の街クラーゲンフルトで開かれた。テスト車として用意されたクルマはいずれも、オプション設定のアクティブダンパー「PASM」と、標準プラス1インチ増しのシューズを装着する。さらに、ノーマルボクスターのMT仕様は標準の5段MTではなく、オプションの6段ギアボックスを搭載していた。
997で初登場したPASMは、加速度や操舵角、車速やエンジン出力などをパラメーターに、ダンパー減衰力を5種類の曲線から電子制御で瞬時に選択するというアイテム。ボクスターのそれも基本動作は997と同じで、「ノーマル」と「スポーツ」の2種類を任意で選択できる。
997の乗り心地を劇的に変化させたPASMだが、ボクスターでもその効果は抜群だった。テスト車がノーマルで18インチ、“S”は19インチと1サイズアップ、先代の標準と較べてふたまわり大きいシューズを履くにもかかわらず、乗り味は「しなやか」と表現できるもの。どんな路面のアンジュレーションにもぴたりと追従し、常に高度な接地感を味わわせてくれる。微舵領域での応答性が911よりも明らかにシャープなのは、さすがミドシップ。そこから先の回頭感も素直そのものだ。
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2つの“困ったチャン”
ソフトトップは、手動のロック機構も含めて従来と同じ。軽量化の要求もあり、911のような全自動化は今回もおあずけである。ただし、50km/hまで開閉動作が続行するロジックが加わったのは朗報だ。トップ機構に負担を与えそうなので悪路での作業は慎みたいが、それでも開閉動作に完全停止が要求されないのは、実際に使うと便利このうえない。
そんな魅惑的な新型ボクスターにも弱点はある。ひとつは、ティプトロニックに進化が感じられなかったことだ。
ポルシェのティプトロニックは2速発進がデフォルトで、アクセルペダルをほぼ床まで踏み込まないかぎり1速でスタートしない。そもそもトルコン式の5段ATがベースだから、実質的な使い勝手が4段ATと同じになってしまう。こうなると、さすがに変速時のエンジン回転数の変動が大きく、ポルシェのなかでは非力なボクスターの場合、端的に言って、MTとティプトロニックの動力性能差が大きく感じられるのだ。
もう一点の“困ったチャン”は、新デザインのドアミラー。ステータイプでスリムになったこのアイテムだが、電動格納どころか、スマートに可倒させることもできない。実はこれ、997にも共通するウイークポイントなのだ。ケースに内蔵のステーで倒した位置をキープできるものの、いちいち降車しなければ不可能な作業である。日本のインポーターであるポルシェジャパンの威光も、そこまでは届かなかったのか……。
(文=河村康彦/写真=ポルシェジャパン/2004年11月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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